【書評】『中国人との「関係」のつくりかた』(デイヴィッド・ツェ・古田茂美)

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 お薦めの本の紹介です。
 デイヴィッド・ツェさんと古田茂美さんの共著『中国人との「関係」のつくりかた』です。

 デイビッド・ツェさんは、香港出身で、国際マーケティング、中国マーケティングの権威です。
大学で経営学を専攻し、その後米国に渡って経営学修士(MBA)と経営学博士(Ph.D)を取得、世界を舞台に活躍されて現在は香港大学商学院国際マーケティング学部長を務められています。

 古田茂美(ふるた・しげみ)さんは、同じく大学で経営学を専攻し国際関係学博士(Ph.D)を取得、香港の対外貿易促進を目的に設立された準政府機関である香港貿易発展局香港本局に初の日本人スタッフとして入局されています。
 現在は、同局日本主席代表を務められています。

中国人の二つの行動原理


 中国とのビジネスを成功させる。
 そのためには、中国人のなかに自然に根付いている、二つの「行動原理」を理解する必要があります。

 その二つとは、一つが、孫子の兵法。
 もう一つが、「グワンシ」です。

 孫子の兵法については、兵法三十六計などで知られる、いわば、策略・謀略の世界。中国人にとっては当たり前のことなのですが、日本人にとっては、ずるいとか冷たいとか感じられてしまう中国人の一面です。
 そして、もう一つの「グワンシ」。これは初めて聞く言葉かもしれません。けれども、中国人は賄賂で動く。裏口入学・就職はあたりまえ。個人的人脈で動く。親切にしてくれることもあるけれど、メンツを潰すとたいへんなことになる・・・・こうした言説についてはどうですか?聞いたこと、経験したことはありませんか?
 これらが、「グワンシ」と呼ばれる中国人の行動原理のもう一つの面で、漢字で書けば、「関係」。そう、文字どおり、中国人の人間関係のつくり方の原理であり、本書のテーマです。

 ひと言で言えば、兵法は相手を突き放すベクトル、グワンシは相手を内側へ取り込もうとするベクトルです。まず、中国では、一見矛盾する、この二つの行動原理が並存していることを知っておいてください。

 『中国人との「関係」のつくりかた』 はじめに より デイヴィッド・ツェ・古田茂美:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 孫子の兵法は、日本でも有名で、内容も知られています。
 一方、「グワンシ」に関しては、日本人には、馴染みがないですね。

 本書は、「グワンシ」について、いろいろな例を用いながら、わかりやすく説明した一冊です。
 ここでは、いくつかピックアップしてご紹介します。

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グワンシを形成する三つのベース


「グワンシ」のルーツについてです。

 中国も、日本同様、儒教の国です。
 歴史的に、孔子の教えから大きな影響を受けてきました。

 儒教によると、社会おいては、それぞれみな、ある定義された役割が与えられるとされています。

 中国においては、君子、官吏、父親、夫、息子という五つの役割があります。
 そして、あらゆる人がそれぞれの立場で、この枠組み(構造)のなかで行動を規定されます。

 中国人の中には、このような考え方が根本的にあり、グワンシ的な関係性を成り立たせています。

 多様な民族が、広大な国土に広がって暮らしている中国。
 国を成り立たせる、つまり、秩序を守って調和を保っていくためには、この「グワンシ」が不可欠です。
 
 グワンシの特徴は、「移転が可能である」ということ。
 そして、「非常に強力な互恵関係をもつ」ことが挙げられます。

 グワンシは、どのようなときに形作られるものなのでしょうか?

 グワンシをつくるものは、三つあります。
 一つは血縁によるものです。すなわち、同心円の中心となっているものが、家族を中心とする血縁だということです。
 これは、いわゆるエリート家系を例にとればよくわかると思います。
 現代中国には、エリート・プリンス・グループ、太子党というものがあります。かれらの父親、祖父が非常に重要な人物であったり、指導者であったということで、国民はかれらの親に大きな尊敬の気持ちをもっています。
(中略)
「グワンシ」のもう一つのベースは、ルーツです。出身地が同じだったり、出身大学が同じだったりといったルーツです。
 中国の有名大学といったら、清華大学です。官僚の多くが清華大学の卒業生で、清華大学出身ですねということで、お互いに関連をもちあうわけです。日本の東大の法学部卒業の人たちと同じようなものです。
(中略)
 グワンシのベースの三つ目は、志です。過去はともかく、将来に向けて、同じような志をもっていることです。先ほど例にあげた温州商人たちは、共通の資源や願望をもった人たちであったとも言えます。かれらは、共通の言語で強力な兄弟関係を育成し、地域の利害をコントロールする信用サークルを形成し、海外にも進出しました。

 『中国人との「関係」のつくりかた』 第1章 より デイヴィッド・ツェ・古田茂美:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

「血縁」「ルーツ」「志」。

 日本の個人的なつながりについても、同様のことが言えます。
 ただ、中国人にとって、この三つの持つ意味が、日本とは比較にならないほど、大きいです。

 贈収賄などの汚職スキャンダルがなくならないのも、この「グワンシ」が大きく影響しているからです。

グワンシと日本の「和」は、どこが違うのか?


 著者は、「グワンシ」と日本人の関係性との違いについて、文化的な面から、以下のように述べています。

 日本の文化の一番の特徴は、集団優先である、ということだと思います。
 儒教の価値観は、日本と中国で共有しているわけですけれども、歴史のなかで、日本は、幕府を設けるなど、さまざまな集団づくりをしてきました。そして、現在の集団は会社であり、企業ベースでグループがつくられています。
 すべては集団優先。そして個人は後回し。そういう状況のように見えます。
(中略)
 これに対し、中国は逆です。すべて個人が優先です。集団は後回し。個人のほうが集団より重要なのです。
 中国人にビジネス上のアプローチをすると、彼は、まず、こういうふうに考えます。その提案の、自分にとっての利益は何なのか?それから、その次に考えます。私の会社にとっての利益は何なのか? と。
 つまり、優先順位が違うのです。まず、個人、あるいは家族の生き残りが優先され、その利益の最大化を図ろうとする、それが中国人です。

 『中国人との「関係」のつくりかた』 第2章 より デイヴィッド・ツェ・古田茂美:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 日本の場合には、信頼は、グループや集団同士で交わされることが多いです。
 しかし、中国の場合、信頼というと、個人のレベルに限られます。

 このような考え方は、長い中国の歴史を通して身についていった考え方です。
 多くの戦乱のなかで、まずは自分の家族を優先せざるを得なかったことが背景にあります。

「外人」が「自己人」になる四つの段階


「よそ者」である私たち日本人が、中国人とグワンシを築いていくうえで知っておくべき概念。
 そのひとつが、「自己人」(ズージーレン)「外人」(ワイレン)です。

「自己人」は、「縁」や「人情」などで形成された「家」やそのほかの小社会の構成員です。
 つまり、グワンシを築いてきた人たちのことです。

「外人」はそれ以外の人たちすべてです。
 中国人にとって、「外人」とは、「信用」も「安心」もできない人々ということになります。

 日本人が中国人とグワンシを結び、「自己人」として認められる。
 そのためには、次の四つのステップを踏む必要があります。

 まず、第一段階では、規範的行為に従って行動するだけでいいから、とにかく、交流すること。ただし、ここでいう「規範行為」というのは、たとえば宴席に招待する、状況にあわせて礼品を贈るなどで、これが非常に重要です。

 第二段階から、相手の行動言動の信憑性が評価されることになります。誠実性がテストされるのです。この「誠実性」を確認するプロセスというのは、中国人が人と関係を結ぶ際には欠かせないもので、人々は、それを経て真のパートナーを選択していきます。
 まず、最初に、相手の言っていることが真実であるかどうか、つまり嘘を言っていないかどうかを確認する段階です。
(中略)
 ここで、もし、相手が嘘を言っていないことが確認されたら、第三段階に移ります。ほんとうにグワンシを結んでいく意思があるかどうかを確認しあう段階です。
 円卓での宴席だけでなく、さまざまな贈り物(「礼物」)が送られたり、重要なパーティに招待されたり。家族とのつきあいもこのころから始まります。相手はほんとうに信頼のおける人間か、騙されるようなことはないかと、相手に対する全人格的チェックが始まるわけです。
(中略)
 この交流のなかで、たとえば苦労をともにしたりという経験や精神の共有があったりすると、次の最終的な段階に到達する可能性が高まります。
 そこでは、互いの懐疑心がとれるばかりか、それまでは、お互いをつなぐ要素が相手がもつ有効な「資源性」、言ってみれば、ある意味、ギブアンドテイクの物理的利得であったのが、その「資源性」が「情愛的要素」にとって代わられます。この「資源」が「情宣」にとってかわった段階が最終の第四段階です。つまり、「人情」で結ばれた「自己人」の関係です。

 『中国人との「関係」のつくりかた』 第4章 より デイヴィッド・ツェ・古田茂美:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

「中国人は利己的だ」
「中国人は薄情で、冷徹だ」

 中国でのビジネスで、このような意見を聞くことが多いです。
 それは、グワンシを築く努力をしていなかったことが大きな原因です。

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 著者は、漢字を利用し、儒家的思想に理解が深い日本は、欧米人よりも「グワンシ」の概念を理解しやすいのではと指摘されています。

 中国人の個人主義、利己主義に見える態度。
 それも「グワンシ」という概念を知ることで、腑に落ちる部分が多くあります。

 国内の需要が冷え込み、経済的に中国の巨大マーケットに依存せざるを得ません。
 これからも、中国人相手のビジネスは、増えていくことでしょう。

 中国人の信頼を勝ち得て、成功するには、彼らの行動原理をしっかり見定めて、アクションを起こす必要がありますね。
 
「相手を知り、己を知れば、百戦して危うからず」

 戦もビジネスも、まずは相手を知ることから始めたいですね。

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