本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『チャイナ・ジレンマ』(小原雅博)

 お薦めの本の紹介です。
 小原雅博さんの『チャイナ・ジレンマ』です。

 小原雅博(こはら・まさひろ)さんは、外務省に勤める現役の外交官です。
 アジア大洋州局審議官などを経て、在シドニー総領事としてご活躍中です(2012年10月現在)。

中国とのビジネスは、「諸刃の剣」

 今、世界で最も注目を集める国のひとつ、中国。
 ここ20~30年で世界が驚愕する急激な経済成長を遂げ、世界第2位の経済大国となりました。

 中国は、世界最大の輸出国です。
 また、膨大な貿易黒字により、2兆ドルに迫る米国債を保有する大債権国でもあります。

「世界の工場」として、世界有数の消費大国として、中国の存在感は、今後ますます高まると予想されます。

 中国台頭の影響力は、世界各地に広がっており、隣国の日本も例外ではありません
 経済面において、日本の製造業の多くは、中国なしには成立しないのが事実です。

 しかし、中国との関係は、いい面ばかりではありません。
 最近、たびたび聞かれるようになった、「チャイナ・リスク」という言葉。

 中国の経済成長は、他の国々にとって、ビジネスを拡大するチャンスであります。
 しかし、同時に政治・安全保障リスクを負う「諸刃の剣」となっています。

 本書は、中国の実像に迫り、中国の“光と影”を取り上げて、世界が直面する「チャイナ・リスク」を詳しく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「大復興」する中国

 多くの日本人は、目覚ましい中国の発展を「台頭」と捉えています。

 しかし、中国人は、また違った捉え方をしています。

 この60年を貫く錦の御旗、それは「中華民族の偉大な復興」である。中国の新しい時代を切り開いた二人の指導者、毛沢東と鄧小平が思想や路線で対立しつつも異口同音に唱えたのがこの言葉である。それは、1949年の毛沢東の宣言でも1989年の鄧小平の講話でも圧倒的な存在感を放っていた。
 そして2009年の胡錦濤の講話で、再びこの言葉が響き渡った。10年ぶりとなる大がかりな軍事パレードで国威は発揚し、ナショナリズムはいやがうえにも盛り上がった。中国の「大復興」、それは日本がかつて坂の上の雲を目指して駆け上がったときの熱気、いやそれ以上の活力と高揚を感じさせる。

 『チャイナ・ジレンマ』 第1章 より  小原雅博:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 中国人には、人類の歴史の大半において、世界で圧倒的な力を持つ文明や文化を誇る大国であったという自負があります。
 また、19世紀後半から20世紀前半にかけて、欧米列強や日本の侵略を受け、辛酸をなめたというトラウマもあります。

 中国にとって、欧米や日本に追いつき追い越すことは、再び世界の中心的な存在として輝きを取り戻すということに他なりません。

 小原さんも、今日の中国の発展を「台頭」ではなく「復興」と捉えれば、中国の政治や外交、国民意識をよりよく理解できると述べています。

「世界第二の経済大国」か、「開発途上の大国」か?

  中国は、外交戦略上、“二つの顔”を使い分けています。

 中国は、世界最大の人口とヨーロッパを凌ぐほどの国土を有し、拒否権を持つ国連安保理常任理事国であり、共産党一党独裁の下で社会主義近代化建設を行う「政治大国」であったが、今や世界の工場と市場に変貌した「経済大国」になり、さらには、有人ロケットを宇宙に飛ばす科学技術力や核兵器を保有し、国防費の増大を続け、軍の近代化を進める「軍事大国」ともなった。
(中略)
 これに対して、中国政府は一人当たりGDPの低さ等を挙げて中国が「開発途上の大国」であることを強調する。しかし、日本を抜き去り、米国をも射程に捉えて爆走する経済大国を途上国と呼ぶには躊躇がある。
 購買力平価ベースによるGDP(世界銀行の統計)では、中国は日本の2倍の経済規模を誇る。中国は途上国として扱うには経済的に余りに大きくなり過ぎた。世界での存在感を強めながら依然として途上国の立場を強調する中国に対して国際社会の目は厳しくなっている。
 一国のGDPで見るか、それとも一人当たりのGDPで見るか。「世界第二の経済大国」か、それとも「開発途上の大国」か、中国の位置づけを巡る議論は尽きず、中国と国際社会との間の綱引きは続く。

 『チャイナ・ジレンマ』 第1章 より  小原雅博:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 中国国内では、急激に発展した経済で、農村部と都市部の格差は広がるばかりです。
 また、政治的な腐敗や不正が後を絶たず、社会秩序を脅かす大きな要因となっています。

 中国共産党指導部は、今後も、中と外をにらんだ、難しい経済政策の舵取りをせざるを得ない状況です。

「共青団」と「太子党」

 中国共産党指導部を構成するのは、党中央政治局員と呼ばれる25名。
 その中でも、9名の常務委員(トップ・ナイン)が、最高意思決定機関である党中央政治常務委員会を構成します。
 事実上、中国の政治は、トップ・ナインの合議という形での「集団指導体制」によりなされています。

 しかし、常務委員は、決して一枚岩ではありません。
 日本の政治でいう「派閥」のようなものも存在します。

 よく知られているのは、「共青団」系と「太子党」系という括りです。

「共青団」系とは、中国共産党の青年組織である中国共産党青年団で活躍した人々のグループであり、その第一書記を務めた胡錦濤国家主席や李克強副総理がその代表格である。
 他方、「太子党」系とは共産党幹部の子弟のグループであり、その代表格は習近平国家副主席である。

 共青団と太子党の違いの一つとして取り上げられるのがその経歴である。例えば、太子党系は沿海部を中心に経験を積んできた人が多い。習近平は上海市や浙江省で書記を務め、その前は福建省での勤務が長かった。彼らは沿海部の特徴、すなわち経済成長志向型であるとの見方がある。
 これに対し、甘粛、貴州、チベットで書記を務めた胡錦濤国家主席を始め共青団系は条件の悪い内陸部で経験を積んでくる人が多く、胡錦濤の提唱した「科学的発展観」、すなわち成長至上主義ではなく、民生を重視し環境や人との調和の取れた成長を志向するグループであると色分けされることもある。胡錦濤の信頼が厚いと言われる胡春華内蒙古自治区党委員会書記などはかつて23年間もチベットで過ごした経歴を持つ。

 『チャイナ・ジレンマ』 第2章 より  小原雅博:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 2012年秋の党大会で、共産党の最高権力者が、胡錦濤から習近平へ引き継がれます。

 党中央政治局常務委員に、誰が選ばれるのか。
 それも、習近平の手腕とともに、今後5~10年の中国を占ううえで、重要な要素です。

東シナ海資源開発問題

 中国には、5億人を超えるインターネット使用者がいます。
 彼らが形成する「世論」は、中国共産党指導部も無視できないほど、大きなものです。

 尖閣諸島をめぐる国境問題が注目を集めるきっかけにもなった、東シナ海の資源開発問題。
 それも、そうした「世論」の圧力が、中国の対外政策に大きな影響を与えたひとつの事例です。

 日中両国が権限を有している大陸棚・排他的経済水域(EEZ)が重なる領域での、海底油ガス田の開発。

 2008年6月に合意した日中間の協議の内容について、中国国内のインターネット上で外交部の「弱腰」非難が燃え上がりました。

 日本側は、最近の国際判例の傾向も踏まえ、日中間の東シナ海におけるEEZ・大陸棚の境界画定は「中間線を基に」行うべしと一貫して主張したが、中国側は大陸棚自然延長論に立って「自国から延びた大陸棚の限界である沖縄トラフ(琉球諸島の西側にある溝)西端を境界とすべき」と主張し、平行線を辿った。
 中国国内では、この双方の立場を単純に比較し、①6月の合意は中国側が日本側の主張する中間線まで後退した、②「中国が主権的権利を有する争いのない」中間線西側海域において中国が単独開発を進めてきた白樺(中国名「春暁」)にも日本が出資することになった、つまりは中国側の譲歩だとの批判を招くことになったのである。

 『チャイナ・ジレンマ』 第3章 より  小原雅博:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 対応を間違えれば、いつ、その矛先が自分たちに向けられるかしれない。
 そんな危機感が、中国共産党指導部にはあります。

 民衆の「反日感情」も、できればこれ以上刺激したくない。
 それが彼らの本音でしょう。

 国民感情を刺激しないよう、できるだけ穏便に済ませたい。
 ただ、インターネットを通じた“世論の声”を意識すると、強硬な姿勢で相手国に向かわざるを得ない。

 中国政府内部の「ジレンマ」が浮き上がってきます。

「歴史」を超える交流へ

 経済的な関係において、切っても切れない仲の日本と中国。
 政治的問題や過去の歴史問題などで、その共存関係が損なわれることは避けたいです。

 小原さんは、日中間の国民感情や世論に少なからず影響を与えるひとつとして、「国境を超える文化」を挙げています。

 ヒトや文化の交流は両国民の相互理解や親近感を深める。特に青少年交流は重要である。日本は毎年中国の高校生1000名以上を短期または長期に日本に招聘し、日本の青年を中国に派遣している。私も中国の高校生たちが来日するたびに中国語で歓迎の挨拶をし、会話を楽しんだ。ほとんどすべての高校生が初めて日本に来て日本を体験するが、訪日前には日本にあまり良い印象を持っていなかった生徒が少なくない。それがホームステイを含む10日間の旅で日本と日本人への好感を持って帰国する。
(中略)
 現在あるいは将来の好ましい体験によって過去の忌まわしい記憶を癒していく努力がなされなければならない。その意味で、国民一人一人が中国の人たちと交流し協力することで友好の記憶を積み上げていくことが重要である。

 『チャイナ・ジレンマ』 第3章 より  小原雅博:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 中国では、日本の音楽やファッションなどに共感する若者が増えています。

 とくに80年代生まれの「80后(パーリンホウ)」の若者は、反日教育を受けた世代です。
 モノや情報に囲まれて育ち、日本の若者に近い感覚を持っています。

 小原さんは、こうした若者の間での交流がもっとなされて良いと強調します。

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 ますますグローバル化が進む現代社会や国内景気の長期低迷、少子化問題。
 それらを考えると、中国の影響を排除した日本を考えるのはまったく現実的でないのは明らかです。

 日中関係を展望することは、日本、そして中国の将来を展望することです。

 小原さんは、日本と中国の現状を直視し、その行方を展望することによって、中国との関係のあるべき姿を構想していかなければならないとおっしゃっています。

 相手を知ることによって、より付き合い方が見えてくる。
 それは、人間でも国でも一緒です。

 “見知らぬ隣人”に恐怖や反感を抱くのは、素性を知らないだけ。
 感情が高まっているときこそ、お互いから目を背けずに、冷静に真正面から向き合いたいですね。

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