【書評】『われ日本海の橋とならん』(加藤嘉一)

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 お薦めの本の紹介です。
 加藤嘉一さんの『われ日本海の橋とならん』です。

 加藤嘉一(かとう・よしかず)さんは、コラムニストです。

中国との出会い


 加藤さんは、自分自身のことを“ランナー”である、と表現しています。
 まさにその通りの、疾風のごとき人生を歩んでいます。
 加藤さんは、高校時代は陸上部で、関東の大学に進学して、箱根駅伝を走ることを本気で目標にしていたこともあります。

「加藤嘉一とは何者なんだ?」
 そう聞かれたら、僕は迷わず答えるだろう。 
 すなわち、加藤嘉一は「ランナー」なのだ、と。
 もはや中国、特に北京は、僕にとって第二の故郷と呼ぶべき場所になっている。21世紀初頭の中国は、いずれ世界史の教科書に時代の分岐点として特筆されることになるだろう。その現場に立ち会えた幸運に僕は感謝しているし、自分には日本人としてこの国の果たす役割があると信じている。
(中略)
 その場にじっと留まっていれば、空気に流され、色に染まることもあるだろう。でも、僕は風を切って走り続けている。僕の周りの風景は、いつだって流れている。
 そして走り続けるからこそ、僕は何色にも染まることなく、自分でいることができるのだ。走ること、ランナーであり続けることは、僕とってなによりも重要なスタートラインなのだ。

 「われ日本海の橋とならん」 はじめに より 加藤嘉一:著 ダイヤモンド社:刊

 そんな加藤さんに大きな転機が訪れたのは、高校卒業間近。
 ふとしたきっかけから、北京大の幹部の目に留まり、同大学の国費留学生として招待されました。
 留学した加藤さんは、中国語や中国の内情や風習、中国人のモノの考え方などを猛勉強します。

 加藤さんの名が、中国全土に知れ渡ったきっかけ。
 それは、2005年に起こった反日デモに対する、テレビの生放送での発言でした。
 その後、加藤さんは、中国在住の日本人代表として、あらゆる方面で活躍続けています。

 本書は、そんな加藤さんが見た、“今の中国”の実情をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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中国人の思想や言論の自由について


 思想や言論の自由度についてです。

 中国は、共産党の一党独裁政権による統治が続いています。
 共産主義経済が崩壊し、自由主義経済へと移行した現在も変わりません。

 厳しい政府の統治下に置かれて、言論の自由もほとんど許されない、自由のない国。
 それが、日本での中国のイメージかもしれません。
 でも、それはまったく違います。

 彼らには、いくつかのタブー(天安門事件についてや、共産党指導部を直接批判することなど)を除いて、公の場でも自由に議論できる雰囲気があります。
 現在、すでにインターネット使用人口が5億人を超える中国。
 そのなかで国内外での出来事について、熱い議論が交わされています。

 ネット上世論の影響力は、無視できないほどの大きさです。
 共産党指導部たちでさえも、十分注意を払っている状況です。
 

 続いて、中国メディアの構造について簡単に触れておきたい。中国のメディアは、大きく次の3層に別れている。
  ①官製メディア
  ②地方メディア、市場化メディア(中国では「市場化媒体」という)
  ③インターネットメディア
(中略)
 そしてここが重要なのだが、国内世論に対する影響力は「③インターネット、②地方・市場化メディア、①官製メディア」の順番となっているのだ。

 「われ日本海の橋とならん」 第1章より 加藤嘉一:著 ダイヤモンド社:刊

 少し前に起こった高速鉄道衝突事故の際には、③インターネットだけでなく、②地方・市場化メディアまでもが政府批判に回りました。
 これには、共産党指導部もかなりビビッたことでしょう。

 中国は、せいぜい数十万の共産党員が、10億人の人民を束ねています。
 いかに国民の不満を分散し、共産党批判を避けるか。
 共産党指導部にとっては、それがすべてと言っていいでしょう。

 いまの中国においては「情報を隠すメリット」よりも、「情報の隠蔽が露呈するデメリット」のほうが大きいのである。そしていくら当局が隠そうとしても、情報は外国メディアやインターネットメディアを通じて漏れ出てしまうのだ。もし情報を隠していたことが明るみに出てしまえば、それこそ民衆の怒りに火を点けることになる。共産党の信用力と求心力が急降下してしまう。だからこそ、人民日報やCCTVのような官製メディアでも、いまさら党を絶賛するような「見え透いた嘘」は敬遠される。環境破壊にせよ、国内にどんな問題が横たわっているかなんて、中国人なら誰だって知っているのだ。

 「われ日本海の橋とならん」 第1章より 加藤嘉一:著 ダイヤモンド社:刊

 ネット世論という、市民の声が政治に直接反映される中国。
 独裁政権ですが、ある意味、かなり民主的です。

 テレビや新聞の大手メディアの影響力が強過ぎる日本。
 ある意味、情報操作されている国と言えなくもありません。

中国人の「反日思想」について


 「反日思想」についてです。

 では、日中間に靖国神社問題や尖閣諸島問題などが持ち上がった際、愛国教育を受けてきた若者たちになにが起こるだろうか?
 当然ながらナショナリズムに火が点いてしまう。インターネット上には過激な意見が溢れ、反日デモも起きるようになる。難しいのは、これが単なる「反日」ではなく、歴然とした「愛国」行為であることだ。
(中略)
 だが中国において、反仏であれ反米であれ、その動きが「反政府」につながる可能性は皆無に等しい。たとえデモが起きたとしても、政府が沈静化に乗り出せば、ほどなく収束に向かう。なぜなら、そこに正義はないからだ。
 しかし、「反日」は違う。ナショナリズムに駆られた若者たちにとって「愛国は正義」であり、「反日も正義」である。少なくとも、彼らはそうしたロジックに基づく教育を受けて育ってきた。反日デモを力ずくで鎮圧された場合、彼らは猛烈に反発するだろう。反日を唱えている以上、正義は自分たちの手にあるのだ。
 これは愛国教育という諸刃の剣がもたらした、まったく新しいリスクである。

 「われ日本海の橋とならん」 第1章より 加藤嘉一:著 ダイヤモンド社:刊

 現代中国は、中国共産党率いる中国が、第2次世界大戦で軍国主義の日本に勝利した結果、誕生した。
 このような“建国神話”が大元にあり、今でも共産党の存在意義の根本を占めています。

 天安門事件で窮地に陥った苦い経験から、共産党は愛国心を高める教育方針を強めます。
 その結果、少しの外交上の摩擦でも、ナショナリズムの反動で、中国に敵対する国への激しい反発が起こるようになりました。
 ことあるごとの激しい反日運動は、そんな背景があります。

 ただ、日本への反発(反日)は、共産党が表だって制止する大義名分がありません。
 反日が高まり過ぎて、いつ批判の先が自分達に向かうか分からない。
 だから、彼らとしても触れないでいいなら触れたくない部分です。
 反日は、(表向きはともかく)共産党の指導方針ではなかったんですね。

「暇人」の存在について


 “暇人”という人種の存在についてです。

 僕の言う暇人は、都市部で生まれ育った地元住民のことである。都市部といっても北京や上海のような国際都市だけでなく、中国のあらゆる地方にはそれなりの都市があり、そこにはしっかりと地元の暇人がいる。
 そして彼らは小さいながらも自分の家を持っている。そのため、地元から離れようとしない。移動の自由など求めないのが暇人だ。
 さらに彼らは極力働こうとしない。住むところがあり、着るものにも頓着しないのだから、最低限食っていけるだけの稼ぎがあればいいと考えている。
(中略)
 じゃあ、いったい中国全土には何人くらいの暇人がいるのだろうか?
 僕の個人的な試算によると、少なく見積もっても2億人。最大で4億人。おそらく3億人前後と見るのが妥当だろう。

 「われ日本海の橋とならん」 第4章より 加藤嘉一:著 ダイヤモンド社:刊

 中国は広いですね。
 こんな人たちが数億人も生活しているなんて。

 彼らは多くの執着を捨てています。
 そのため、お金などの利害では動きませんし、共産党の脅しも効きません。
 だから、共産党指導部は彼らを恐れるのでしょう。
 彼らの生活を脅かさないように、最善を尽くしているはずです。

日本の若者よ、海外へ出よ!


 中国に拠点を移して生活して改めて、“日本という国への愛”を自覚することが出来たという加藤さん。
 そんな加藤さんも、日本の行く末について強い懸念を示しています。

 加藤さんは、団塊ジュニア世代が60歳を超える2030年を一つの目安にしています。
 それまでに変われなければ、日本は持ちこたえられないと述べています。
 そして、この震災でその時計の針は10年進んでしまったとも。

 加藤さんは、本のタイトルにもあるように、中国と日本を繋ぐ橋の役目をしたい、という大きな目的を持って日々活動しています。
 その志の大きさが、加藤さんをここまで大きく成長させたのでしょう。

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 最後に、加藤さんは日本人にメッセージを送られています。

 厳しい言い方になってしまうが、こんな「空気」に包まれているうちは本当の意味での「個」は育たない。「個」を育てたければ、とにかく海外に出ることだ。何者でもない自分、ちっぽけな自分を全身で感じて、そこから自分の足で立つことだ。
 僕はいつも北京大学の学生たちに、若者は3つのステップによって成長するという話をしている。
 第一段階は「自立」すること。たとえ心細くても、自分の足で立つこと。
 続く第二段階は、個としての「自信」を掴むこと。 
 そして第三段階が、本当の意味での「自由」を手にすることである。
 親や学校、あるいは会社に頼って生きているうちは、自信も自由も手にできない。自由がほしければ、あえて自分を厳しい環境に追い込み、自分の足で立つことだ。
 日本の若者がそれをやるには、海外に出るしかないと僕は思う。これは自分の経験から言えることだ。
 (中略)
 いま、海外に出ることを尻込みしている日本の若者に言いたい。
 海外に出たあなたは、必ず大きな財産を手にすることになる。語学力なんてちっぽけなものではなく、もっと大きな自信と自由を獲得する。そしてきっと、日本という国を愛する心も芽生えるはずだ。
 若者には体力があり、時間があり、失うものをもたない強さがある。逆にいうと、若者の武器なんてそれくらいのものだ。社会に不満があるのなら、将来に不安を抱えているのなら、自分の武器をフル活用しよう。体を張って、時間を使って、リスクを選ぶのだ。

 「われ日本海の橋とならん」 第5章より 加藤嘉一:著 ダイヤモンド社:刊

 また、以下のようにおっしゃっています。
 

 とくに、10代や20代の日本人に問いかけたい。
 巨額の財政赤字を抱えた日本に、景気の低迷が続く日本、そして震災に見舞われた日本の復興と再生を直接的に担う「当事者」は、いまの50代や60代ではなく、みなさん自身なのだ。
 景気のよかった時代を知らないみなさんは、日本の将来に漠然とした無力感を抱いているかもしれない。生まれた時代が悪かったと思っているかもしれない。でも、愚痴や不満を並べている暇があったら、まずは立ち上がろう。与えられた環境の中で最善を尽くしてみよう。
 僕は同世代であるみなさんに大きな期待を抱いている。一緒にできることがあるなら、なんだってやりたい。そう、いまは北京に拠点を置いているけれど、僕だってこの国の再興と再生を担う「当事者」なのだ。

 「われ日本海の橋とならん」 第5章より 加藤嘉一:著 ダイヤモンド社:刊

 30代はスルーですか。
 イマイチ、存在感がないんでしょうか。
 私たちもここらで存在感を示さないと、いつの間にか“彼らの時代”になってしまいますね。

 中国は日本にとって、人的にも、経済的にも、軍事的にも、欠かすことのできない隣人です。
 中国にとっての日本も同様です。
 だから、日本人も、中国の実情にもっと詳しくならないといけません。

 日本には“チャイナ・リスク”を、中国には“ジャパン・リスク”を、それぞれ抱えています。
 それらを上手く回避しつつ、より良い日中関係をつくる必要があります。

 本書は、現代中国の知る入門書として、最適だと思います。
 多くの人に読んでもらいたいですね。


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