【書評】『リーダーのための! コーチングスキル』(谷益美)
お薦めの本の紹介です。
谷益美さんの『リーダーのための! コーチングスキル』です。
谷益美(たに・ますみ)さんは、コーチ、ファシリテーターです。
リーダーこそ、必要な「影響力」を身につけよう!
「コーチング」という言葉は、世の中に広く浸透してきました。
ただ、実際に「使えるコーチング」を身につけ実践している人は、まだまだ少ない
というのが現実です。
「コーチングは、リーダーにとって、必須のスキル」
理解しているけれど、実際に、どうすればいいのかが、わからない。
そんな人が、大半なのではないでしょうかか。
「リーダーについて唯一言えることは、『フォロワー』(信頼してついてくる人)がいるということだけである」
『プロフェッショナルの原点』(ダイヤモンド社)P.F.ドラッカー、ジョゼフ・A・マチャレロ著、上田惇生訳より引用経営学者ドラッカーは、リーダーである条件をこのように定義しました。リーダーには優秀なフォロワーが必要です。とは言え、「黙ってオレについてこい!」と言ったところで、今どきのビジネスパーソンは、おいそれとついてきません。仮についてきたとしても、「リーダーに言われたから」「仕事ってそういうもんなんですよね」という受け身なメンバーばかりでは、強いチームは作れません。
言わずもがなの変化の速い現代だからこそ、仕事を理解し、チームの目的を理解した上で、自律的に動けるプロ意識をもったメンバーを育てたいと願うリーダーは少なくないはずです。性別、世代、価値観の違いなど、様々な多様性を持つメンバーから力を引き出し、強く、しなやかなチームを作るためには、相手を動かし成長させるリーダーの「影響力」をしっかりと磨き上げることが必要なのです。
「影響力」とは、他に働きかけ、考えや動きを変えさせる力です。もちろん、変えさせると言っても、無理に相手を変えようとするのではありません。相手が自ら変わる手助けをしていくという意味です。
「他人と過去は変えられない」とは、大変よく聞く言い回しですが、それでは困ると思うことはないでしょうか。「ウチの若手、いつまで新人気分でいるつもりだ」
「メンバーみんながもっと自発的に動いてくれるようになればいいんだが・・・・・」リーダーとして、そんなふうに思うことがあるならば。相手に働きかけ、変化と行動、成長を促すコーチングのスキルは、きっと皆さんの強力な武器になるはずです。
『リーダーのための! コーチングスキル』 プロローグ より 谷益美:著 すばる舎:刊
企業が、厳しいグローバル競争の中、確実に成果をあげていく。
そのためには、メンバー一人ひとりの力を最大限に引き出すリーダーの存在が、欠かせません。
本書は、今どきのリーダーが身につけるべき、「本当に使えるコーチングスキル」の実践テクニックをまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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成果を生みだすための戦略的対話「GLOWモデル」
コーチングは、「引き出す」コミュニケーション。
まずは「聞く」ことが大切です。
谷さんは、成果を生みだすための戦略的対話
をするためのフレームワークとして、「GLOWモデル」を紹介しています。
図(下図1を参照)のように、GROWモデルには「Goal」「Reality」「Options」「Will」の4つのフェーズがあり、だいたい次の手順で進めていくのが一般的です。
①Goal「理想の未来」を明確にする
まずは、相手の目標や理想像を明確にするところからです。例えば「英語力向上」であれば、「具体的にどうなりたいのか?」「TOEIC900点突破」「今年中に英語プレゼン3回」など、前項KGIのところでご説明したように、明確な数字に落とし込むことがポイントです。
明確なゴールを設定したら、「なぜそうなりたいのか?」「それを達成するとどんなにいいことがあるのか?」を確認します。「ゆくゆくは海外に赴任したいから」「同僚に英語で頼りっぱなしの自分を変えたい」「語学も堪能な、部門一頼もしいリーダーになりたい」など、ゴールイメージをより具体的にしておくことで、モチベーションを維持しやすくなります。②Reality「現状」を明確にする
目標を設定したら、次はなるべく具体的に現状を聞き出していきます。「今はTOEIC何点?」「どんな勉強をどれくらいしている?」「今現在、同僚に何をどう頼ってる?」「部門で今はどんな立ち位置?」など、一つひとつ洗い出し、目標や理想とのギャップを明確にしていきます。
③Options「行動の選択肢」をリストアップ
現状を把握したら、次に目標とのギャップを埋めていくための具体的な方法について考えていきます。「やろうと思っていることは?」「既にやっていることは?」「達成に向けてのアイデアは?」など、本人からできるだけたくさん引き出すようにします。現実的かどうか、実行可能かどうかなど、こちらの判断を挟まず、とにかく自由にアイデアを出してもらうのがポイントです。
④Will 実行への「意志」を確認する
こうして目標達成のための方法を引き出したら、どれを実行に移すかを本人に決めてもらいましょう。「まずやってみたいのは、どれ?」「これならやれるな、と思えるのは?」と投げかけて答えを待ちます。
このとき、こちらがいいと思う方法を押し付けないこと。あくまで行動する本人に選ばせることが、実行への覚悟や自主性を育てていくことにつながります。何をするかを決め、「いつ」「どこで」「どんなふうに」と具体的な行動に落とし込んで共有できたら、セッションは終了です。
(中略)終了後は、1〜2分でいいので「やってみてどうだったか」、振り返りの時間を持つことをお勧めします。「目標達成できそうか」「実際に行動できそうか」もしくは、「こうするともっと話しやすい」といったフィードバックをもらってもいいと思います。
また、「一度やったらおしまい」ではなく、定期的に実行しているかどうかチェックすることも大事なポイントです。実行できていなければ、そこでもコーチングスイッチオン。「どうすればうまくいくか」「障害は何か」を本人に考えさせ、行動を修正していきましょう。
『リーダーのための! コーチングスキル』 第1章 より 谷益美:著 すばる舎:刊
図1.GLOWモデル
(『リーダーのための! コーチングスキル』 第1章 より抜粋)
GLOWモデルは、ビジネスコーチングで広く活用される代表的なフレームワークです。
ぜひ、マスターして、さまざまな場面で活用したいですね。
「理解者になる」って具体的にどういうこと?
コーチングで大切になるのは、相手に対するポジショニング
です。
つまり、「相手にとってどんな存在になるか」という視点
です。
谷さんは、相手目線で、相手の「理解者」になることが重要
だと指摘します。
「理解者」というポジションのために重要なアプローチが、まずは相手の話を聞くという姿勢です。どんな内容であれ、まずは相手の言い分を否定せず、口を挟まず、しっかり聞き切るリーダーは、相手にとってよき「理解者」です。「自分のことをよく理解してくれている」と相手が思える状態になってからこそ、その後の対話が生まれます。
もちろん、相手の言い分を聞くと言っても、ただひたすら受け身で耳を傾けるということではありません。そもそも「理解」とは物事をキチンと知ること。相手の言い分を理解せぬままに反論も賛成もあり得ませんし、対話もうまく成り立ちません。目指す未来は何なのか、それに対する現状はどうなっているのかなど、相手の意見を引き出しながら聞くことが肝要です。
そして、引き出した内容は、「◯◯ということなんだね」と自分の理解を示しながら整理します。「そうそう、そうなんです」と相手がうんうんうなずくならばOKですが、もしも相手が「いや、そうじゃなくて・・・・・」と違和感を示すようなら軌道修正。再度相手に語ってもらい、自分の理解とのズレを修正して再確認を取りましょう。ここまで聞き切って初めて、こちらからのアドバイスや意見も伝わりやすくなり、相手が自分の言葉に耳を傾けてくれるようになるのです。「◯◯さんが言うなら」と思う、自分にとっての「理解者」が皆さんにも、きっといらっしゃるのではないでしょうか。
理解者になる、とは自分が相手のことを理解したつもりになる、ということではありません。「この人は自分のことをよくわかってくれている」と相手が思える存在になるということです。
相手にきちんと言葉を届けたいなら、相手の意見を聞き切って「理解者」ポジションに立ってから伝えたほうが効果的。たとえネガティブな話でも、愚痴や文句にしか思えなくても、聞き切る価値は必ずあります。
『リーダーのための! コーチングスキル』 第2章 より 谷益美:著 すばる舎:刊
自分だけが「理解している」つもりになっても、意味がありません。
相手が「理解してもらえた」と感じることが大切です。
途中で口を挟まず、相手の意見を引き出しながら、聞く。
自分の理解を、相手に確認しながら、整理する。
それが、相手の良き「理解者」となり、信頼されるための秘訣です。
より深く相手から聞き出すスキル「オウム返し」
リーダーに必要とされるのが、「聞く力」です。
相手の話に合わせて反応し、より深く相手から「聞き出す」。
そのためのスキルのひとつに「オウム返し」があります。
「うまくいきましたね」「あの提案が良かったよな」
「納期厳しいですね・・・・・」「何とかするしかないだろう」と、相手の言葉に反応して自分の意見を伝える前に、加えていただきたいのがオウム返し。
「うまくいきましたね」「うまくいったな」
「納期厳しいですね」「厳しいな・・・・・」こんなふうに、相手の言葉を一旦しっかり受け止めてから、次の言葉に進みます。特に、すぐに自分の意見を言ってしまう、コンサルスイッチの入りやすい方にこそ、取り組んでいただきたい聞き方です。
ポイントは、相手の言葉をそのまま繰り返して伝えること。「そうだね」といつも同じ言葉で返すよりも、よりしっかりと相手の言葉を受け取ったことが伝わります。同じ言葉を使うことで、その場の一体感も生まれます。また、相手がネガティブな発言をしたときにも、まずは一旦受け取ることが大切です。
「みんな言うことを聞いてくれないし、私にはリーダーなんて無理です」
女性リーダー研修の懇親会で、そう泣き言を言い出したのは、今期から女性リーダーとして任命されたMさんです。周りに座るメンバーは、「そんなことないよ」「Mさんなら大丈夫」と一生懸命励ましモード。不満そうに黙り込むMさんに、「無理だと思ってるんだね」と声をかけると、「そうなんです・・・・・!」と日頃の悩みを語り始めました。
「最近仕事がうまくいかなくて・・・・・」「若い頃はそういうモンだよ」
「この仕事、向いてないんじゃないかと思うんです」「慣れてないだけだって」
など、落ち込んでいる相手への励ましは、優しさゆえの言葉かもしれません。ですが、それでは状況は変わりません。こういう場合に必要なのは、相手が抱えている不安の解消と、改めて前に進む行動への後押しです。まずは大きな問題になる前に話が聞けて良かったとポジティブに考えことが大切です。オウム返しの後には、「どうしてそう思うのか聞かせてよ」と促して、気持ちの整理と今後の対策を考えさせるコーチングにつなげていきましょう。
『リーダーのための! コーチングスキル』 第3章 より 谷益美:著 すばる舎:刊
相手の言葉に対しては、すぐに自分の意見を返したくなるものです。
それをグッと我慢して、「オウム返し」する。
一手間を加えるだけで、相手は、「聞いてもらえている」という安心感を得ることができます。
ぜひ、身につけたいスキルですね。
「そんなことないですよ」にならない伝え方
日本では、謙遜を美徳とする文化があります。
そのため、「褒める」ことや「褒められる」ことに慣れていない人が多いです。
谷さんは、相手をやる気にさせる、本人も気づいていない強みに気づかせるなど、「褒め言葉」の効用を考えれば、照れくささに負けている場合では
ないと述べています。
褒め上手になりましょうとお伝えしましたが、実は「褒められるのが苦手」という受け取りベタが多いのも、褒め言葉の特徴です。「そんなことないですよ」「いやいや」「◯◯さんに比べたら、私なんて・・・・・」と、よく聞こえてくる褒め言葉の受け取り拒否。
拒否される、褒めても喜ばないとなれば、チームから褒め言葉はどんどん減ってゆくのが自然の流れ。もしや皆さんが受け取り拒否派なら、褒められたら「ありがとう」と素直に感謝する「褒められ上手」に、今すぐ方針転換することをお勧めします。
その上で、相手にも受け取りやすい「I(アイ)メッセージ」を積極的に取り入れてみましょう。「いいね」「すごい」「よくがんばってる」「さすが」という褒め言葉の主語は「あなた」。
主語があなたの「You(ユー)メッセージ」は、ともすれば決めつけになり、相手の状況によっては受け取りにくい言葉にもなります。目標数字を到達していないのに「がんばってるね」、他にもすごい人がいるのに「すごいじゃん!」と言われても、私たちは素直にうなずきにくいもの。だからこそ、伝えるリーダーの側を主語にする「Iメッセージ」に転換するのがお勧めです。
「さっき後輩に声をかけていたのを見たよ。私も見習わせてもらうね」
「休憩中にも資格の勉強してたね。自分も勉強しなきゃと気合入っちゃった」
「今月の訪問数50件! オレも負けられない気分になるよ」
「作ってくれたマニュアル見たよ。わかりやすくてホント助かる!」Iメッセージの褒め言葉は、相手から受けたポジティブな影響を具体的に伝える言葉。相手への感謝の気持ちを添えて、嬉しかったこと、見習いたいこと、助かったことなど、どんな良い刺激やサポートを受けたのか、しっかり言葉にして伝えましょう。
「あなたのお陰でチームがまとまった」など、チームや組織全体に対する影響を伝える「Weメッセージ」も使えます。褒めるときには、「根拠」&「Iメッセージ」と覚えて実践してみましょう。
『リーダーのための! コーチングスキル』 第5章 より 谷益美:著 すばる舎:刊
いくら心の中で思っていても、言葉に出さなければ、伝わらないものです。
褒められたときは、「ありがとう」と素直に受け取る。
褒めるときは、具体的な根拠を添えて、「Iメッセージ」で伝える。
自分も相手も、やる気を高める、褒め上手、褒められ上手を目指したいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
谷さんは、コーチングは、既にみんな持っている、誰もが磨けるスキル
だとおっしゃっています。
本書は、部下を持つリーダーのために書かれています。
とはいえ、その内容は、すべての人に役に立つものです。
仕事場やコミュニティなど、公の場ではもちろん、プライベートな場面でも使えます。
人と人が関わるシチュエーションで、コーチングが必要とされない場面はない。
それぐらい、汎用性が高いスキルといえます。
皆さんも、本書を片手に、コーチングスキルを学び、一歩先行くリーダーシップを身につけてみてはいかがでしょうか。
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