【書評】『営繕さんの幸せドリル』(さとうみつろう)

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 お薦めの本の紹介です。
 さとうみつろうさんの『営繕さんの幸せドリル:あなたのそばにいる会社の“神さま”』です。

 さとうみつろう(さとう・みつろう)さんは、作家、思想家、音楽家です。
 10年間勤めた会社を脱サラし、現在は、全国各地でトークショーやピアノライブを開催するなど、活躍の場を広げられています。

 人気ブログ、『笑えるスピリチュアル』の執筆者でもあります。

会社の神さま「営繕さん」との出会い


 主人公の吉宮虎太郎は、東京から地方の中堅商社へ、営業1課長として出向することになります。
 その会社で最初に出会った人物が、「営繕さん」と呼ばれる作業着を着たおじさんでした。

営繕さん ここの営業部にはな、茶色便と呼ばれる書類が月に1回は出回るんじゃ。

虎太郎  ちゃいろびん? なんですか、それは。

営繕さん ワシは今みたいに、デスクの上に立ってよく作業するんじゃが、そのたびにコーヒーを足で倒すけぇ、書類がビチョビチョになる。
 だから営業部の書類は、1ヶ月に1回は茶色く染まるんよ。
 そして茶色いまま、社内を決裁のために回る。
 それが、茶色便じゃ。覚えといたらええ。

虎太郎  え? おじさん、何を自慢げに失敗談を語ってるんですか?
 蛍光灯を替えに来るたびにデスクのコーヒーをこぼす?
 まったく役に立ってないじゃないですか。むしろ、仕事を増やしている!

営繕さん だって、仕事が増えないと社員はヒマになるじゃろぅ?

虎太郎  毎回コーヒーをこぼして、その自信はいったいどこから?

営繕さん おや。君は言ったじゃないか。
 部下に協力して欲しいと。

虎太郎  部下の協力と、コーヒーに何の関係があるんですか?

営繕さん 部下が協力してくれないのは、どうしてだと思う?

虎太郎  なめられてるから。
 経験もないくせに、急に来て上司だから、部下たちは嫌な気分なんでしょうね。

営繕さん 違う。まーったく、違う。
 真逆だよ。
 君がしっかりしているから、協力できないんじゃあ。

虎太郎  え? しっかりしているから、協力できない・・・・・?

営繕さん そりゃそうさ。
 何でもできる人に、協力したいと思うかい?
 だらしない人だから、助けたくなるんじゃないか。

『営繕さんの幸せドリル』 第2話 より さとうみつろう:著 小学館:刊

 虎太郎は、会社でいくつもの困難にぶつかりますが、その度に営繕さんからのアドバイスを頼りに乗り越え、人間的に成長していきます。

 本書は、多くのサラリーマンが会社で抱える悩みについての処方箋を、対話形式でわかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「転職」が成功しない、たった1つの理由とは?


 次から次へと会社を転々とするけれど、どこに行っても同じ悩みを持ってしまう。

 そんな人たちには、1つだけ共通点があります。
 それは、移動した「人」が同じということです。

 営繕さんは、どの会社に行ったって、その会社に行った「人」が、結局同じだから、何も変わらないと述べています。

虎太郎  なるほど、唯一の共通事項ですね。ということは「この人」は、世界中どの会社に行っても同じだと?

営繕さん 同じじゃ。
 出来事のすべては、「環境」と「わたし」の関係性で起こる。
 式にすると、こうなる。

「環境」×「わたし」=「出来事」

 ということは、いくら「環境」を変えても、「わたし」が変わらないと何も変わらないことになる。

虎太郎  なるほど。かけ算にすると、とてもわかりやすい。結局はすべてに、「わたし」が関わっているのか。例えば、「わたし」がマイナスのままだと、いくら「環境」をプラスにしても、答え(出来事)はマイナスのままになる。

営繕さん ある登山家が、世界中の山を制覇していった。エベレストも、キリマンジャロも、富士山も、すべて踏破した。
 ところが、なんだか虚(むなし)しさだけが残った。どの山からの風景もなんだか同じに思えたんじゃ。そんな登山家が、家の近くの小さな山に登った時、初めての感動を覚えたんじゃ。
 なぜだと思う?

虎太郎  よく言われている、近くにこそ答えがある? みたいな道徳の話ですか?

営繕さん 違う。この登山家は、その山に登る前に眼科に行った。するとド近眼だということが判明した。世界中のどの山のてっぺんからも、同じぼやけた風景しか見えてなかったんじゃ。
 ところが、初めてメガネをかけて登った近所の小さな山で、彼は涙を流した。
 人生で初めて、はっきりと『世界』が観えたからじゃ。
 いいか、虎太郎。
 世界のどこまで行っても、何も変わらない。なぜなら、世界を観ているのは、結局「わたし」だからじゃ。
 どの世界も、最終的に「わたし」というフィルターを通して観られるんじゃよ。
 じゃけぇ、「せかい」を変える前に、「わたし」を変えなきゃ意味がない。

虎太郎  凄(すご)くいい話ですけど、世界中の山を登れる人が、自身のド近眼に気づけなかったなんてありえますかね?

営繕さん その人にとって当たり前になっていることは、その人はどうやったって気づけん。
 どうやって、「当たり前」を当たり前だと気づけるんじゃ?
 その人の「当たり前」なんじゃから、気づけるわけがないじゃろ。
 これが、固定観念と呼ばれているやつじゃ。そして誰もが、それを持っている。

『営繕さんの幸せドリル』 第2話 より さとうみつろう:著 小学館:刊

 私たちは、世界を「ありのまま」に観ているわけではありません。
「わたし」というフィルターを通して観ているのですね。

 場所や人間関係を変えても、フィルターが変わらなければ、同じようにしか見えない。
 つまり、同じトラブルに悩まされるということです。

 人生を好転させるには、環境ではなく、自分を変えること。
 いかに自分自身を縛りつける固定観念を打ち破れるかがポイントですね。

「与えたもの」が「受け取るもの」になる理由


 営繕さんが虎太郎に教えた、たった1つの「世界のルール」。
 それは、世界はその人が信じた通りに回るです。

 自分が「そうすべき」と信じたことを相手に対してやる。
 すると、いずれ立場を入れ替えて、同じことをされることになる。

 つまり、与えたものが受け取るものになるということです。

営繕さん (前略)
『子供』を叱る親は、『子供』の頃に親に叱られたからじゃ。

虎太郎  あ、よく聞きますねそれ。虐待を受けたら、自分も虐待をしてしまう。

営繕さん なぜなら、【『子供』というモノは、叱るモノだ】と固定観念で思い込んでいるから、自分の『子供』にもそうするんじゃ。

虎太郎  自分が『子供』だった頃にされたことを、自分の『子供』にしてしまうのか。
 でも、思い込み以外の行動を取ればいいのに。

営繕さん 無理じゃ。人間は、教わった通りの【固定観念】に従って行動しておる。
それ以外の行動は取れん。

 プログラムにない動きを、パソコンができないようなもんじゃ。

虎太郎  インプットされていないことは、できないと?

営繕さん いいか、人間のすべての行動は、誰かに教わった通りじゃ。
【『フォーク』は刺すモノだ】と教わったから、その通りに行動する。
【『メガネ』はかけるモノだ】と教わったから、そうしておる。
【『子供』というモノは叱るものだ】と教わったのなら、そうするしかないじゃろう。

虎太郎  そう言われたら、そうですね。
 メガネでコロッケを刺したことはないし、フォークを目にかけたこともない。
 すべてが、【『◯◯』は、△△するモノだ】と誰かに教わった通りの、行動をし続けている。これが、「本人だけの思い込み」ってやつなのか。

営繕さん 外国のタバコには、こういう忠告文が書かれておる。
 Children See. Children do.
 子供が見てるぞ、子供もやるぞ。って。
【『タバコ』は吸うモノである】とインプットされたら、吸うんじゃよ。
 決してタバコを食べたりはしない。習ったことを、やるだけじゃ。
 こうして、覚えたことのみを行動する機械が人間じゃ。
 その人だけがかけている“偏見メガネ”は受け継がれるんや。

『営繕さんの幸せドリル』 第4話 より さとうみつろう:著 小学館:刊

 社会が変わらないのは、古い固定観念が親から子へ、上司から部下へ引き継がれ続けてきたから。
 どこかでこの「負の連鎖」を断ち切る必要があります。

 さまざまな問題を抱えて、行き詰りつつある今の世の中。
 この状況は、私たちに大きな価値観の転換を迫っています。

「無駄」が会社にとって一番の財産


 営繕さんは、無駄が会社にとって一番の財産だと言います。

 外国企業が気づいてないだけで、無駄こそが会社で一番の財産だと日本人は気づいておったとのこと。

虎太郎  じゃあ、会社から無駄を省いていったら、会社はドンドン悪くなっていくと?

営繕さん 昭和の会社と、今の会社を比べたらすぐにわかるじゃないか。
 無駄だらけだったあの時代の日経平均株価はいくらじゃった?

虎太郎  それはただのバブルの影響です。

営繕さん 無駄を削(そ)がれたから、バブルがはじけたんじゃないか。
 いいか、もしも会社から徹底的に無駄を省いていくとする。
 ソロバンは時間の無駄だから、電卓に変えましょう。
 書類のファイルは場所の無駄だから、スキャナで電子ファイルにしましょう。
 手作業での発送は労力の無駄だから、生産ロボットラインを組みましょう。
 ・・・・・。
 気づかないか?
 最終的に、会社にとって一番の無駄なのは「人間社員」になるんじゃよ。

虎太郎  会社にとって一番、人間がムダ?

営繕さん そりゃそうじゃ。
 パソコンは計算ミスしない。
 製造ロボットは異物を混入しない。
 システムは判断に悩まない。
 自動配送ドローンはおしゃべりしない。
 もしも徹底的に無駄を省いていくというなら、人間が一番無駄じゃないか。

虎太郎  とてもショックですけど、これは事実ですね。
 冷静に考えると私も会社にとって無駄なのか。

営繕さん お前とか、世界で一番ムダじゃ。

虎太郎  ・・・・・。

営繕さん 落ち込むな。
 だからこそ、「ムダ」がいかに素晴らしいかを語っているんじゃないか。

虎太郎  あなたが、落ち込ませたんじゃないですか。

営繕さん 虎太郎、人間はロボットに比べると、ムダだらけじゃ。
 それが、人間の良さじゃないのか?
 ロボットにできない『おしゃべり』は、ムダだろうか?
 プログラムには組めない『人情付き合い』はムダじゃろうか?
「ムダ」こそ人間の最大の機能じゃないか。
 さぁ、虎太郎。無駄の日本語訳はなんじゃった?

虎太郎  利害関係のないこと。

営繕さん そうじゃ。
 だからこそ、人間の素晴らしい機能を発揮するためにも、会社の中に、利害関係の無い人を探しなさい。
 なぜなら、サラリーマンは会社にいる間ずーっと無意識にも利害関係だけを求めて動いておる。
 上司と話すときは、評価のことを。
 部下に指示する時は、効率的に動かす方法を。
 同僚と話すときは、いかにそいつを出し抜くかを。
 それらは全部、ロボットにできることじゃ。
「より効率的に」の部分はロボットに任せればいい。
 人間は、より人情的に、より複雑に、より無駄に動けるかどうかが、すべてじゃ。

『営繕さんの幸せドリル』 第5話 より さとうみつろう:著 小学館:刊

 中国の古いことわざに「無用の用」という言葉があります。
「一見、役に立たないと思われるものが、実は大きな役割を果たしている」という意味です。

 利益や効率を追求し続けてきた結果が、今の世界であり社会です。
 人工知能やロボットの進化によって、ますます社会は効率化されていくでしょう。

 そのとき「人間らしさ」として残されるのが、「無駄」と呼ばれている部分なのかもしれません。
 私たちは、まさに働き方の価値観を大きく変えるべき時期に生きているということです。

人間は先に結論を決めている


 何かを嫌いになるのは、それを嫌いな理由があるから。
 それがこれまでの常識的な考えです。

 しかし、脳科学の進歩により、それは間違いだということがわかってきました。

 営繕さんは、まず最初に、「その人を嫌いになろう!」と決めて、その後に、その人を嫌いな理由を脳が付け加えていくのだと指摘します。

虎太郎  初めに、「嫌いになる!」と決めて、その後に理由を探している??
 そんな、バカな!

営繕さん バカなお前よりは頭の良い学者が導いた結論じゃ。
 これは瞬間的に行われる作業なので、人間の感覚ではどちらが先か掴(つか)めない。
 電極を使ってやっとわかった順序じゃ。
 嫌いな人だけじゃないぞ。好きな人も、当然そうじゃ。

虎太郎  先に、「この人を好きになる!」と決めて、その後で、その人を好きな理由を探していると??

営繕さん 初恋の感覚を覚えている子供なら、納得するじゃろうな。
 先に、生物的に好きになる。脳ミソを超えて。心が、細胞が。
 その後、大人に「どうして、あの娘が好きなの?」とか聞かれ、色んな理由を頭が付け加え始めるんじゃよ。
「えーっと、席が隣だから」
「それとー、ママに似てるから」
「あ、あと、足が速いから」
 こうやってな。
 でも本当は、理由よりも先に好きになっているもんじゃろ?
 好きだから、好きなんじゃ。理由なんてない。

 女性なら、大人になってもこの感覚が消えずに分かるかもしれんな。
 理由なんてないけど好きになって、「後から理由を頭が付け加えている」というこのメカニズムを。

虎太郎  女性じゃないけど、私でさえなんだか覚えています・・・・・。
 会った瞬間に、好きになったあの娘のことを。

営繕さん そりゃ、そうじゃ。ココロが先に好きになって、頭が理由を後から述べ始めただけじゃけぇのぉ。
 そもそも、理由が先にある初恋なんて笑えるくらいおかしいぞ。
 やってやろうか? ワシが三文芝居を。

虎太郎  じゃあせっかくなんで、お願いします。

営繕さん はい、とある晴れた月曜の朝です。
 転校生の虎太郎くんは自転車で学校へと急いでいました。
 ところが、曲がり角で女性に偶然ぶつかってしまいます。
 女性はパンをかじりながら倒れています。
 はい、手を引っ張り起こして、お互いに目が合いました。
 その瞬間に頭で、『髪の毛の長さよーし! 唇がアヒル型よーし! 目は二重だからよーし!
 ・・・・・、よし! この人を好きになろう!!』
 あり得るのか、そんな初恋?

虎太郎  あり得ないですね。曲がり角でパンをかじりながら走ってくる美女とぶつかる確率くらいに、あり得ない。
 そうか、先に「好きになるぞ!」と結論を決めて、その後に、好きな理由を探しているのか。驚愕(きょうがく)です。

営繕さん 大人になるにつれ、理由を探す能力が長(た)けてくるからその順序はさらにわかりにくくなるだけじゃ。
 大人だってもちろん、先に好きになって、その後に理由を探しておる。
 ただ、大人は理由を見つけるのが早いけぇ瞬時に理由を見つけてしまい、先に理由があったと勘違いしてしまうんじゃな。
 大人も子供も脳のメカニズムは変わらないんじゃよ。
【人間は先に、結論を決めておる。】

『営繕さんの幸せドリル』 第11話 より さとうみつろう:著 小学館:刊

 好きか、嫌いか。
 私たちは、瞬間的にそれを判断します。

 ただ、あまりに速すぎて、自分自身すら気づかないことがほとんどです。
 まさに「直感」と呼ばれる、人間にもともと備わっている能力のなせる業ですね。

 感情で決定したことを、思考を使って論理的に変えることは難しいです。
 それは、自分自身に対してだけでなく、他人に対しても同様ですね。

「人間は先に、心で結論を決め、後から頭で理由を付け加えている」

 世の中にある争いのほとんどは、その原則が理解できていないことで生じています。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 さとうさんは、この本を家族にもっと会社の事を、会社にもっと家族の事を話せる環境を取り戻し、サラリーマンが「モノ」では無く、「人」に戻る事を願って書いた、とおっしゃっています。

 さとうさん自身、10年間のサラリーマン生活を経験され、何度も逃げたくなるような人間関係、仕事の悩みにぶつかったそうです。

 スピリチュアルな内容がふんだんに取り入れられた18話からなるストーリー。
 ただ、実体験に裏打ちされているだけあって、ビジネスパーソンが共感できる部分は大きいです。

 仕事や会社の人間関係に悩んでいる、そんな人たちにこそ、ぜひ読んで頂きたいです。
 本書のどこかに、解決のヒントが見つかるはずです。


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