本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『Think clearly』(ロルフ・ドベリ)

 お薦めの本の紹介です。
 ロルフ・ドベリさんの『Think clearly』です。

 ロルフ・ドベリ(Rolf Dobelli)さんは、スイス生まれの作家・実業家です。

よい人生を送るために必要な「思考の道具箱」

 価値観も社会制度も急激に変わっていく現代社会。
 その中で、私たちは、いかに世界を理解して「よい人生」を送ればいいのでしょうか。

 ドベリさんは、私たちが生きている世界を理解するためには、いろいろな思考法がつまった「道具箱」があるといいと述べています。

 世界はいまや、直感だけでは理解できない。企業家も、投資家も、会社の重役も、医者も、ジャーナリストも、芸術家も、学者も、政治家も、そしてあなたも私も、何かを考えるときには、しっかりとした思考の道具や枠組みを持っていなければ前には進めない。たとえ、どんなに時代が変化しても、どれほど人間が進化しても。

 よりよい人生を送るためのさまざまな思考法。そういう枠組みのことを、「人生のオペレーティングシステム」などとも呼ぶだろう。でも私には、少々古くさい言い方といわれるかもしれないが、「思考の道具箱」と呼んだほうがしっくりくる。
 どちらの呼び名を使うにしても、「思考の道具箱」は、雑多な知識よりも、お金よりも、コネよりも、人生にとっては大切なものである。
 そこで私は数年前から、これまで自分が使用してきた「思考の道具箱」をまとめることにした。
 できあがった道具箱の中には、いまや私たちが忘れかけている古代の伝統的な思考モデルから最新の心理学研究の結果、ストア主義をはじめとする哲学やバリュー投資家の思考にいたるまで、いろいろな人生のコツがおさめられている。
 私は実際に、毎日毎日これらの思考の道具を使って、人生で直面する問題や課題を克服してきた。どれも自信を持っておすすめできる道具ばかりだ。
 というのも、こうした思考の道具を使うようになってから、私の人生はほぼすべてにおいて上向きになったのだ(髪が薄くなり、笑いじわは増えたが、それぐらいでは私の幸せは邪魔されない)。

『Think clearly』 はじめに より ロルフ・ドベリ:著 安原実津:訳 サンマーク出版:刊

 本書は、間違いなくあなたの人生がうまくいく可能性を高めてくれる「思考の道具箱」の中身をわかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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考えるより、行動しよう!

「文章を書くための最大の秘訣」

 それは、何を書くかというアイデアは、「考えているとき」にではなく、「書いている最中」に浮かぶということです。

 ドベリさんは、この法則は、人間が行う、ありとあらゆる領域の活動に当てはまると述べています。

 たとえば、ある製品が市場に受け入れられるかどうか、企業家にそれがわかるのは、市場調査によってではなく、製品をつくって市場に出してみてからだ。
 セールスマンが完璧なセールストークができるようになるのは、セールス方法の研究を通してではなく、話術を何度も磨きあげ、数え切れないほど断られた経験があってこそ。親は子育ての指南書を読むことによってではなく、日々自分の子供を育てながら教育者としての能力を育んでいく。音楽家は楽器の演奏方法を頭で考えるのではなく、実際に演奏しながらその楽器の名手になっていく。
 それはどうしてか? なぜなら、世界は不透明だからだ。くもりガラスのようにぼんやりしていて、見通しがきかない。
 先行きを完全に予測できる人はいない。最高の教養を身につけている人でも、先が読めるのは、特定の方向の数メートル先までだ。予測できる境界線の先を見たければその場にとどまるのではなく、前に進まなくてはならない。
 つまり、「考える」だけではだめで、「行動」しなければならないのだ。

 私の友人の話をしよう。彼は、すでに10年以上、起業しようと試行錯誤を重ねている。頭のいい男で、大手製薬会社の管理職というよいポストにつき、MBAも取得している。
 起業についての本を何百冊と読み、扱う商品を考えるのに何千時間も費やし、市場調査の資料を山のように集め、これまでに20を超えるビジネスプランを書き上げている。だが、まだひとつも形にはなっていない。
 彼の思考はいつも、「起業のアイデアに将来性はある。だがうまくいくかどうかは、計画をスムーズに実行に移せるかどうか、そして予想されるライバル企業がどう動くかにかかっている」というところまでは進むのだが、そこでストップしてしまう。
 彼の思考はすでに、これ以上長く思い悩んでも1ミリも先に進まないポイントに達してしまっているのである。いくら考えても、もう新たなことに思いいたらない。
 このポイントを、ここでは「思考の飽和点」と呼ぶことにしよう。

 頭の中で検討を重ねることに、意味がないわけではない。短期間でも集中して考えれば、とてつもなく大きな気づきがある。しかし、時間とともに新たに得られる認識はどんどん小さくなり、すぐに思考は「飽和点」に達してしまう。
 たとえば投資の決断をするときは、調査できる事実をすべて机の上に並べ、考える時間は3日もあれば十分だ。個人的な決断なら、1日でいいかもしれない。
 キャリアチェンジするかどうかを決めるなら、長くても1週間。ひょっとしたら気持ちの揺れを抑えるための猶予期間も必要かもしれないが、それ以上長く考えても意味がない。行動を起こさなけれは、新たな気づきは得られないのだ。
 頭の中で熟考しても、懐中電灯で照らす程度の範囲にしか考えはおよばないが、行動を起こせばサーチライトであたりを照らしたかのように、一気にいろいろなものが見えるようになる。その強い光は、考えただけでは見通せない世界の奥まで行き届く。
 それに、いったん先を見通せる新しい場所にたどり着いてしまえば、懐中電灯を使った頭の中での熟考もまた力を発揮するようになる。

『Think clearly』 1 考えるより、行動しよう より ロルフ・ドベリ:著 安原実津:訳 サンマーク出版:刊

 どんなに綿密に立てた計画でも、完全に予定通りに進むことはありません。
 ある程度までプランを立てたら、「実際にやってみる」ことが大切です。

 人生には「想定外」はつきものです。

 目的地までの道のりには、途中、必ず乗り越えるべきいくつかの障害物がある。
 そんな前提に立って、進みながら考えていると、当初は思いつかなかったアイデアが生まれて、新たな道が開けてくるものです。

「勝つこと」ではなく「負けないこと」が大事

 投資家たちは、よく「アップサイド」「ダウンサイド」という言葉を口にします。

 アップサイドとは、ポジティブな投資結果全般を指す言葉(利回りが平均を上回った場合など)です。
 ダウンサイドとは、考えられる限りの、あらゆるネガティブな結果(倒産した場合など)を指す言葉です。

 これらのふたつの概念を飛行機の操縦に当てはめてみると、こんな感じになる。
 飛行前や飛行中、私は「ダウンサイド」に過剰なほど気を配る。何があってもダウンサイドを避けようと細心の注意を払う。
 それに対して、「アップサイド」はほとんど意識しない。アルプスを覆う雪の眺めがどのくらい壮大か、どんな驚くような雲の形が見られるか、空気の新鮮な高所で食べるサンドイッチがどんな味がするかーーそんなことは、考えなくてもじきにわかることだからだ。
 ダウンサイドが取り除かれてさえいれば、アップサイドは自然に姿を表すものなのだ。

 飛行機の操縦、投資、そしてテニスでも、同様のことがいえる。投資家のチャールズ・エリスは、趣味でテニスを楽しむ人たちに同じことを推奨している。
 ほぼすべてのショットを思い通りに打ち込めるプロのテニスプレーヤーとは違い、アマチュアのプレイヤーは、打ったボールがネットにかかったり、長すぎたり高すぎたり、ショットが入らなかったりと、頻繁にミスをする。
 プロのテニスの試合は、アマチュアの試合とはまったく別物である。プロは「ポイントを取って」勝敗を決めるが、アマチュアの試合の場合はどちらが「ポイントを失ったか」で勝敗が決まる。
 だからあなたが趣味でテニスの試合をするときには、「ミスを避けること」だけに気持ちを集中させればいいのだ。
 無難なプレーを心がけ、できるだけラリーを続けるようにする。相手はあなたのように無難にプレーをしようとは思っていないので、あなたよりも相手のほうがミスを犯しやすくなる。趣味のテニスの試合では、「勝つこと」ではなく、「負けないこと」が大事なのだ。
 このように、「アップサイド」ではなく「ダウンサイド」に意識を集中させるアプローチ法は、思考の道具としても大いに役に立つ。

『Think clearly』 9 幸せを台無しにするような要因を取り除こう より ロルフ・ドベリ:著 安原実津:訳 サンマーク出版:刊

 一般的に、長期的の成果が必要な場合ほど「勝つこと」より「負けないこと」が重要になります。

「アップサイド」と「ダウンサイド」のいずれを重視するか。

 目的によって、使い分けたいですね。

「他人の評価」から自由になったほうがいい理由

 他人からよく思われようとするのは、私たちの中に深く根ざした「本能」です。

 狩猟採集時代に生きていた私たちの祖先の生死は、周りからどう思われるかにかかっていたからです。

 私たちがこれほどまでに自分が「他人からどう思われているか」を気にするのは、人間の進化にその理由がある。だからといって、そのことが現代でも大事とは限らない。むしろその逆だ。
「周りがあなたをどう思うか」は、あなたが思っているよりもずっと、どうでもいいことだ。自分の面目や評判や名声に傷がつくことをおそれるあなたの「感情のスイッチ」が、必要以上に強くセットされているだけ。スイッチの設定が、いまだに石器時代のままなのだ。
 周りがあなたを褒めちぎろうが、反対に中傷しようが、そのことがあなたの人生に与える影響は、あなたが思うよりずっと小さい。あなたのプライドや羞恥心(しゅうちしん)が大げさに反応しすぎているだけだ。

 だから、他人の評価からは自由になったほうがいい。そうしたほうがいい理由はいくつかある。
 ひとつ目は、感情のジェットコースターに乗っている時間を節約できるから。どんなにがんばっても他人からの評判は操作できるものではない。
「年をとれば、その人にふさわしい評判がおのずとついて回る」というのはフィアット社の元会長、ジャンニ・アニェッリの言葉だが、つまり、こういうことだ。「周りにはそのつど好きなように言わせておけばいい。あなたが年を重ねて評判を固めれば、もう好き勝手なことは言えなくなるのだから」。
 そしてふたつ目の理由は、面目や評判を気にしすぎると、自分が本当は何に幸せを感じるのかがわからなくなってしまうことある。
 三つ目は、ストレスを感じていてはよい人生にはならないからだ。

 いまのような時代には特に、「自分の中の基準」をしっかり持っておいたほうがいい。
 ジャーナリストのデイヴィッド・ブルックスはこう述べている。
「ソーシャルメディアを使うと、みんな自分のイメージを演出するちょっとしたブランドマネージャーのようになってしまう。誰もがフェイスブックや、ツイッターや、ショートメッセージサービスや、インスタグラムを使って、元気で楽しげな外向けの自分をつくりあげている」
 ブルックスは、気をつけないと、私たちはいずれ「アプルーバル・シーキング・マシン(他者からの承認を求める機械)」になってしまうと警告を発している。
 フェイスブックの「いいね!」や、★の数や、フォロワーの数など、ソーシャルメディアの世界には、自分のランクを即座に数値化できるシステムが網の目のように張りめぐらされている(どれも実体のない名ばかりのランクなのだが)。いったんこの網に捕らえられてしまうと、自分の意思で自由に動いてよい人生を送るのは難しくなってしまう。

 結論。世間の人々は、あなたについて好き勝手なことを書き、ツイートし、投稿する。あなたに隠れてひそひそ話をしたり、うわさ話をしたりする。あなたを極端に褒めあげたり、ひどい厄介事に巻きこんだりもする。
 どれも、あなたにはまったくコントロールできないことばかり。だが幸いなことに、コントロールする必要もないのだ。

『Think clearly』 19 SNSの評価から離れよう より ロルフ・ドベリ:著 安原実津:訳 サンマーク出版:刊

 世間の評判や人気は、コントロールできない。
 だから、そんなものを気にして生きるのは、とても疲れるし、何より時間の無駄ですね。

 ドベリさんは、それよりも、自分で何かを成し遂げたり、胸を張れるような生き方をしたりすることに、注力したほうがいいと述べています。

「他人基準」から「自分基準」へ。
 幸せに生きるためには、人生の舵を大きく切る勇気が必要だということです。

「自分と同レベルの相手」に嫉妬する

「嫉妬」は、あらゆる感情の中でももっとも無意味で役に立たない有害な感情です。
 ドベリさんは、嫉妬は、身体的な障害や経済的な破滅より、もっと人生の満足度を低下させると指摘します。

 嫉妬に関して特筆すべきこと。
 それは、自分と同レベルの相手のほうが、嫉妬の対象になりやすいという点です。

 私たちが特に嫉妬を感じるのは、年齢や、職業や、環境や、暮らしぶりが「自分と似た人たち」に対してだ。プロのテニスプレーヤーはほかのプロテニスプレーヤーと、優秀なマネージャーはほかの優秀なマネージャーと、作家はほかの作家と、自分を比較する。
 たとえば、ローマ法王とあなたとでは、立場が違いすぎるため、嫉妬を感じることはない。アレクサンダー大王などもそうだ。
 あなたと同じ地域で生きていた成功者といえども、それが石器時代の人物だった場合には、やはり嫉妬の対象にはならない。ほかの惑星の住人や、颯爽としたホホジロザメや、巨大なセコイヤの木に対しても、感嘆はしても嫉妬の感情はわいてこない。

 そう考えると、「嫉妬に対する対処法」は自然と明らかである。誰とも自分を比べなければいい。そうすれは、嫉妬とは無縁の人生を送ることができる。他人と自分を比較するのを一切やめてしまえばいいのだ。それが嫉妬を感じずに済む、一番の近道だ。
 だが、言うは易く行うは難し。他人と自分を比較せざるをえない状況も、ときにはある。たとえばカリフォルニア大学では、「職員の給与の公開」が義務づけられている。ウェブサイトを見れば、同僚がいくらもらっているかを調べられる。
 そして当然、給与が平均を下回る職員の仕事に対する満足度は、その事実を知る前より知った後のほうが低くなる。組織の透明性を保つために、職員の幸福が損なわれているといえる。

『Think clearly』 33 嫉妬を上手にコントロールしよう より ロルフ・ドベリ:著 安原実津:訳 サンマーク出版:刊

 フェイスブックなどのソーシャルメディアが、多くの人をいらだたせ、疲弊させる。
 その一番の原因も、この「嫉妬」にあります。

 自分に近い、気の合う人たちだからこそ、互いを比較してしまうのは当然かもしれません。

 嫉妬というやっかいな感情をコントロールする。
 それには、ソーシャルメディアから距離を置くことが、最初の一歩といえますね。

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 過去1万年の間に、私たちを取り巻く世界は、がらりと変化しました。
 しかし、私たちに搭載されているソフトウェアもハードウェア(つまり私たちの脳)も、マンモスが草を食(は)んでいた時代のままです。

 ドベリさんは、だから私たちには、いろいろな思考法が詰まった道具箱が必要だとおっしゃっています。

 心理学者・ストア学派の哲学者・一流の投資家たち。
 彼らが、長い年月をかけて磨きあげてきた智慧の結晶の数々がぎっしり詰まった「思考の道具箱」。

「人生」という、先の見えない道中のお供に、皆さんもお手にとってみてはいかがでしょうか。

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2 thoughts on “【書評】『Think clearly』(ロルフ・ドベリ)

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