本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『2040年の未来予測』(成毛眞)

お薦めの本の紹介です。
成毛眞さんの『2040年の未来予測』です。

成毛眞(なるけ・まこと)さんは、実業家です。
マイクロソフト日本法人の代表取締役社長などを務められた後は、投資コンサルティング会社の設立、書評サイト「HONZ」を開設し代表を務められるなど活躍の場を広げられています。

20年後、テクノロジーの進化は、世界をどう変えるのか?

私たちの生活様式は、過去10年で根底から大きく変わりました。
その変化を主導したのは「スマートフォン」の普及です。

デジタル技術のイノベーションが、社会の未来を創り出していく。
この流れは、今後も途切れることはないでしょう。

成毛さんは、これまでの10年よりこれからの10年の方が世界は大きく、早く変わるだろうと述べています。

 これまでの10年間の変化は、主に情報通信の大容量高速化がもたらした。この大容量高速化は今後さらに進む。すでにパソコンやスマホでストレスなく動画を見られるようになったし、家にいながらビデオ会議ができるようになっている。その恩恵はますます大きくなる。
2030年頃には第6世代移動通信システム「6G」が始まるといわれている。たとえば、つい最近までダウロードに5分かかった2時間の映画が、0.5秒もかからなくなる。瞬きほどの時間になるのだ。
情報技術の進展は「面」でも広がっていく。
衛星で宇宙に巨大な通信網を構築し、へき地でも高速インターネット接続が可能になる。この方式では、衛星で宇宙からインターネットの信号を送る。安価で、しかも小型のアンテナさえあれば、光ファイバーなどのケーブルを敷く必要がない。途上国などでも十分な通信速度になるといわれている。
中心にいるのは電気自動車(EV)の米テスラを率いるイーロン・マスクだ。イーロン・マスクの「スペースX」は、世界のあらゆるところでインターネットへのアクセスを可能にするため、最終的に計4万2000基の小型衛星を飛ばす計画を掲げている。
2020年にアメリカとカナダの一部でサービスを開始し、その後全世界をほぼカバーする予定となっている。情報通信の質も量も、過去とは比べ物にならないほど進む時代がこれから待っていることがおわかりいただけるだろう。

これと両輪なのが、あらゆるもののコンピューター化だ。
家電や車だけではなく、たとえばメガネなど身につけるものや膨大なデータ量が蓄積、分析され、あらゆる分野で人工知能(AI)の実用化も一気に進むだろう。
(中略)
テクノロジーを大衆は最初にバカにする。19世紀にダイムラーが自動車をつくったときも、20世紀に入りライト兄弟が飛行機を発明したときも、大衆はその価値に気づかなかった。しかし、「そんなバカな」ことを実現しようと信じて取り組んできた人々が歴史をつくってきたのだ。
重要なのは、これから起きる新しいテクノロジーの変革は、すでに今、その萌芽があるということだ。何もないところから、急に新しいものは飛び出てこない。それを知って、バカにするか、チャンスにするかは自分次第だ。
テクノロジー以外にも、「今日」には、これから起こることの萌芽がある。現在を見つめれば、未来の形をつかむことは誰にでもできる。
繰り返すが、20年後は誰にでも必ず来る。そのとき、あなたの未来が少しでも明るくなっているように、本書が役に立つことを願う。

『2040年の未来予測』 はじめに より 成毛眞:著 日経BP:刊

20年後の2040年。
私たちがどのような世界で暮らしているのか、想像もつきませんね。

20年後に花開く技術の種は、すでに撒かれています。

本書は、そんな将来有望な技術を取り上げ、私たちの生活にどんなインパクトを与えるのかをわかりやすく解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「5G」が世界を変えるのはなぜか?

今後、実用化されるであろう世界を変える未来の技術。
その基盤となる技術が「通信」です。

成毛さんは、「多くの情報を高速で伝えることで可能になる」技術は通信が土台となると述べています。

今、話題となっている「5G」
5Gは、通信規格の一つで、日本では2020年に実用化されています。

通信の規格は、ほぼ10年ごとに次の世代に進みます。
前回、4G(LTE)が始まったのは、2010年でした。

4Gから5Gへの切り替えの大きな特長は、高速化・大容量化です。
成毛さんによれば、5Gは4Gの最大100倍の速さになるとのこと。

そして、その5Gがさらに進化するのが6Gです。
これまでの歴史を振り返ると、2030年頃には実用化されると予測されます。

 6Gは、通信速度が5Gの10〜100倍の速さになるといわれている。すでに2時間の映画のダウンロードが3秒だったのが、瞬きの間、1秒もかからない速さになるわけだ。
スマホなどモバイル機器の利用時に、「ちょっと待つ時間」は我々を知らないうちにいらつかせている。意図したホームページがなかなか開かなかったり、通信が途切れたりで、心が穏やかでなくなった覚えはあるだろう。数秒短くなるだけでストレスは大幅に減るはずだ。でも、6Gのよさは、もちろんそれだけではない。
5Gでは、室内にある物体の正確な位置把握は簡単ではない。しかし、6Gになると、屋内で何がどこに置かれているかは、数センチ単位の精度で把握が可能になるといわれている。なぜなら、6G時代は屋内外のあらゆる機器がインターネットにつながるからだ。
1平方キロメートルあたりの同時接続機器数が、1000万台と5Gの10倍となるとの試算もある。1000万台の機器ひとつひとつがセンサーになることで、多くの情報が集まり、ネットワークによる検知も可能になる。これにより、さまざまなサービスの可能性が広がる。
ネットワークは地上だけでなく、衛星、航空機などでも使える。また、消費電力が減り、省エネにもなるともいわれている。デジタル機器の一回の充電での利用時間が、今の10倍になるのも夢ではない。
(中略)
5G、6Gのすごさは高速化だけではない。「低遅延」が実現するといわれている。
聞き慣れない言葉だが、これが最も鍵となる。「低遅延」で実現可能な技術を見ていこう。

「低遅延」とは、読んで字のごとく、「遅延」が低くなること。つまり、通信の「遅さ」が「少なくなる」−−接続や、通信時のデータのやりとりが途切れなくなるのだ。
5G、6Gになると、通信が途切れる可能性は100万分の1以下になるため、安定した通信が絶対の条件になる産業で利用することができる。

つい20年前までは、インターネットにつながっていないのがあたりまえの状態あったが、20年後の2040年はインターネットにつながっていることが自然の状態になる。
それはパソコンやスマートフォンだけではない。身の回りのものがすべて、コンピューター並みの処理能力を持つようになる。コンピューターのチップ(半導体)が、それまでコンピューターとみなされなかったモノの中にまで入り込むのだ。

あらゆるモノにチップを埋め込むという発想は「IoT」と呼ばれるが、20年後には、身の回りのいたるところに何兆個という小さなチップが埋め込まれているはずだ。コンピューターは電気や水道のようなインフラになり、もはやコンピューターという呼称はほぼ消えているかもしれない。あたりまえになるからだ。

そうなると、どういう世界が実現するか。まず、自動運転だ。

公共のバスや電車などは、ネットワークに接続された自動運転になり、輸送や物流なども効率的になるはずだ。
車両ごとにカメラやレーダーなどを含んだ膨大なセンサーが働き、走行中に周囲の地図が自動的に生成されたり、衝突する可能性がある通行人や車両などの動きなども常時把握されたりしているだろう。
上空はドローンが行き交い、どこにでも欲しいものを配達してくれるはずだ。
これらは、高速で大容量のデータが通信できることと、通信が途切れなくなり、タイムラグもなくなることで可能になるというわけだ。
遠隔手術も現実になる。カメラとロボットを使って、専門医師が多くの救えなかった命を遠隔で救うはずだ。専門医師が不在だったという理由で、世界では1億件以上の手術が行えていないとの試算もある。
安定した大容量超高速通信は会議のあり方も変える。クラウド経由で、リアルタイムに翻訳することも可能だ。あなたが日本語しか話せなくても、遅延なく、世界の人と会話ができるようになるはずだ。
コロナ禍であたりまえになったテレビ会議も、技術的にはSF映画にかつて見られたような、あたかも目の前に人がいるかのような3Dのホログラムによる会話も可能になる。上司が3Dになってもうれしい人は少ないだろうが。
違う場所にいる人が同空間にいるように感じることができるようになれば、遠隔の教育も進むだろう。

『2040年の未来予測』 chapter #01 より 成毛眞:著 日経BP:刊

誰でも、通信が途切れたり、もたついたりしてイライラした経験を持っているでしょう。
5Gになると、そんなこともほとんどなくなります。

すると、身の回りのあらゆるものがインターネットを通じてつながる「IoT(インターネット・オブ・シングズ)」が可能になります。
リモートワークなどのコミュニケーションの遠隔化も、今より容易になりますね。

さらに6Gでは、通信の障害は、ほとんど皆無になるとのこと。
そうなると、万が一にもミスが許されない人の生死に関わるもの、たとえば、完全自動運転や医療機器などにも応用の範囲が広がります。

通信技術の進歩が、今後20年のイノベーションの原動力となる。
それは間違いありませんね。

原発後のエネルギーのカギは「電池」

今、世界的に大きな課題となっているのが「エネルギー問題」です。

火力発電や原子力発電などの既存のエネルギーから太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの利用へ。
各国のエネルギー政策は大きく舵が切られていますが、新たに問題となるのは「いかに電気を貯めるか」です。

 太陽光発電、風力発電など再生可能エネルギーは天候頼みのため、出力が不安定なことが課題である。なぜ不安定だと問題かというと、現状では、電気はまだ安価に大量に貯められないからだ。電気を貯められる設備がないのである。
現在、蓄電池に使われているのはリチウムイオン電池(Lithium-Ion Battery、LIB)だ。いわゆる、私たちが電池と聞いてまっさきに思い浮かべるあの乾電池に代表されるものだ。時計などに使われるボタン型などもある。
蓄電池には鉛蓄電池やニッケル・カドミウム電池などいろいろあるが、その中でも画期的なのが、リチウムイオン電池だった。エネルギー密度が高く、軽量小型で長時間の使用を可能にした。
1991年にソニーがビデオカメラに初めて搭載すると、その後、携帯電話や家電に使用される。この電池のおかげで、電気製品の小型化が一気に進んだ。電気自動車にも搭載されている。
ただ、リチウムイオン電池は安全性の問題を抱えている。
電極に使う電解液が、有機化合物、つまり燃える素材なので、強い衝撃が加わって、電池の温度が上がったり、中の液が漏れたりすると、発火や爆発につながる。実際、スマートフォンが爆発したなんて嘘みたいな話が、一時期相次いだのを覚えている人もいるだろう。
この課題を克服しようとつくられているが、全固体電池だ。わかりやすくいうと、燃える素材である電解液を固体に置き換えたものだ。より正確にいえば、内部をイオンが伝導できる固体「固体電解質」に置き換えたものである。
電解液の代わりに固体の物質を使うから、液漏れの心配がなくなる。燃えにくく、安全性が高い。
全固体電池はとても小さい。蓄電池としては商用化されていないため性能を比較するのは難しいが、リチウムイオン電池と同じ容量なら半分程度の大きさで済む。つまり、全固体電池が実用化されれば、単純に2倍貯められることになる。

現在、全固体電池に熱い視線を送るのは自動車業界である。
電気自動車(EV)の課題となっているのが、一回あたりの充電で走れる距離(航続距離)だ。電気自動車だとどうしても車体のスペースが限られているため、電池を積める量に限界があるから、容量あたりの性能を高める必要がある。現在のリチウムイオン電池に代わって固体電池を使えば、安全で、なおかつ航続距離を現行の2倍程度の700〜800キロメートルと、飛躍的に伸ばせる試算がある。
それだけではない。電気自動車のリチウムイオン電池が全固体電池に代わると、日本のエネルギー事情は一変する。電気自動車が、その地域の蓄電に役立つかもしれないからだ。「V2G(ビークル・トゥ・グリッド)」が大化けする可能性がある。
V2Gとは、電気自動車などを蓄電池としてインフラ活用する技術だ。これがあれば、地域に安定した電力の供給や調整ができるようになる。
しくみは簡単だ、電気自動車を使わないときに、車の大容量電池を電力の貯蔵に利用するのだ。V2Gでは、電気自動車を電力系統に連系し、車との間で電力を行き来させる。
先ほどもいったが、再生産可能エネルギーは天候に左右される。だから、たとえば、太陽光の発電が過剰な場合は車に電気を貯め、発電量が少ないときには車から電気を持ってくる。停電時や災害時のバックアップ電源にもできる。
これができれば、当然使える電気が増える。全固体電池がEVに搭載されれば、V2Gの普及に弾みがつく。
日本の電気自動車の保有数は、中国、アメリカ・ノルウェーに次いで世界第4位だ(2019年時点のEV保有台数)。
2030年までに乗用車の新車販売に占めるEVの割合を30%に拡大することを目指しており、V2Gが広まる土壌は豊かだ。
V2Gが広まる大きな理由はもうひとつある。全固体電池は日本企業の競争力が高い分野なのだ。特許の半分はトヨタ自動車を筆頭に日本勢が保有する。
2020年の固体電池の特許出願数を国別に見ると、日本が54%と圧倒的なシェアを握る。
アメリカ(18%)や欧州諸国(12%)を寄せつけず、次世代技術でもリードをしていることがわかる。
日本企業にしてみても、全固体電池の開発の成否が自社の命運を握っているといっても過言ではないだけに必死になるはずだ。
小型の産業機器向けなど、容量が小さい電池は一部で生産が始まっていて、村田製作所やマクセルなど電子部品各社がこぞって参入している。電池という日本の「お家芸」の裾の広さがうかがえる。
自動車向けの全固体電池の実用化はもうそこまできている。2020年代半ば以降からはじまり、本格普及は2030年前後とみられる。それまでには、太陽電池の発電効率も飛躍的に高まっているはずだ。
効率よく太陽光で発電し、販売台数が増えるEVに電力を貯蔵するようになれば、エネルギー制作の根本も変わる。全固体電池は、日本の自動車業界のみならずエネルギー事情も様変わりさせる可能性を秘めている。

『2040年の未来予測』 chapter #01 より 成毛眞:著 日経BP:刊

再生可能エネルギーや電気自動車の普及の鍵を握るのが「全固体電池」。
その開発をリードしているのが、日本企業だということ。

一部ではすでに実用化も始まり、自動車向けについても実用化に近づいていて、2030年前後には本格普及するとのこと。
その頃には、世界のエネルギー事情も様変わりしていることでしょう。

「ベーシックインカム」は実現するか?

今、世界的に導入の是非が議論されている「ベーシックインカム」。
どのような制度で、どんなメリットがあるのでしょうか。

 ベーシックインカムは、コロナ禍以前からフィンランドなどで実験がされてきたが、新型コロナの感染拡大で失業や困窮が世界的に広まる中、スペインやブラジルでも試験導入された。英国のジョンソン首相やローマ教皇までもが、必要性を訴え反響を呼んだ。
ベーシックインカムとは、単純にいうと、定期的に無条件に国民全員にお金を配る制度だ。日本でベーシックインカムが導入されるためには、マイナンバーで所得税や社会保険料が捕捉され、歳入庁により社会保険料の漏れがなくなるような体制が整うことが必要だが、これができれば真剣に考えることができる。
ベーシックインカムは、社会保障を現金給付に一本化して、国民に最低所得を保証するしくみだ。今回のコロナ禍では日本でも生活に困る人が少なくなかったが、現金給付の決断までに時間がかかった。他国が次々と給付を始める中、どうして日本は遅いのかと思った人もいただろう。また、額は少なくてもいいから早く欲しいという人も多かったのではないか。
当初は困った人に30万円給付という案だったが、最終的にはひとりあたり10万円になった。そして、10万円支給が決定した後も、役所の縦割り行政が混乱をもたらしたのは前述のとおりだ。
そもそも日本の社会保障の考え自体が、つぎはぎでやってきたものだから、完全に現状に沿っているとはいえない。
今の社会は、非正規雇用が拡大するなど就労環境が不安定な人が増えた。日本の場合、非正規雇用者は正規雇用者に比べて、法的にも解雇されやすい。景気が悪くなれば、簡単にクビを切られてしまう存在だ。社会全体で、ほんのはずみで、あっという間に困窮しかねない層が分厚くなっている。一方、これまでの社会保障は、「働ける人」の社会保障と「働けずに保険料が払えない人」のふたつを対象にしていた。非正規雇用者は制度の枠外にいる存在といってもいいすぎではないだろう。
だが今回のコロナ危機で、政府も、さまざまなタイプの困っている人が多いことに気づいたはずだ。体が弱く命を失う恐れのある人、生活のめどが立たない人、ひとりで住んでいる高齢者など、さまざまな人を助けながら、全体を改善していくことが改めて重要であることに気づいたはずである。
残念ながら、新型コロナのようなウイルスの危険性はこれからもある。その上、日本は自然災害のリスクとも常に隣り合わせである。誰もが昨日までの日常がいつ崩れるかわからないといえるのだ。多種多様な状況があるのに、これまでの画一的な保証が合うわけがない。そうした意味でも、手間をかけずにそれぞれにお金を配ってしまった方がよっぽどいい。ベーシックインカムは2040年に向けて議論すべき政策だろう。
ベーシックインカムを実行するとなると、財源の問題がどこにあるのかという議論になるだろう。10万円給付に二の足を踏んだのも、給付に必要な約12兆円が重くのしかかったからだ。
もちろん詳細な検討は必要だが、現在の社会福祉や助成金をベーシックインカムに回せば、財源は足りるとの指摘もある。
全員に一律給付するため、行政コストもかからなくなる。助成のために家庭や個人をわざわざ調べる必要もなくなるし、支払いの窓口も一本化できるはずだ。

『2040年の未来予測』 chapter #02 より 成毛眞:著 日経BP:刊

年金にしろ、医療保険にしろ、介護保険にしろ、日本の社会保障の制度は、税収や保険料収入が増え続ける前提で作られています。

労働人口の減少による税収減、高齢化による社会保障費の増加。
この流れが今後も続くことが不可避である以上、根本的な改革が必要なのは明らかです。

他国では、すでにベーシックインカムを試験的に導入している地域もあるようです。
日本も、導入の是非を真剣に議論すべきときが来ています。

マンションの価値は下がる!

私たちの身近な分野でも、今後20年で、より深刻化するであろう問題も存在します。

たとえば「空き家問題」です。
全国的に見ると、2033年には全世帯の約30%、約2100万戸超が空き家になるという試算もあります。

 最も懸念されるのは、全国の都市部に多い団地やマンションだ。
安全面はもちろん、マンションの資産価値を上げるためには、適切なメンテナンスがされれば100年近く持つ物件も少なくない。だが、そのためには、マンションの持ち主が建物を修繕するために、修繕積立金を用意しなければならない。しかし、所有者たちが準備できていないケースが多い。
2018年時点で、全国のマンションの75%で、修繕積立金が国の目安とする水準を下回っているという。つまり、まともに修繕できるマンションは4件に1件しかないのが現実だ。
なぜこうしたことが起きているかというと、売り手のデベロッパーが売ることを優先するため、修繕積立金を低く設定するからだ。買う側も、毎月のローンや管理費があるから、遠い将来のことなど考えずに、目先で削れそうなところを削りたがる。

日本の団地やマンションが多く建ち始めたのは1970年代だ。人口が右肩上がりに増えて住宅不足が深刻になった時代である。そこで、政府が法律をつくって、計画的に住宅の供給を始めた。地価は高くなり、普通の勤め人は郊外に家を買うしかなくなった。だから郊外にマンションが多く建った。
こうした背景もあり、日本の団地やマンションには、同じような年齢の人が入居しているケースが多い。かつては子持ち世帯で賑わっていた団地も、高齢化が進んですでに廃墟寸前のようになっているケースも珍しくない。

マンションの建て替えには住民の5分の4の同意が必要だ。だから、建て替えが検討されたところで実現は難しい。高齢化が進めば、多くの住民は「ずっと住んでいくからいいや」と住居の改修に費やす意欲もなくなる。建て替えどころか、修繕や改修もおぼつかなくなれば、新しい入居者はこない。そのまま住居者がいなくなっても買い手がつかず空き家になる。買い手が見つからなければ、誰でもいいからと貸すといったケースも増えていく。
その結果、マンションや団地全体が「スラム化」していき、管理費や修繕積立金も滞納が目立つようになる。こんな負のサイクルが今、日本中で起きようとしている。

東京も、都心部以外は住宅の窓ガラスが割れていても誰もおかしいとは思わない世界がすぐそこまで来ているといっても過言ではない。老朽化マンションが増えれば、周辺の住宅価格は押し下げられる。2040年には首都圏の住宅価格が半分になるのではとの指摘もある。
そもそも、土地はごくわずかの値上がりする土地、安定している土地、値下がりする土地、売れなくなる土地に大別される。おそらく、一般人が個人で売買できるのは、これから値下がりする土地か売れなくなる土地しかないかもしれない。

マンションに関して、お先真っ暗な未来しか描けないかもしれないが、希望もある。人口増が望めない以上、新築の物件は減り、戸建ての空き家はどこかで頭打ちになるはずだ。
資産価値が見込める一部を除き、住宅の価値は下落する。家を買うにしても借りるにしてもコストは下がる。おそらく、自分の家が欲しいと考える人は、サラリーマン層にはいなくなっていくだろう。家を買う必要がないと考える人が増えれば、家の価格はさらに下る。つまり、マンションも戸建ても買わない方がいい。
昭和・平成の時代にサラリーマンを縛った「35年住宅ローン」は文字通り過去の遺物となり、買わずに借りるにしても家賃が収入に占める割合は劇的に下がる。そうなればローンを苦にした自殺者も減る。
すでに、2020年時点で、定額制で日本各地の家に住み放題のサービスがいくつも生まれている。2040年は住宅が飽和状態になる以上、こうしたサービスが増え、家はよりどりみどりになるはずだ。平日と週末、季節ごとに気軽に家を変えて過ごすというライフスタイルも可能になるだろう。住宅は発想を変えれば、意外に楽しめる一例ではないだろうか。

『2040年の未来予測』 chapter #03 より 成毛眞:著 日経BP:刊

団地やマンションの空き家が増え続ける一方なのは、人口減少によって需要が減っていることだけが原因ではありません。
建て替えや改修が進みにくい制度上、構造上の欠陥があることの方が大きな問題なのですね。

住宅価格が下がり、さまざまなライフスタイルを楽しめるようになるのは嬉しいことです。
一方、マンションのスラム化による治安の悪化、地震による倒壊の危険を防ぐには、不動産の新陳代謝を促す制度の改正が急務となります。

「温暖化」によって戦争が起こる!

成毛さんは、戦争の理由は、基本的には資源と富の収奪だと述べています。

つまり、その構造が変わらない限り、20年後も戦争は起こり続けているだろうということです。

では、20年後の戦争は、何をめぐる争いとなるのでしょうか。

 温暖化により異常気象が続くと、危惧されるのは食料の奪い合いだ。人口が増え続ける未来では、将来の食料不足が懸念されるが、異常気象が食糧難に拍車をかける。農作物がこれまでどおり育たなくなるからだ。地球温暖化で、生産に適した土地が年々限られるようになる。
特に南半球はいまだに一次産業(農業、林業、鉱業、漁業)の比率が高いので死活問題になる。南半球で生産され、北半球で売られるものを「南北商品」といい、これらは彼らの生活を支えるが、温暖化によりすでに難しくなっているものもある。
南北商品の代表例はコーヒーだ。コーヒー生産の6割程度を占める「アラビカ種」の生産に適した土地が、温暖化により2050年に半減する危険性があるという。
2040年の気温は、産業革命前より2度以上上昇するのは避けられそうもない。そうなれば、干ばつや猛暑を含む異常気象が頻発するだろう。インドから中東の都市では、夏の外出が命がけになる。
アフリカでは2050年までに栄養失調児が1千万人増え、2100年までに降水量は40%低下する可能性がある。耕作地は最大90%、1人あたりの食料は15%減るとの予測もある。
気候リスクは枚挙にいとまがない。温暖化のみならず、すでにイナゴの大量発生など、かつては30年に一度といわれた出来事が毎年のように世界のどこかで起きていることからもわかるだろう。
こうした状況が改善されなければ、当然、食料の価格は上昇し、貧困はさらに蔓延する。

1995年に、世界銀行環境担当副総裁であったイスマイル・セラゲルディン氏が発した警告がある。それは「20世紀の戦争が石油をめぐって戦われたとすれば、21世紀の戦争は水をめぐって戦われるであろう」というものだ。食料不足もそうだが、その前に深刻な水不足も起きるだろう。水は石油よりも貴重になる。
すでにアフリカでは、気候変動による水不足に2億5000万人が直面している。2050年は、アジアでも水不足が起こる。10億人が水不足に陥り、世界中の都市部で利用できる水が今の3分の2まで落ち込む。
水不足で戦争も起きかねない。かつて、エジプトとスーダン、エチオピアがナイル川の利権でもめたような事態が常態化する。20世紀には石油の利権が戦争を引き起こしたが、21世紀は水を巡る戦争が多発するはずだ。
アメリカの国家情報長官室がまとめた報告書がある。ここでは、将来水が不足し、それが原因で争いの種になることが言及されている。水の確保をめぐり、大河流域の国々で緊張が高まり、上流の国が水を独占したり、ダムなどを狙ったテロが起きたりする恐れがあるというのだ。
荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、この報告書は、水不足をめぐって戦争が起こるリスクを分析するために国務省の指示で作成されている。それだけ、気候変動と水不足の引き起こす事態を憂慮しているのだ。
ちなみに、深刻な水不足に陥る地域はパキスタンやインド、中国だ。いずれも核保有国だ。
アメリカが「世界の警察」を自負しているなら、にらみ合いになっても着地点を見いだせたかもしれないが、残念ながら自他ともに認めていない今となっては、ワーストシナリオも想定しなければならないだろう。北半球の先進国は軒並み疲弊しており、自国の問題だけで手一杯なはずだ。
気候変動がもたらす不安や連鎖反応が最悪の展開になることは広く知られる。気温と暴力の関係を数値化する研究によると、平均気温が0.5℃上がるごとに、武力衝突の危険性は10〜20パーセント高くなるという。
もちろん、どこまで温暖化するかはわからない。

本章では気温上昇のいくつかのシナリオを想定したが、現時点で、2040年に気温がいくら上がるか特定することは難しい。大気の成分の変化が、どの程度の気候変動につながるかは予測できない。また、これから20年、世界ではどのようなエネルギーがどういう状況で使われるか、林業や農業などが新興国でどの程度広がるかなど不確実性が高い。
とはいえ、どのような対策を打とうが、2040年の世界が、明らかに現在より肌感覚で暑くなっているのは間違いないだろう。
地球温暖化は、人口が増え、経済活動を続ける限り、回避は不可能だ。そして、戦争と違って、世界の誰かによって適切な方針が決められ、あっさり回避することもない。あなたのあらゆる経済活動や消費活動が温暖化の原因になっており、それが将来のもめごとのきっかけになりかねないことを私たちは自覚すべきかもしれない。

『2040年の未来予測』 chapter #04 より 成毛眞:著 日経BP:刊

これからの戦争は、食料や水をめぐる争いが主になります。
それを防ぐカギは、やはり「テクノロジー」が握っています。

場所によらず、安価で安全な食料や水を作り出せる。
そんな革新的な技術が開発されれば、根本の資源の不足そのものを解消できる可能性があります。

大規模な気候変動をもたらす地球温暖化は、食料不足や水不足を悪化させる元凶です。
今、真っ先に取り組むべき課題だということも、この事実からもよくわかりますね。

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少子高齢化が進み、借金が膨らみ続け、欠陥だらけの社会構造の改革も遅々として進まない日本。
そんな国の将来は、明るい兆しを見いだすのは難しいです。

成毛さんは、国を忘れて、これからの時代をどうやって生き残るのかをまず考えるべきで、どうすれば幸せな人生を送れるかに全エネルギーを注ぐことに集中すべきだとおっしゃっています。

20年後、そんな遠くない未来は、誰にも平等に訪れるわけではありません。
どちらの方向に向かうか、どんな備えをするかで、まったく異なった世界を生きることになります。

テクノロジーの進化は、私たちの未来そのものです。
本書は、まさに私たちの進む先を照らしてくれる“ヘッドライト”ともいえる一冊です。

ぜひ、手にとってみてください。

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