【書評】『すごい左利き』(加藤俊徳)

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お薦めの本の紹介です。
加藤俊徳さんの『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』です。

加藤俊徳(かとう・としのり)さんは、左利きの脳内科学者、医学博士で、発達脳科学、MR脳画像診断がご専門です。

左利きは「両脳使い」のすごい人!

日本人全体の約1割しかいない「左利き」。
大勢を占める右利きの中で、違和感を抱えながら暮らしている人は少なくないでしょう。

加藤さんは、左利きの感じる違和感は、脳の仕組みの違いによるものだと指摘し、左利きは独自の脳の使い方をする「すごい」存在だと指摘します。

 まず、基本的な脳の仕組みについて、説明しましょう。
人間の脳の働きは、「脳番地」という考え方で理解できると私は考えています。
脳には1000億個以上の神経細胞がありますが、同じような機能を持つ細胞同士が集まって「基地」を作っています。

私は、この「基地」の機能ごとに、住居表示のように番地を振りました。
脳番地は、脳全体でおよそ120あり、右脳と左脳にそれぞれ60ずつ分かれています。つまり、脳には少なくとも120もの働きの違いがあるということです。

一般の方が理解しやすいよう整理し、機能別に脳番地を大きく8つの系統に分けたのが次の分類です。

・思考系脳番地=何かを考えたり判断することに関わる
・感情系脳番地=感性や社会性、喜怒哀楽を感じ、感情を生み出すことに関わる。
脳の複数の部位に位置し、運動系の背後に接している感覚系脳番地は皮膚感覚を通じて感情が活性化する
・伝達系脳番地=話したり伝えるコミュニケーションをとることに関わる
・運動系脳番地=手足や口など、体を動かすこと全般に関わる。手、足、口、目の動きを司る脳番地は運動系の中で別々に分かれている。手足は、脳の対側が支配しているのに対して、口や顔の動きは、片側の脳から両側の動きを司る両側支配になっている。
・聴覚系脳番地=耳で聴いた言葉や、音の聴覚情報を脳に取り入れることに関わる
・視覚系脳番地=目で見た映像、読んだ文章など視覚情報を脳に取り入れることに関わる
・理解系脳番地=目や耳から入ってきたさまざまな情報や言葉、物事を理解、解釈することに関わる
・記憶系脳番地=覚えたり思い出すことに関わる


これらは、一つの動きに対して一つ脳番地だけが対応するわけではありません。

たとえば、人と会話するだけでも、声を聞くための「聴覚系脳番地」、言葉を理解するための「理解系脳番地」、相手の表情を読み取るための「視覚系脳番地」、そして自分の伝えたいことを表す「伝達系脳番地」などが連携して働きます。

人間の脳も、目や耳、そして手足のように見た目は左右対称です。
また右脳にも左脳にも、同じ機能を持つ脳細胞が、同じように存在しています。
実際に「思考系」「感情系」「伝達系」「運動系」「聴覚系」「視覚系」「理解系」「記憶系」の8つの脳番地は、左右の脳にほぼ均等にまたがっています。
でも、実は私たちの脳は「右脳」と「左脳」で役割分担をしています。
たとえば、同じ「感情系脳番地」でも、左脳では自分の感情や意思を作り出し、右脳は自分以外の人の感情を読み取る働きをしています。
また、左脳の「視覚系脳番地」では文字や文章などを読み取り、右脳では絵や写真、映像などを処理します。
左右の脳の働きが異なることがわかったのは、まだごく最近のことです。
アメリカのカリフォルニア工科大学のロジャー・スペリー教授は、それまで左脳より劣っていると考えられていたため、劣位半球とされていた右脳の働きにも、左脳よりも優れている機能があることを発見してノーベル賞を受賞したのが、1981年です。
その後、1991年に私は人体に害を与えずに近赤外光を使ってベッドサイドや移動中の脳の働きを画像化できる脳科学技術(fNIRS(エフニルス)法)を生み出しました。そしてそのときから、「漢字を書くとき」「赤ちゃんがお母さんの顔を見るときなどの人々の現実の生活と関連する脳番地の研究が進んできました。
その結果、左脳は主に言語情報の処理に関わっていること、そして右脳は非言語である画像や空間の認識を担当しているということも明らかになっています。

こうして、右脳と左脳は異なる働きを担っていますが、左右対称に同じ働きをする脳番地もあります。
それが「運動系脳番地」です。
右利きの人は左脳の運動系脳番地が、左利きの人は右脳の運動系脳番地が発達しています。
なぜなら、右脳から出た命令は左半身の筋肉を動かし、左脳は右半身の動きをコントロールしているからです。
その一方で、人は左手を使うことで右脳を、そして右手を動かすことで左脳を刺激しています。
つまり、左手をよく使うと右脳が活性化し、右手を主に動かせば左脳が発達するのです。

日々の活動で、頻繁に動かす部位の一つが両手です。
物をつかむ、叩く、ページをめくったり小さなものをつまんだりと、私たちのカラダ全体で、最も複雑な動きができるのも手です。
人間の肘から手首までの間には10種類ほどの筋肉がありますが、手首から先にはその3倍近くもの筋肉があり、細やかな動作を可能にしています。
この両手の筋肉に「どう動くか」の指令を出すのが脳です。
つまり、脳が速いスピードで回転するからこそ、日常的に繊細な動きができるのです。

また、運動系脳番地の中で、10本の指は別々な脳番地に支配されています。さらに、運動系脳番地は他の7つの脳番地とつながっています。

たとえば、箸で小さなものをつまむだけでも、対象となるものの存在をとらえるために「視覚系脳番地」が働き、実際に手を動かす「運動系脳番地」と、箸の使い方を覚えている「記憶系脳番地」も刺激されます。
また、高いところにある木の実を取りたいと思ったとすると、どの実がいいか「視覚系」で決め、「思考系」を使ってどうやって取るか考えます。
「長めの棒で叩くと落ちるのでは?」と「理解系」で推測したら、実際に「運動系」を使って木の枝を叩いてみます。

こうして手を使いながら行動することで、たくさんの脳番地を使って、人は脳を発達させてきたのでしょう。

右脳と左脳は役割が異なりますが、左利きにとって重要なのは、高い割合で「右脳が非言語系」「左脳が言語系」を担当していることです。

ある研究によると、右利きの人のおよそ96%が左脳で言語系の処理をしていたのに対し、左利きはおよそ73%が左脳で、両利きでは、85%が左脳で言語系の処理をしていると結果が出ています。
左利き、右利きを問わず、7割以上の人が左脳で言語処理を行っているのです。
すなわち、右利きは、右手で文字を書くときに、左脳の運動系脳番地を使いながら、左脳の伝達系脳番地で言葉を生み出すので、左脳の中でネットワークを使います。
一方、多くの左利きが右利きに比べて、左手を右脳で動かしながら、左脳で言語処理をしています。左脳と右脳の両方のネットワークを同時に使わないと、文章を綴れないことになります。

つまり、左利きは両方の脳を使うため、「言葉を使って考えをまとめるのに時間がかかる」傾向があるということです。
言語処理が得意な左脳を常に右手で刺激している右利きと違い、左利きは非言語情報を扱う脳を主に働かせています。
言葉に置き換えて言いたいことを発するまでに使用する脳のルートが、ほんの少し遠回りなのです。
また、自分の言いたいことのイメージと言葉をつなぐ前に話をしてしまうことがあるため、周囲からずれて聞こえたりもします。

現代人は言葉を使ったコミュニケーションが主であるため、左利きが日常で抱く違和感にもつながっていると言えるでしょう。
もしかすると、うまく話せないとコンプレックスを持つ左利きもいるかもしれません。
ですが、右脳には右脳の得意分野があります。
言い換えれば、本書で紹介していく内容は、右脳を発達させた10人に1人の左利きしか持っていないアイデンティティなのです。

『すごい左利き』 序章 より 加藤俊徳:著 ダイヤモンド社:刊

図1 脳番地 すごい左利き 序章


図1.脳番地
(『すごい左利き』 序章 より抜粋)


図2 左手を使うと右脳が発達する すごい左利き 序章


図2.左手を使うと右脳が発達する!
(『すごい左利き』 序章 より抜粋)


図3 左利きの会話は両脳使い すごい左利き 序章


図3.左利きの会話は両脳使い!
(『すごい左利き』 序章 より抜粋)


本書は、脳科学の見地から見た、左利きの「すごさ」を解説し、その潜在能力を覚醒させるためのノウハウをわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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右脳は「巨大なデータベース」!

左利き独特の脳の使い方が生み出す、すごい個性の1つ目は「直感」です。

加藤さんは、「直感」とは意識では覚えていない膨大な情報を蓄えている脳のデータベースから、精度が高く、より正確な情報を選択して導き出された結果だと考えています。

 ここで、右脳と左脳が扱う情報の違いを説明しましょう。
右脳は、モノの形や色、音などの違いを認識し、五感にも密接に関わっています。
一方で左脳は、言語情報を扱い、計算をし、そして論理的、分析的な思考をする機能をもっています。
つまり、右脳は、視覚や五感をフルに活用した、言語以外のあらゆる情報を無意識のうちに蓄積している巨大なデータベースです。
そのため、常に左手から右脳に刺激を送り続けている左利きは、膨大なデータからベストな答えを導き出す直感に優れているのです。

近年では「論理的思考」がよいこととされ、ビジネスの場などでは「ロジカルな人」がほめ言葉のようになっています。
論理性を重視する人は特に、言葉の定義や選択などにこだわる傾向があります。
もちろん私も、脳科学者として事実を伝えるための言葉の選択には気を配ります。
しかし、それはあくまでも科学的な真理を追い求めた結果に、言葉がついてくるだけです。
左利きの私からすると、多くの人は言葉そのものにこだわりすぎて、直感の恩恵を失っているように思えてなりません。
なぜなら直感は「言葉で論理的に説明可能なもの」としては表れないからです。
論理とは誰でも同じように使えるルールのため、ロジカルに考えて導き出される結論は、誰が考えても同じになります。
しかし、科学の世界では「仮説→検証」というステップを踏むときに、特に仮説の段階では、発想の飛躍が求められます。
そのため、「もしかしたら、こうではないか?」という仮説は、多くの場合、直感をもとにして立てられています。
なぜなら、今、自分たちが知っている論理をいくら積み重ねても、到底、新たな発見につながる仮説には結びつかないからです。
現在は真理に近いとされていることでも、最初は「荒唐無稽なアイデア」だと思われていたことがほとんどでしょう。

たとえば、「子どもは親に似る」のはなぜかと考えたとき、遺伝情報を伝える科学的な物質があるのではないかと考えたメンデルの「遺伝子説」は、当時は他の科学者に嘲笑されたと言われています。
そしてメンデルの死後に、やっと論文が再発見され「メンデルの法則」が報告されたのです。
「仮説→検証」という一見、とてもロジカルに見える過程でさえ、直感抜きでは成り立ちません。
言葉で論理的に説明できないものをすべて否定してしまうと、自分の可能性を狭めることにつながってしまうでしょう。

近年では、毎日のように「人工知能」や「AI」という言葉を耳にします。
しかし、そもそも「AI」が模倣しようとした人間の脳の仕組みは、1990年代以降にやっとその働きを画像化できる技術が生まれ、少しずつ研究が進んできたばかりです。
「人間と同じように考えるコンピューター」は、まだどこにもありません。
人間の直感は、AIを超えた超高度な脳を使った人間だけの技術です。
意識的にやってもわからないこと、難しいことは直感を大切にすると正しい選択ができると私は確信しています。
(中略)
直感の正体は、脳にストックしてある知識量や情報量を、自分では意識できないほどの高速で回転させて得たアウトプットだといえます。
つまり、直感の精度をあげるには、そもそものデータ量を増やすことが最も大切です。
私たちの脳は、直接、外界と接することはできません。
そのため、目や耳、手足などの器官を通じて、情報を運び込んであげなくてはなりません。
もちろん、たくさんの本を読んだりして文字情報としての知識を得ることも、脳のデータ量を増やすために大切です。
その上で、言語以外のあらゆる情報を蓄積している右脳のデータ量を増やすことで、直感を生み出すことに磨きをかけることができます。
左利きはそもそも、左手を使って右脳を刺激し、言語以外の情報を無意識のうちに受け取っています。
この「言葉以外の情報」を意識して増やすようにすればいいのです。

たとえば、次のようなことです。
・朝起きて観葉植物に水をやるとき、土の乾き具合や一つ一つの葉っぱの色や形に目を配る。
・コーヒーを淹れたら、お気に入りのカップに入れて香りを楽しむ
・「きれいなもの」「かわいいもの」を見たり集めてみる
・アニメキャラを思い出す
・歩きながら、色のついたものを見つけてみる
・ペットや動物をじっと見つめてみる

これらのことをするだけで、直感に磨きをかけることができます。

『すごい左利き』 第1章 より 加藤俊徳:著 ダイヤモンド社:刊

図4 右脳は巨大なデータベース すごい左利き 第1章


図4.右脳は巨大なデータベース
(『すごい左利き』 第1章 より抜粋)


直感は、もともと脳に備わった能力だということ。
当然、鍛えれば鍛えるほど、受け取る頻度も正確性も高まります。

直感を鍛えるコツは「言葉以外の情報」を意識して増やすこと。
何より、直感を信じて意識して使う習慣をつけること。

右脳のデータベースを使いこなせるようになりたいですね。

左利きは「天性のコピーライター」!

左利き独特の脳の使い方が生み出す、すごい個性の2つ目は「独創性」です。

左利きは、そもそも、9割の右利きとは脳のネットワークの構造が異なりますから、大多数とは異なる個性が備わっています。

加藤さんは、左利きが持つ豊かなアイデアが発揮されるのが、広告などのコピーライティングの分野だと述べています。

「え、言葉を扱うのは左脳だから、コピーを書くのは右利きが得意なんじゃないの?」と、あなたは思ったかもしれませんね。
もちろん、言いたいことを論理的に文章で説明するのは右利きが得意かもしれません。でも、一言でイメージがパッと伝わるようなコピーを書くセンスがあるのは、断然、左利きなのです。

西脇順三郎の詩集『Ambarvalia』に「天気」という3行の詩があります。

「覆(くつがえ)された宝石」のような朝
何人か戸口にて誰かとささやく
それは神の生誕の日

このたった一言の「覆された宝石のような朝」を読むだけで、「宝石がちりばめられたようなキラキラした朝の光」がイメージできるのではないでしょうか。
私は、こうして読んだらすぐ情景が目に浮かぶような「イメージ言語」を作るのが、上手なコピーライティングだと考えます。
「宝石」「朝」「覆された」という言葉は、みんな知っています。
このバラバラの単語を結びつけるのが「イメージ」です。

左利きは、カメラのシャッターを押すように、瞬間的に画像で情景をとらえるのが得意です。そのイメージに言葉を結びつけて、独自のコピーを書くことができるのです。

また、そもそもコピーとは、伝えたい概念を短く表したものです。
言葉を組み立ててメッセージを構築するよりも先に、そのものの本質をとらえていなければなりません。
そして、全体をとらえる視野を持つのが右脳です。
つまり、コピーライティングは包括的に本質をとらえて言葉にできる左利きが得意だと言えるのです。

「個性的なアイデア」という芽が出ても、しっかり育ててあげなければ実のなる大木には育ちません。
実は、私はADHD(注意欠陥・多動性障害)の脳の傾向が強いため、35歳くらいまでは頭に何か浮かんだら「あれもやりたい」「これもやりたい」と、あちこちに手をつけてどれも中途半端に終っていました。
思いついたらすぐにカタチになったり成果が見えたりしなければ気がすまず、せっかくのアイデアを活かしきることができていなかったのです。
ところが、アメリカのミネソタ大学放射線科に招かれて研究を始めたとき、当時の上司の「一つのことに専念してみなさい」という一言がきっかけで、アイデアを忍耐強く、深く掘り下げて育てることに目覚めました。
それ以降、私の人生は大きく変わりました。

私の例でお話すると、1991年に発見した「fNRS(エフニルス)法」は、頭皮の表面から近赤外光を照射して、光が脳内で散乱して再び頭皮上に戻ってくる光を集積することで、脳の活動を血液中のヘモグロビンの動態から計測します。
その後、画像の精度が高いMRIが多く研究されるようになりましたが、人間が仰向けで動かずにいないと計測できないなどのさまざまな問題点がクローズアップされました。
そして、その間「もっと、脳の働きを簡単に精度が高い方法で計測できないか」と考え続けた結果、2002年に頭皮の表面から、ヘモグロビンよりも1万分の1小さい酸素の動きを計測する技術「ベクトル法fNIRS(エフニルス)」を生み出したのです。
この間、10年以上もかかっています。

発明のコツをつかんだ私は、人の個性を脳画像化して捉えて、強み弱み、適職まで鑑定できる加藤式MRI脳画像診断法(脳相診断)を開発しました。これは、1991年に発表した後、2003年にノーベル医学生理学賞を受賞したポール・クリスチャン・ラウターバー博士にも認められた研究でしたが、2008年に完成するまで17年かかりました。
生まれたアイデアをじっくりと養うことで、想像以上の収穫を手にすることができるようになったのです。

実際に、生まれたアイデアをどうやってじっくり育てるのか、簡単に説明しましょう。
たとえば、「これまでにないスタイルのコップがほしい」と考えたとしましょう。
「こんなカタチがいいかな?」と思うものをまずは書きとめておきましょう。
そこから少しずつ、陽にあてたり水をやったりして育てていきます。
具体的には、コップのことを頭の片隅に置いて忘れずにいて、新しい何かが浮かんだら書き加えてふくらませ、少しずつバージョンアップしていくのです。
「ピカソだったらどんなコップを作るかな?」「岡本太郎なら、どうするだろう」などと、1章で紹介した「憧れの人だったらどうする?」のように脳に問いかければ、新たなアイデアが広がることもあるでしょう。
それを1ヶ月、3ヶ月、半年、そして、1年、2年と続けていけばいいのです。

私は30歳を超えてから、こうして続けることを学びましたが、多くの左利きはそもそも成長するなかで、無意識のうちに忍耐力を養っています。
なぜなら、「右利きならあたりまえにできることがうまくいかない」というマイナスからのスタートを克服するために、日々、トライ&エラーを繰り返しているからです。
その上で左利きは、「アイデアを育てる」という意識を持ちましょう。
そうすれば、アイデアをカタチにする確率がグンと高まるでしょう。

『すごい左利き』 第2章 より 加藤俊徳:著 ダイヤモンド社:刊

加藤さんは、左利きが、時間をかけてアイデアを育て独創性を発揮するために、気をつけるポイントは、他人の評価に振り回されないことだと述べています。

左利きに限らず、独創的なアイデアは、つねに少数派です。
周りの多数派に惑わされずに、育てていく意識が必要だということですね。

「ワンクッション思考」のひと手間が脳を強くする!

左利き独特の脳の使い方が生み出す、すごい個性の3つ目は「ワンクッション思考」です。

ワンクッション思考とは、簡単に説明すると、右脳と左脳をつなぐ神経線維の太い束である「脳梁(のうりょう)」を介して両方を頻繁に行き来する脳の使い方のことです。

 では、なぜ左利きは右利きと比べて、右脳と左脳を両方使うことが多いのでしょうか。
大きな理由としては、左利きは利き手で右脳を活性化させると同時に、現代社会で生活するために欠かせない、言語情報の処理を行う左脳も絶え間なく使うことからです。

そして、左利きは右利き優先の社会に順応しようと、左手だけではなく右手を使う機会が多いために、両手で両方の脳を刺激しています。
私は自分の意志で右手も動かせるように訓練しましたが、多くの左利きも動作によって、左手と右手を使い分けていることが多いものです。
たとえば、ビンの蓋を開けるときやネジまわしを使うとき、またガスの元栓を閉めるときなどは右手がやりやすいという人が多いでしょう。
自動販売機にお金を入れるときや、自動改札機を通るときなども右手を使うほうが便利です。
文字を書くのやスマホの操作は右で、ボールを投げるときは左という人も少なくありません。
右利きが、動作によって左手も使うということは、ほぼありませんよね。
そのぶん左利きは、両脳を刺激する機会に恵まれています。
こうして脳梁を通る「ワンクッション」が、右脳と左脳、両方を覚醒させ、脳を強くしています。
そして、使える脳の範囲が広がることで、左利きのすごい「直感」や「独創性」が生み出されているのです。
実際に、次のページでは私が開発した脳の枝ぶり画像で、左利きと右利きの理解系脳番地を通過する断面を比較してみました。黒く示された領域が脳が使われて成長していることを示します(下の図5を参照)。
これを見ると、右利きに比べて左利きは左右とも黒く示されています。

私たちは、日々、積み重ねた経験によって脳の中にさまざまなネットワークを形成してます。
いちいち意識しなくても自動的に、歩いたり箸を使ってものを食べたりできるのは、このシステムのおかげです。
しかし、手持ちの自動化されたシステムばかりで満足していると、脳の使い方がワンパターンになり新たな発想を生み出しにくくなります。
ところが、左利きは多くの脳の回路を使用する「ワンクッション思考」をせざるを得ない仕組みを持っています。
このことが、左利きの発想力が豊かである大きな理由の一つだと言っていいでしょう。
また、人は自分が見ている世界の範囲でしか、考えることができません。
そのため、ものごとを真正面から見るだけでなく、あらゆる方向から多角的に検討することで視野が広がり、発想力が豊かになります。

左利きは「右利き社会のあたりまえ」を、常にあらゆる角度から分析し、ぞうやったら自分もできるようになるのか、左右の脳を使って考えてます。
私は、小学校のときの体育の授業で、野球をするのにグローブが必要だったのですが、左利き用がなかったためダメ元で右利き用に手を入れて使っていました。
このような体験は右利きにはないはずです。
習字の時間に自分だけ硯(すずり)が左側で、「恥ずかしい」と思うことも、右利きにはありません。
これらは、差別ではないまでも、右利きの人は気づかない、知られざる右利き優位社会の一場面です。

また、ある左利きの女性は、学生時代にノートをとると手が黒くなることに不便を感じていました。
そこで、クリアな下敷きを手と用紙の間にはさみ、汚れないようにしていたと言います。
こうして、ちょっとしたことにも工夫をしている左利きは少なくないはずです。

このようになことから、左利きは知らず知らずのうちに、新たな発想を生み出しやすい「脳の体質」になっているのです。
さらに左利きの活性化された右脳は、部分だけでなく全体をイメージでとらえるのが得意です。
ものごとを俯瞰的に見ることで、そこに足りないものに気づきやすくなります。
そうして、理想のゴールに欠けているものを、どんどん生み出すことができるのです。

『すごい左利き』 第3章 より 加藤俊徳:著 ダイヤモンド社:刊

図5 左利き 上 と右利き 下 のMRIによる脳の枝ぶり画像 すごい左利き 第3章


図5.左利き(上)と右利き(下)、のMRIによる脳の枝ぶり画像
(『すごい左利き』 第3章 より抜粋)

加藤さんは、右脳という倉庫に収められたイメージ情報は、カテゴリーはまったく関係なくバラバラに浮いていると述べています。

つまり、左脳を「きれいに整理された情報の倉庫」とすると、右脳は「並列情報の倉庫」に例えることができます。

多くの左利きは、まず「並列情報の倉庫」に入ってから、「きれいに整理された情報の倉庫」にいかなければならなくなるため、常に遠回りをしてしまうということ。

遠回りするということは、より長い神経回路を使い、より多くの脳番地を使うということ。
左利きの人は、「ワンクッション思考」を鍛えて、ユニークな発想をより活かせるようにしたいですね。

時代を超えて愛さるアーティストは「両脳使い」

パブロ・ピカソ、W・A・モーツァルト、岡本太郎・・・・・。

偉大なアーティストが残した、時代を超えて愛される芸術作品は、いかにして生まれたのでしょうか。

加藤さんは、こうした卓越したアーティストには共通の脳の使い方があるのでないかと考えています。

 芸術には必ずメッセージがあり「これを伝えたい」という情熱は右脳の守備範囲です。
そして、そのパッションを形にしていくのが左脳の役目です。
つまり、両方の脳をまんべんなく使うことで、表現の精度が高まるのです。
たとえば、お皿や壺をつくるとしましょう。
焼き物は、土の配合や焼く温度などのほんの少しの違いが仕上がりを大きく左右します。理想の姿にたどり着くまで試行錯誤し続けるには、右脳が持つ情熱はもちろん、冷静に失敗の理由を分析して次に活かす、左脳のサポートが欠かせないでしょう。

長い時間が経っても人々に愛される作品とは、本質をとらえていて古びません。
だからこそ、時代や国境を超えて多くの人に受け継がれて行きます。
その最大のポイントである「本質をつかむ」ことが得意なのが右脳です。
右脳は、直感でものごとのエッセンスを感じ取ります。
左利きは、左手を使うことで自然と右脳を育てています。
その上でもっと左脳を活用すれば、細部にまで気を配った完成度が高い何かをつくることができるようになります。

私は、自分と同じ左利きに会うと、子どもの頃からの親友に再会したような気持ちになります。
少数派なだけに「左利きに会うとうれしい」と感じる左利きは少なくないでしょう。

左利き同士であれば、お互いに、ちょっとした一言から情景をイメージできますから、細かく言葉を尽くさなくてもわかりあえることが多いでしょう。
「ああいう風にやったら、楽しかった」
「わかる、そうだよね」
「それ、いいよね」
などという、右利きが聞いたら「何が言いたいのかわからない」会話で盛り上がることもあるはずです。

でも、社会人になると会議などで発言を求められる場面が増えます。どうしてもちょっとした一言だけですますことができなくなるのです。
そこで左利きは、日常生活の中であえて右利きの話し方を真似したり観察してみましょう。そうすることで、言語化のトレーニングを積むことができます。

また、左利きと右利きは、お互いの得意分野を踏まえていれば、どちらも思う存分、才能を発揮できる環境をつくることができます。
左利きの活性化された右脳には、さまざまな情報がバラバラに並んでいます。
左脳のように、一つずつつながってきちんと時系列に並んでいるのとは異なり、あらゆる情報は結びつかずにプカプカと浮いています。
そのため、左利きは思いついたことをサッと取り出すのが簡単です。
つまり、左利きはアイデア出しや、ブレストなどは得意なのです。
しかし、左利きだけが集まっていると「じゃあ、具体的にはどうしたらいい?」という行動に結びつける力が、どうしても弱くなります。
そこで、思いついたことを具現化するのが得意な右利きの助けが必要となるのです。

左利きと右利きは、役割分担をすることで、左利きの持つアイデアを実現する確率がぐんと高まり、一方で右利きも、自分たちだけでは思いもよらない斬新なアイデアを取り入れることができるでしょう。

左利きが豊かな人生を送るのをじゃまするものがあるとすれば、それは自分自身を否定する心です。
自分を右利きと比べて、言葉でうまくまとめられないから「頭の回転が悪い」とか、思いつきばかりでなかなか実践できないから「行動力がない」などと劣等感を抱いて、自分を低く評価してしまう・・・・・。
これさえなければ、左利きは右利き社会のなかで「10人のうち、1人しかいないマイノリティ」ではなく、「10人にたった1人だけの選ばれた者」になることができます。

自分の実力を過小評価しない、すごい左利きになるためにできるのが、もっと左脳を使うことです。
私も以前はそうだったのですが、左利きの悩みはどうしても感覚的になりやすいです。
「何がやりたいかわからない」「自分ばかり理不尽に注意されてる?」などとモヤモヤした思いがあっても、そのままにしておくだけでは浮かんでくる答えも漠然としたものになりがちです。
そのため私は、ここ数十年は気になることがあると、それをあえて言語化してノートに書き出すようにしています。
たとえば、何か不安を感じるようなできごとがあったら、そのことをノートに書き「なぜ、そう感じるのか」と言葉で自分に問いかけるのです。
すると「過去に同じような場面があったから」とか「今日は体調が優れなくて、なんでもネガティブに受け取りがちだったかも?」などと答えが見えてきます。
そうすれば「前と同じ行動はしない」「今日はぐっすり眠って、明日また考えよう」などといった悩みの解決法もおのずと浮かんでくるでしょう。
今は変化の激しい時代だからこそ、私は左利きの発想力が世の中に求められていると思っています。
右利きが主に使う左脳は、言葉や計算、そして論理的、分析的な思考をする「直列思考」が得意です。そのためどうしても「これまで」とは離れた、斬新な考えが生まれにくいです。
一方で右脳は、さまざまな情報が同じようにプカプカと浮かんでいる「並列思考」の脳です。だからその情報を自在に組み合わせることで、柔軟な発想が生まれます。
つまり、行き詰まったときや何か危機が起きたときなどに、局面を打開する新たな考えを生み出しやすいのです。
何が起こるかわからない、これまでの常識とはかけ離れた事態に陥る可能性が少なくない今、左利きは社会に強く求められていると知っておいてほしいです。

『すごい左利き』 第4章 より 加藤俊徳:著 ダイヤモンド社:刊

左利きと右利きの違いは、優劣ではなく個性。
左利きには、多数派の右利きにはない得意分野があるからこそ、価値があるということです。

苦手なことは、得意な人にまかせる。
得意なことは、さらに磨いて強力な武器にする。

誰も真似できない、すごい左利きを目指したいですね。

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加藤さんが、本書でもっとも伝えたかったこと。
それは、左利きのすごさに加え、「違いがあるのはあたりまえ」ということです。

日本の教育は、これまで「学力」という脳の一部の能力しか育てようとしませんでした。
日本の社会全体も、「学力」という一つのものさしで優劣を判断する風潮が強かったです。

人間の脳は、一人ひとり形も違えば、神経回路の構造も、使う回路も違います。
当然、得意なことも違えば、苦手なことも違います。

今の時代は以前より、価値観が多様化し、さまざまな考え方が許容されるようになりました。
これから、その流れはさらに加速していくでしょう。

人間の能力・特徴を、優劣ではなく、個性としてとらえる。
長所をさらに伸ばし、短所は互いに補い合う。

左利きと右利きの脳の仕組みの違いを知ること。
それは、これからの「個性の時代」を生きるうえで必要不可欠なことかもしれません。

古い価値観を捨て、新しい常識を身につける。
そのためにも、左利きの皆さんだけでなく、右利きの皆さんにも、ぜひ一読いただきたい一冊です。
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