本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『なぜか聴きたくなる人の話し方』(秀島史香)

お薦めの本の紹介です。
秀島史香さんの『なぜか聴きたくなる人の話し方』です。

なぜか聴きたくなる人の話し方

秀島史香(ひでしま・ふみか)さんはラジオDJ、ナレーターです。

「なぜか聴きたくなる人」には、理由がある!

最近、「ラジオを聞く人が増えた」というニュースを聞き、共感を覚えたという秀島さん。

その理由について、新しいものをいろいろ試しては、一周して、結局「声で伝える・受け取る」という原点にかえってきているのではないかと指摘しています。

 ラジオを聴き始めた思春期に戻った気持ちで考えてみました。

「声だけ」なのに心がほっとする理由ってなんだろう?
なぜか聴きたくなる人の話し方ってどういうこと?

それがわかれば、普段の会話もぐっとラクになるのではないか、と。

ラジオを愛する一人のリスナーとして、そしてその現場に身を置くDJとして、「この人の「さて・・・・・」の間(ま)が絶妙すぎる!」など、ちょっと引かれるくらいのマニアックさでその心地よさを分解していきました。

すると、それはどのような「素材」や「下ごしらえ」や「工夫」でできているのか、ひとつひとつが見えてきたのです。

そして「なるほど、そういうことか!」と気づいたものを片っ端から生放送の現場で試し、トライ&(多めの)エラーの末、ようやくここにまとめることができました。

プロの現場で生まれた方法?
なんだか難しそう、と思いました?

いえいえ。その逆です。
秒単位で進行していく生放送の現場だからこそ、むしろ無理なくできる方法じゃないと。
複雑で難易度が高かったら、一刻を争う緊張感ピリピリの状況ではそもそも実行できませんしね。

相手になかなか伝わらない。
緊張して言葉が出てこない。
言葉も自分もなんだかマンネリ。
気持ちを届け、距離を縮めたい。

仕事柄、そんなお悩みや不安について相談を受けます。
痛いほどわかります。
もともと緊張しがちで人見知りで心配性なくせに、あこがれで飛び込んでいまだ内心ドキドキしながら話す仕事をしている人間ですから。

だからこそ、あなたの気持ちが少しでもラクになりますように。
そんな願いを込めてお話していきます。

大丈夫、「度胸をつけるために、人前でフリートーク30分!」なんて無理なことは言いません。

頑張らなくても今日から実践できる簡単シンプルな方法をもちろん、プロがさりげなく使っている隠し味なども書きました。
日々小さく試し、取り入れることで、確実に自分のものになっていくと思います。
それでは、肩の力を抜いて、「なぜか聴きたくなる人」へ。
一緒に踏み出してみましょうか。

『なぜか聴きたくなる人の話し方』 はじめに より 秀島史香:著 朝日新聞出版:刊

本書は、「話のプロ」である秀島さんが、「なぜか聴きたくなる」話し方のコツをわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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会話の第一印象は、「完結&完結」が決め手!

秀島さんがラジオで話す際に、なによりまず大切にしていること。
それは「会話の第一印象」です。

会話において、まず目指したいのは、相手に「この人の話をもう少し聞いてもいいかな」と思ってもらうこと。もっと言うと「余計な負荷をかけないこと」です。

 相手に負荷をかけないためにできること。方法はシンプルです。それは「話すときには、短めの一文一文を完結させていく。つまり、意識的に「。」を増やす」ということ。「え、それだけ?」って思いました? いやいや、これが地味ながら、仕事でも、雑談でも、勝負時でも、大切な出発点となるのです。
あらゆる会話で大前提にしたいのは、「そもそも人は飽きやすい。その興味をそそり、持続させるのはなかなか大変」という現実です。どんな状況でも、最初に耳に飛び込んでくる一文が長すぎると、人は「わかりにくい話」と判断し、理解することをやめてしまいます。ネットのニュースや動画、SNSなど、気軽にふれられる「短い尺のもの」が好まれている中、私たちは「長尺の何か」に対してどんどん耐えきれなくなっています。

そうはいっても、自分が話すとなると、ついダラダラと続けてしまうんですよね。なぜなら「、」を打ちながらつなげて話していくほうがラクだから。つい「〇〇で〜」「〇〇だから〜」と次から次へとつなげて話していく話し方をしていませんか。文章を書くときにもよく言われる注意点です。私も子どもの頃、作文で「朝起きて、学校に行ったら、給食がおいしくて、おかわりしようとしたらジャンケンになって・・・・・」とひたすら「、」でつなぎまくって直された思い出があります。
ラジオDJの駆け出し時代も、自信のなさから、「アレもコレも」と話の内容をどんどん付け足してダラダラと長くなり、「で、結局何を言いたいの?」とよく怒られたものです。
そんな日々から月日は流れました。今でも自分の放送を聞き直しては「こうすればよかった!」というポイントはいろいろありますが、客観的に「わかりやすかった」「聞きやすかった」と思えるのは、やっぱりほどよく「。」を入れて話せたときです。例えば、「週末は茅ヶ崎の実家に帰りました。」「ここで湘南の話題です。」「今年もイルミネーションが始まりましたね。」と。
活字で目にするとなんてことないように感じます。しかし、会話では当たり前ですが、テロップなしの声だけ。しかも話す人特有のスピードで、いきなり長い文章を話されたらどうでしょう。「ちょ、ちょっと待って!」と聞き手には大きな負荷がかかります。
だからこそ、話し始めはとくに意識して「。」を増やし、簡潔に言い切る。相手が話の内容を受け取る際の負荷も、理解度も大きく変わってきます。

短い一文で始めれば、「これからこんな話をしますよ」という全体像を相手につかんでもらいやすくなります。相手も「そんな話をするのだな」と聞く準備ができて、続く話の内容を受け取りやすくなります。しかも一文一文が短い話であれば、「まあ、あと少し聞いてもしんどくないか」と「聞く耳」を持ってもらえるのです。
「あの人の話しってわかりやすいよね」と感じる人がいたら、それは「何の話?」「この長い話、どこまで続くの?」など余計なストレスがかかっていないということ。
今度話を聞くとき、その人がはさんでくる「。」の数を気にしながら耳を傾けてみてください。「短く言い切ってる!」と気づくはずです。

リスナーからいただくメールを読む際も、長ーい文章だと、主語と述語がどう対応しているのかわかりづらくなり、理解するのに脳がテンヤワンヤです。とくに、生放送中、初見で声に出して読んでいくときは、文面からリスナーが言わんとしていることを頭に留めながら、書かれている言葉を自分の頭の中で再構築していきます。
そのとき、内容を理解するために、「ええと、つまり、さっきのアレとつながってくるってこと・・・・・?」と考えながら、その場で言葉を入れ替えたりつなぎ合わせていくのですが、声は冷静を保ちつつ、頭の中では冷や汗。読みながら「次は何を話すんだっけ?」と、意識が迷子になってしまうこともあります。
例えばラジオで「最近恥ずかしかったこと」がテーマのとき。こんなエピソードを聞かされたら、どうでしょう?

「昨日、近所のスーパーに行ったら、新商品のヨーグルトの試食販売をやっていて、『今こそ、免疫力アップ!』なんて言われたらすごく気になって、ちょっと試食してみたら、そのお姉さんがまあマシンガントークでいろんな種類を次から次へと渡してくれて、断るに断れずで、モグモグ食べていたら、近所の奥さんが通りかかって、あいさつしたんですが、恥ずかしくなってちゃって、思わず『これ、おいしいですよ!』なんて私まで宣伝しちゃって、参りましたよ!」

ちょっと極端な例ではありましたが、「この話、いつ終わるんだ!?」とげんなりしますね。もちろん息継ぎはしますが、最後まで、ひとつの文章なのです。こうした「。」のない文は、読んでいても疲れます。
ましてや声だけの場合、一気に伝えられる大量の情報を頭で処理しながら話を聞かなければいけません。よほど興味がなければ、集中力が切れて内容を追えなくなってしまいます。
仕事や家事をしながら聞いてもらうラジオ。こんな調子で話を続けたら、「何を言ってるかわからない」とそっぽを向かれてしまいます。悲しいかな、DJの声はただのノイズに。
では、意識的に複数の短めの文に区切ってみるとどうでしょうか。

「昨日、近所のスーパーに行ったら、新商品のヨーグルトの試食販売をやっていたんです。『今こそ、免疫力アップ!』なんて言われたら、気になるじゃないですか。ちょっと試食してみたら、そのお姉さんがマシンガントークで大変! 矢継ぎ早にいろんな種類を次から次へと渡してくれるんです。断るに断れず、モグモグ食べていたら、そこに通りかかったのが近所の奥さん。あいさつしたんですが、恥ずかしくなっちゃいました。思わず私まで『これ、おいしいですよ!』なんて宣伝しちゃいました。参りましたよ!」

こちらのほうが断然、伝わりやすいですよね。これは、一文が完結するたびに、聞き手が話を理解する間が生まれるからです。
話し手もこの間を使って、「理解しているのかな?」「伝わっているかな?」と相手の様子を確認しながら話を進められます。伝えたい情報をひとつひとつ手渡して、確認していくイメージです。

『なぜか聴きたくなる人の話し方』 第1章 より 秀島史香:著 朝日新聞出版:刊

料理でも同じですね。
細切れで出されたお肉の方が、塊のまま出されたものよりも食べやすいです。

言葉は短く、簡潔に。

会話も、料理同様、“消化のよいもの”を相手に出すことを心がけたいですね。

相手に合わせて「声を着替える」

ラジオは、「ながら聞き」している人が多く、生活に密着したメディアです。

そのため、秀島さんは、「リスナーはどんな状況で聞いてくれているのかな?」と想像し、そこから“相手”に合わせて「声を着替える」ということをしているとのこと。

 例えば、以前に担当していたときのJ-WAVE『GROOVE LINE』は平日16時半から20時の3時間半に及ぶ帯番組。そこで私が意識していたのは、「テンポよく、でもトゲトゲしくならず、やわらかく話す」。
パートナーのピストン西沢さんの自由奔放な話を、番組の進行上切り上げなきゃいけないときも、「ですよね、では次に行きますよ〜」と言うべきことはきっぱり伝えながら、あくまでも笑顔の声で話題を区切ってみたり。
夕方は多くの人が気ぜわしくバタバタする時間帯です。日中仕事をしている人なら「退社時刻までに、ここまでは終わらせたい」と追い込みをかける頃ですし、家事ならば買い物に行って、夕飯を作って、片付けをして、お風呂を沸かして・・・・・と、てんてこ舞い状態。
そんなときラジオから聞こえてくる声が、あまりにもスローテンポだと、「ああ、今の気持ちとズレすぎ!」とまどろっこしく感じます。それはまるで、オチをなかなか言わない漫才のような、結論をもったいぶっているお偉いさんのような。ですから、話し方はもちろん、個々のトピックも曲も短めに終えて、テンポのよい番組作りを心がけていました。
だからといって、話し方のトーンやテンションが高すぎたり、テンポが速すぎると、ただでさえ忙しい中、せっつかれているように感じる人もいます。声はあくまでもやさしく、かつ話題は引っ張らずサッパリ切り替えていく・・・・・緩急と剛柔のバランスも大切にしました。

現在担当しているFMヨコハマ『SHONAN by the Sea』は日曜朝の番組なので、平日夕方の雰囲気とは大きく違ってきます。家でのんびり聞いている人が多いので、リラックスした雰囲気に水を差さないよう、声のトーンは少しだけ低めに。
語りかけている相手は、まだ布団の中かもしれません。それとも、時間に追われず朝食を作りながら、家族とゆっくり過ごしながら、のんびり散歩しながら、かも。いずれにしても、低めで穏やかな声のほうが邪魔になりませんし、せき立てません。
どんな番組であっても、まずはリスナーが「今この瞬間、何をしながら聞いてくれているのかな。自分なら・・・・・」と重ね合わせて想像することから始めます。日曜朝ならば、コーヒーの香りを楽しみながらくつろいだり、好きな音楽をかけてまどろんだり・・・・・。
まるで同じ空間で自分もリスナーと一緒に過ごし、会話をしているような感覚になることで、ピッタリな声に着替えられるのです。

どのような場面でもそうですが、「よし、いい仕事するぞー!」と思うあまり、張り切りすぎて空回りしてしまった経験はありませんか?原因は「自分が自分が」ばかりになってしまい、相手の状況を考えず突っ走ってしまうから。相手が見えていないと、こちらが頑張れば頑張るほど、相手が心地よいと感じる声からどんどん遠のいてしまいます。

ラジオやテレビの仕事をしている人に限らず、日常生活でも、私たちは状況に合わせて自然に声を使い分けています。自分なりの経験で「どんな声がその場にふさわしいのか」「どうすればお互い気持ちいいか」が身体に蓄積されて、意識せず声にしている人も多いはず。
あいさつならば、朝、出社したときの「おはようございます!」はハキハキした声で。帰り際の「お疲れさまでした」「お先に失礼します」は、感謝の気持ちを込めた穏やかな声で。
生活の中で意識的に声を使い分けてみると、職場や家族の関係にもうれしい効果があります。
例えば、仕事で疲れて帰宅したパートナーに、「ねえねえ、聞いて聞いて! 今日めちゃくちゃ大変なことが起きたんだけどね・・・・・!」と高めのテンションで一方的に話したいことをまくし立てたら、相手に負荷がかかりすぎます。「ちょっと待って、まずは一旦ゆっくり休ませてよ」と気持ちも耳も閉じてしまうでしょう。こちらとしては「ちゃんと話を聞いてくれない!」不満が溜まる。
お互いのモードが合っていないと、双方にとって「なんでわかってくれないの?」とストレスになってしまいます。
こんなときはできる限り、話しかけるほうが相手の気分に合わせたいところ。相手が疲れている様子なら、頃合いを見ながら落ち着いたときに。いつもの自分の声より少し低めの声でゆったりとしたテンポで話しかけみます。
「そういえば、今日起きたこと、聞いてくれる?」とまずは前置きを。突然本題に入るよりも、ワンクッション作ることで相手の受け入れ態勢も変わってきます。
「いいよ」と返事が来ても、一気にまくし立てずに自分にとって短く感じる分量で。もし向こうが、「もう少し聞きたいな」と思ったら、質問してきますから。

言い古された表現ですが、やっぱり会話はキャッチボール。相手のウォーミングアップができていないのに、いきなりこちらのペースで剛速球を投げ込んだら、「痛い痛い! ちょっと待って!」と反応してしまうのは当然です。場合によっては、不機嫌になったり、「ごめん、今は無理!」と逃げられてしまったり。ストレッチもできていない人に一方的なペースで話しかけて思うような反応が返ってこないのも、無理はありません。

「こちらが一生懸命話しているのに、思うような反応が来ない」という悩みには、「声の着替え」を試してみてください。
「どんなときも元気よく! ハキハキと!」「ゆっくりと話すのが上品」など、どんな状況にあっても「私の正解」にこだわりすぎていませんか。
自分がよかれと思ってする話し方は、相手に気持ちよく受け取ってもらうためのものでしょうか?
場所や行事に合わせて一番フィットした服へと着替えるように、現場の状況、相手の様子を見ながら、声も選んでいきましょう。
「初めての現場でのあいさつは、いつもより大きめのボリュームで話したほうがよさそう」
「年上のお客さまにプレゼンテーションをするときは、声のスピードを落として、丁寧にゆっくりいこう」
「先方は斬新なアイディアを期待しているみたいだから、テンポよく、明るい声を意識してみる」
など、いつもと違う自分の声、その変化を楽しむような気持ちです。

「私にはこれしかない!」と正解がひとつしかない人は、それがうまくいかなかったときに「どうしよう、私という人間を受け入れてもらえない!」と自分を追い込んでしまいます。
それよりも、「この前のハツラツモードは浮いちゃったから、次は中堅どころの穏やかキャラにしてみようか」など、声のプランA、B、Cと自分の中でワードローブを増やしていくように備えておく。「こっちがしっくりこなかったから、次回はこっちでどうかな?」と、状況に合わせて軽やかに声を着替えてみる。
日ごろから、いろいろな話し方のバリエーションを試し、慣らしながら、頼れるパートナーとして磨いておいてくださいね。

『なぜか聴きたくなる人の話し方』 第2章 より 秀島史香:著 朝日新聞出版:刊

声も、服装同様、周囲の状況によって“着替える”。
相手に聴いてもらえる話し方になるには、その意識が大切です。

会話はキャッチボール。
どんな状況でも、相手が受け止めやすいボールを投げられるよう、声に磨きをかけておきたいですね。

「相談の達人」に共通する2つのこと

「リスナーの立場になったとき、相談に乗ってほしい」

聞き上手の秀島さんが、そう感じる一人が、コラムニストとして活躍しているジェーン・スーさんです。

スーさんは、不思議なことに、顔も知らない誰かの悩み相談であっても、その答えを聞いていると自分の心も軽くなってくる、まさに「相談の達人」です。

 スーさんの魅力は、愛を持って相談者の言葉を受け止めているのが伝わってくること。上からでも下からでもなく「お隣目線」。
お悩みが紹介されている途中も、決してさえぎったりしません。すべて聞き終えてから、「それはつらかったですね」「よくぞここまでご自分で分析して、書いてきてくださいました」「ちゃんと向き合っていらっしゃいますね」とまずはしっかり受け止める。そして「私の考えでは・・・・・」とアドバイスを語るときも、あくまでフラットな視点です。そこに「今から言うことをよく聞いて」という押しつけがましさは一切ありません。
ラジオに限らず相談を受けるときは、いかに相手に寄り添えるかが鍵となりますが、スーさんの場合はそれだけじゃなく、解決へのゴールに向かって伴走するような言葉がけなのです。
ときに「〇〇さん、もうちょっとしっかりしてくださいね!」「いったん距離をとって、冷静になってみてはどうでしょう?」と、相談者さんにとってチクリと耳の痛い言葉も出てきますが、そこには思いやりがあります。「ちょっと寂しかったのかな」「きっと頭ではわかっているんでしょうけどね」とフォローも忘れません。

さらには自分の意見だけではなく、問題を俯瞰(ふかん)して、「自分一人でやろうとしないで。プロの専門機関もありますから」と、第三の視点も提案したり。
そして「何かあったら、またメールくださいね」とやさしく締めくくり、後日報告や追加の相談が来れば、きちんと紹介する。そこに、別のリスナーさんからの経験談や励ましの言葉、アドバイスが寄せられて、あたたかい「場」が生まれています。

スーさんのような「相談の達人」に共通するのは、①話を最後まで聞く、②相手のこんがらがった考えを整理する(けど、まとめない)。どちらも愛を持って行っていること。
相談がうまい人は聞き上手。「うん、うん」とあいづちを入れながら、「話を最後まで聞ききる」のです。ポイントは「最後まで」というところ。
これが案外、難しい。悪気なく相手の話を中断してしまうことがあります。ひと通り状況がわかったと思うと、つい、「自分にも同じ経験があって・・・・・」と話し始めてしまったり、そこまでの話をもとに勇み足で的外れなアドバイスをしてしまったり。相手の本当の悩みは。今話していることの先にあるかもしれないし、さらに枝分かれしているかもしれません。
そこで、誰かから相談を受けたとき、話を打ち明けられたとき、ラジオDJがリスナーからお悩み相談を受けている、という設定に自分を置いてみるのはどうでしょう。
リスナーお悩み相談では、DJは、まずメールを読みます。その際に大事なのは、最後まで読みきること。つまり、そうやってまずは相手の悩みを最後まで聞ききっているわけです。そして、ただ「聞く」だけじゃなく、スーさんのように「なるほど、しっかり受け止めました」と言葉で表すこと。

「やりがちだから気をつけて」という例を私の過去の失敗でお話しますね。
新年度の時期になれば、ラジオ番組には、「新しい環境で友人ができるか心配です」というお悩みが増えます。駆け出しの頃の私は、「よっしゃ、まかせとき!」とばかりに、「心配しなくて大丈夫! 例えば、こんなふうに話しかけてみたら?」と、会話フレーズ例などを紹介していました。「ふぅ、今日も一件落着」なんて思っていたのですが、あるときディレクターにこのように指摘されました。
「それも役立つかもしれないけど、まずはお悩みを一緒に感じるだけでも、相談者さんはうれしく思うんじゃないかな。何かアドバイスするのは、それからのほうが受け入れやすいのでは?」
これにはハッとしました。
「秀島さんなら、どうしますか?」
「アドバイスがあれば、お願いします!」
と、お悩みメールの最後には、たいていこんな言葉があります。だからといって、すぐアドバイスに走りません。

「私なら、〇〇するかな」
「〇〇するのがオススメ!」

と前のめりになるのではなく、まずは、

「たしかに不安になりますよね」
「それは悩ましいですね」
「それはつらい気持ちになりますよね」

と、しっかり言葉で受け止める。何かアドバイスができそうだと思っても、一緒に解決法を考えるにしても、あなたの話を理解しましたというサインを出して、安心してもらってから。
相手はただでさえ弱っているのですから、たとえ「あなたにもよくないところがあったんじゃない?」と感じたとしても、いきなりズバリ指摘することが必ずしも正解ではありません。よかれと思ってパッと頭に浮かんだ解決策を伝えたところで、相手は「それはわかっているけれど」と心を閉ざしてしまうことも。
まずはしっかりと話を「聞ききる」。これだけで十分喜んでもらえることもあります。

そして二つ目のポイント。相手の話を聞きながら、考えの交通整理を手伝ってあげると、何に悩んでいるのか、問題点も見えて、本人の気持ちもスッキリしてきます。
一人で悩んでいると、どうしても感情や考えがごちゃまぜになって、話が堂々巡りになってしまいがち。そんなときは、相談者の話を「うんうん」「そうなんだね」と邪魔せず聞きながら、

「なるほど、心ない批判を受けて嫌だなって感じたんだ。たしかにしんどいね」
「そうか、今の仕事が合わないって思っている理由は、ひとつじゃないんだね」

と、相手が話した内容を確認していくと、お互いの頭の中がクリアになっていきます。
そうはいっても、無理やりまとめようとはしない。「要は」「つまり」とくくってしまうのは、「一言でまとめられても・・・・・」と相手に不満が残ります。
また「ほんと、やんなっちゃうよね〜」など、“とりあえず”なフレーズで返すのも、「話をちゃんと聞いてくれていたのかな」と不安にさせてしまいます。

強引にポジティブに持っていく必要はもちろんありません。でも、そもそも相手は悩みを一人で抱えきれずにあなたに話しているわけですから、さらに不安にさせないようにしたいもの。
私が誰かに悩み相談する状況を思い浮かべてみると、思考がこんがらがって動けなくなっている今の状態から抜け出したい、という気持ちが一番大きいように思います。誰かに話を聞いてもらうことによって気持ちが軽くなって、広い視点で状況を見られるようになったりして。
きっと悩みを寄せてくれるリスナーも、“自分で”先に進んでいくために、ひとときの伴走者にDJを選んでくれているのでは、と思います。
「よし、一発解決して進ぜよう!」と張り切るのではなく、まずは「聞ききる」。相談を受けたら、自分が相手にできることを確実に。
相談者さんが「少し気持ちが軽くなった」「頭の中が整理された」と感じてくれたら大合格点とします。直接の解決につながらなくても、あなたがしっかり聞くことで「私には相談できる人がいる」と相手も心穏やかになるもの。悩める人を支える方法は、こんなにもやさしく「聞ききる」ことでもあるんだなと、スーさんの相談を聞きながら思います。

『なぜか聴きたくなる人の話し方』 第3章 より 秀島史香:著 朝日新聞出版:刊

相談される側は、どうしても「聞かせる」こと、アドバイスすることに気が向いてしまいがちです。
しかし、それよりも大切なのが「聞ききる」ことです。

相談する側からすると「聞いてくれている」「受け入れてくれている」と感じられるかが重要です。
相手との信頼関係が築かれないと、何を聞いても頭に入ってきませんね。

相談を受けるときは、いかに相手の心に寄り添えるかが鍵。
あくまで相談する側が主導権を握るべきだということですね。

「ほめる」に上手下手なんてない!

「ずっと話していたい」

そう思わせる雰囲気の良い人には、「ほめる」のが好きな人が多いです。

日本人は、照れ屋さんが多く、なかなか相手をほめられない人が多いです。

 自分がほめられたときのことを考えてみると、「ほめる」に上手下手なんてないと気づかされます。たった一言であっても、人から「いいね」という気持ちを伝えてもらえたら、やっぱりうれしいものです。
「なんとかうまく言わなきゃ」なんて気にする必要はありません。「素敵だな」「いいな」と思ったら、その瞬間、そのまま「素敵ですね」「いいですね」と一言でも口にしてみる。それが自分の素直な本心で、本当にそう感じたのですから、社交辞令やお世辞にはなりません。
「すごい」「素敵」と思うのは、自分にないものを持っている相手への敬意。その思いを伝えられて嫌な気持ちになる人はいません。

ただ世の中には「ほめられるのが苦手」「ほめられ慣れない」という人もいますから、「いやいや・・・・・」と謙遜したり、「そんなことを言っても、何も出ませんよ!」「とんでもない、私なんて」などと、照れ隠しで否定されたり、警戒されたりというときもあります。
そういうときは、食い下がったり意固地になったりせず、「そうですか〜?」とニコニコしながら、やさしく包み込むような気持ちでその反応をまずは受け止めます。せっかくほめたのに・・・・・と慌ててシュンと引っ込めると、それこそお世辞に聞こえてしまうので、悠然と。
相手が照れたり、ちょっとぶっきらぼうになったり、ひたすら恐縮したりと何かしら反応しているのは、こちらの言葉が届いた証拠と解釈して、アタフタしません。

もし、相手が「いやいや、本当にほめられる意味がわからないんだけど・・・・・」という様子なら、もう少し細かいところを説明してみます。
ラジオのインタビューでも、こういったことはたまに発生します。そのときは、相手が気づいていないであろう角度からさらに細かい感想や情報を付け加えていきます。

ゲスト:これといった趣味はないんですけど、休日は、銭湯巡りをしているんですよ。
私  :わぁ、素敵ですねえ。
ゲスト:いやー、地味ですよ・・・・・。
私  :そんなことないですよ。海外のガイドブックに載るほど、日本独自の文化ですし。サウナだって流行(はや)ってるじゃないですか。銭湯で音楽イベントをやっていたり、おしゃれなリノベ(リノベーション)銭湯も増えてるみたいですし。

「いいね!」と思った理由を、主観と客観をまぜて補足していくと、相手も「そうなのかな、素直にほめられちゃっていいのかな」と安心して、さらに話を深めてくれたり。
ただ、こちらが畳みかけるように重ねると、焦ってフォローしている印象になりますので、ここは慌てず自分のいつものペースで。

最初に顔を合わせたとき、とっさに言葉が出なくて、ほめるタイミングを逸してしまっても大丈夫。17節で「好意は先出し」とお話しましたが、実際は「先出ししたかったけど、タイミングがつかめずにできなかった!」という事態もよく起きます。
そんなときの挽回策として、「時間差ぼめ」はいかがでしょうか。
例えば、会話がふと途切れたときや別れ際に、

「今日ずっと気になっていたんですけど、そのカバンおしゃれですね」

と時間差で伝えるのもひとつの方法です。「今日ずっと気になっていたんですけど」とクッションになる言葉をはさんでから伝えると「とってつけた感」もなく、自然に好意が伝えられます。

また、何度か会っている人ならば、

「毎回、お話がおもしろくて時間があっという間に過ぎます」
「〇〇さんっていつお会いしても姿勢がキレイですよね。何か意識されているんですか。」

といった、「前から思っていたんだけどほめ」も使えます。相手も、「いつもそんなふうに思っていてくれたんだ」と、関心を持たれていたことにうれしくなるはず。

自分の気持ちをストレートに伝えるのはやっぱり照れる、ハードルが高いと感じるなら、おすすめしたいのが「疑問形」にする方法です。
例えば、

「人からよく、『おしゃれ!』って言われませんか?」

「〇〇って言われませんか?」と疑問形にすると、不思議と口にしやすくなります。言われた相手も返事をしやすいというメリットも。
「いやいや、若い頃の服を捨てられなくて・・・・・」などと返されたら、「どんなおしゃれなお店で買っているのかと思いましたよ。体型も変わっていないんですか?」などと、その人から出てきた新しい情報がまたタネになり、会話を続けられます。

もうひとつ、使いやすいのは「ほめツッコミ」。「かわいい」「カッコいい」「美しい」など、あまりにもまっすぐすぎて照れてしまうことも、ツッコミにすると伝えやすくなります。
クレイジーケンバンドの横山剣さんをゲストにお迎えしたとき。
百戦錬磨で音楽業界を渡ってこられたアーティストとしての迫力、ダンディなビジュアルに反して、「飼っている犬はチワワです」「実はお酒飲めないんです」と、意外でかわいらしい素顔をたくさん見せてくれました。
思わず口をついて出たのが、「ちょっと待ってください、ギャップがずるいです!」。
相手の魅力ポイントを良い意味での「ずるい!」のツッコミ視点で表現するのです。ツッコミだと相手の笑いも誘いやすく、聴覚的にも、「いかにもお世辞」にはならないので、相手にも一緒に「ワハハ」と笑いながら受け取ってもらえます

ほめとお世辞の違いは、下心があるかないか。
お世辞は、言うほうも言われたほうもなんとなくギクシャクしてしまいます。なぜなら「願わくば、相手の機嫌をとって、自分の思うようにコトを運んでやろう」という打算と、「見えすいたことを言って、・・・・・警戒しなきゃ」という感情がぶつかり合ってしまうから。
「ほめ」は、ただただ「いいな」と思った相手のポイントを自分の素直な言葉で伝えること。それ以上でもそれ以下でもありません。
たどたどしくても本心から出た言葉であれば、何も心配することはありません。そもそも見返りを求めないので、相手もお世辞だと誤解せず、受け取ってくれます。

やっぱり照れるかもしれませんが、「伝えてよかったな」「素敵な言葉をもらったな」と自分も相手も記憶に残るやりとりは、お互いちょっとした気恥ずかしさを乗り越えた先にあるのではないでしょうか。そんな気持ちを共有するからこそ、2人の間に特別な絆が生まれると思うんですよね。

『なぜか聴きたくなる人の話し方』 第3章 より 秀島史香:著 朝日新聞出版:刊

ほめることの基本は、相手への敬意。
「いいな」と思ったことを、そのまま相手に伝えてあげることです。

率直さと素直さ。
それがお世辞に聞こえない「ほめ言葉」を使うためには重要です。

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「聞く」という行為は、意外と大変な作業です。
しかし、ラジオの場合、聞いているだけなのに、不思議と疲れません。
それは、なぜでしょうか。

秀島さんは、長時間心地よく聞いていられるのは、聞き手に向けて、徹底的なおもてなし、つまり「聞きやすさ」を心がけているからだとおっしゃっています。

私たちは、話の内容より、声や雰囲気から相手の人柄を判断するものです。

「この人の声のトーンや話し方は心地がよい」
「この人とは、ずっと話をしていたい」

そう思ってもらえば、第一印象は格段に良くなり、会話もスムーズに進むでしょう。
コミュニケーションの達人になるのも、夢ではありません。

プロのラジオDJが伝える、本格的な“聴き手ファースト”の話し方のレシピ。
皆さんも、ぜひ味わってみてください。

なぜか聴きたくなる人の話し方


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