本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『頭のいい人が話す前に考えていること』(安達裕哉)

お薦めの本の紹介です。
安達裕哉さんの『頭のいい人が話す前に考えていること』です。

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頭のいい人が話す前に考えていること [ 安達 裕哉 ]
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安達裕哉(あだち・ゆうや)さんは、コンサルタントです。
大手監査法人の中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画し、その後独立。
現在は、マーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などをされています。

誰もが“頭のいい人”になれる!

コンサルティング会社に就職した当時、頭がよいわけでもなく、コミュニケーション能力も高くなかったという安達さん。

それでも、コンサルティングの分野の第一線で、30年以上わたり活躍してきました。

その理由は、入社1年目でコンサルタント失格の烙印を押されてから、他者から信頼を取り戻すにはどうすればいいのかを徹底的に考えたからだと述べています。

 子どものころ、
「ちゃんと考えてから話して」
と言われたことはないだろうか。

もしくは、
上司に「ちゃんと考えた?」と言われたり、
部下の話を聞いて「こいつちゃんと考えたか?」
と思ったりしたことはないだろうか?

では、「ちゃんと考える」の
“ちゃんと”とは具体的にどういうことか、
教わったこと、教えたことは
あるだろうか・・・・・・・・?

「ちゃんと考えて」と
言われたことがある人は、
思い出してみてほしい。

あのとき、あなたは
何も考えて
いなかっただろうか?

そんなわけはない。
自分なりに考えていたはずだ。
一説によると、人間は1日に1万回ほど思考している。
今これを読んでいるあなたも、まぎれもなく、
いろんなことを考えているはずだ。

人間、みんな考えている。

なのに、「ちゃんと考えている人」と
「考えていない人」の差が生まれるのは、なぜだろう?

両者の差は、
考えている時間の“長さ(量)”ではない。
たとえば、徹夜でアイデアを考えたからといって、
“ちゃんと考えた”とはならないだろう。

大事なのは、
アイデアのではないだろうか。

そう、「ちゃんと考えてる人」と
「考えていない人」の差は、
思考の量ではなく、
思考の“質”
なのだ。

新入社員であれば、思考の量で評価されるかもしれない。
一生懸命考えたことが、
“可愛げ”として受け取られることもある。

しかし、それは若さが武器になるうちしか通用しない。
年齢を重ねるほど、“一生懸命考えた”だけでは通用しなくなる。

また今後は、量で評価される思考は
AIに簡単に代替されてしまうだろう。

誰もが、量ではなく、
質で勝負しなければ
いけないときかやってくる。

「量がいずれ質に変わる」と言う人もいるが、
残念ながら思考は勝手には質に転化しない。

なんとなく考えただけでは、
いつまでたっても
「ちゃんと考えた」ことにならないからだ。

なんとなく考えたことを、
あるタイミングで、
「良質な思考」に
転化される必要がある。

そのタイミングが、
人に“話す前”だ。

本書は、
“頭のいい人が話す前に
何をどうちゃんと考えているのか”
を明確にすることで、

だれもが思考の質問を高め、
“頭のいい人”になれることを
目指して書かれた。

テーマは、

知性と
コミュニケーション

人間は、考える葦(あし)であり、
人間は、だれかと関わらずには 生きていけない
社会的動物である以上、
避けては通れないテーマだ。

ちゃんと考えた?

と言われたことのある人は、
考えていないのではない。

思考の質を
高めるコツを知らないだけだ。

話す前に少し
注意力を働かせるだけで
思考の質を
高めることができる

87×18=?

紙と鉛筆があれば、
この計算ができない人は
あまりいない。
小学校で筆算の
やり方を習うからだ。

“ちゃんと考えて話す”も
やり方さえ教われば、
だれでも使えて
一生役に立つ。

ただ、そのためには、
少し立ち止まって考える必要がある。
先ほどの計算で
「紙と鉛筆」を
用意しないといけないように。

本書でお伝えするのは、
だれも教えてくれなかった、
知性とコミュニケーションの
“黄金法則”だ。

この法則を
手に入れれば、
だれでも
思考の質を高め、
知性と信頼を
同時に獲得できる。

考えていない人間はいない。
あなたは本来、考える力がある。
必要なのは
話す前に立ち止まる勇気だ。

『頭のいい人が話す前に考えていること』 巻頭 より 安達裕哉:著 ダイヤモンド社:刊

本書は、読者が頭のいい人たちの知見を身につけ一気に“頭のいい人”になるように設計、プログラミングした一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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感情的になったら「負け」!

安達さんは、“頭のいい人”になるためのベースの考え方として、以下の「7つの黄金法則」を挙げています。

その①・・・とにかく反応するな
その②・・・頭のよさは、他人が決める
その③・・・人はちゃんと考えてくれてる、人を信頼する
その④・・・人と闘うな、課題と闘え
その⑤・・・伝わらないのは、話し方ではなく、考えが足りない
その⑥・・・知識は誰かのために使って初めて知性となる
その⑦・・・承認欲求を満たす側に回れ

この中でも、最重要なのが、1つ目の「とにかく反応するな」です。

安達さんは,感情的になったら、その時点で負けだと指摘します。

 私が若手だったころの話です。
ある企業の「改善活動」を見に行きました。
改善活動は、部長の前で一人ひとりが「今週の報告と、来週の目標」を発表していくだけのことでしたが、役員のひとりは、この活動に大して異常なまでのこだわりがありました。
しかしそれは、活動の中身ではなく“発表するときの声”にだったのです。

社員の中には、人前で話すことが苦手な、声の小さな人も当然います。
あるいは、自信なさそうに発表する人もいます。

そんな人にはその役員は「声が小さい!」と叱咤し、やり直しをさせるのです。
正直なところ、見ていて気持ちのよいものではなかったのですが、私は外部の人間でしたし、経営者がそれを許していたのだから、この儀式について止める理由もありませんでした。
ところが、あるとき役員の気に障ったひとりの新人が皆の前で「こっぴどく怒られた」とき、それを見かねたリーダークラスのひとりが、役員に対して

「もうそれくらいでいいでしょう!」

と大きな声で制したのです。
場は凍りつきましたが、その役員が「言いすぎた」と謝罪していったんは収まりました。そして、事件のあと。リーダーとその役員の間で、社長が仲裁に入って話し合いが持たれました。

社長は怒鳴ったリーダーの話に理解を示し、役員には「やりすぎである。本来の趣旨と違うはず」と反省を促しました。

しかし、社長はリーダーに対してこう言ったのです。

「冷静さを失うとは何事だ。そのようなことではリーダーを任せられない」

社長の言う通りでした。彼は新人をかばっただけでしたが、その事件のあと、他の社員が件(くだん)のリーダーを見る目が、少し変わってしまったのです。
しかも、残念ながら称賛というより、冷ややかな目でした。
「あるリーダーは、(役員と同じ)キレる人だったんだ」と皆に判断されてしまったのです。
リーダーは、正義感からあのような行動をとったのだと推測できます。「弱い人」が叱られるのを見ていられなかったのでしょう。また、前から“改善活動が無駄”と思っていたのかもしれません。でも「キレる人」には理由はどうであれ皆、近寄りたくないのです。

サセックス大学教授の心理学者、スチュアート・サザーランドは著書『不合理 誰もまぬがれない思考の罠100』の中でこう述べます。

怒りや恐怖など強い感情にとらわれると、愚かな行動に走りやすい

要するに、怒っているときは、だれでも頭が悪くなるのです。
怒っているときに下す判断は、まず、間違っていると考えたほうがいいでしょう。
上司から叱責されたとき。同僚から無能だとみなされたとき。大勢の前で恥をかかされたとき。そういったとき、良い判断のできる人はほとんどいません。
実際、上司と喧嘩し勢いで会社を辞めて後悔した人を何人も見てきました。
頭のいい人は“キレること”感情的になること”でどれだけ大きな損失を被るか知っています。
もちろん頭のいい人も感情的になることはあります。しかし、頭のいい人は感情的になったとき、すぐに反応するのではなく、感情をコントロールし、冷静になって考えるほうが、メリットがあることを知っていて、その術(すべ)を身につけているのです。
つまり、“話す前にちゃんと考える”ということは、感情に任せて反応するのではなく、冷静になることだ”と言い換えられます。

では、どうすればキレずに冷静でいられるか。
ポイントはふたつあります。

①すぐに口を開かない
②相手がどう反応するか、いくつか案を考えて比較検討する

2002年に行動経済学者でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは著書『ファスト&スロー』の中で、人間の思考には「早い思考(システム1)」と「遅い思考(システム2)」があると述べています。
簡単に説明すると「早い思考(システム1)」はいわゆる直感的な思考で、「遅い思考(システム2)」は論理的な思考のことを指し、基本的に人間は「早い思考(システム1)」が優位にあるとカーネマンは言います。
つまり、すぐに口を開いてしまうと「早い思考(システム1)」の直感的な感情先行の発言をしてしまうのですぐに口を開かずに、自分の発言で相手がどう反応するかいくつかのシナリオを比較検討することで「遅い思考(システム2)」を働かせるのです。
カーネマンはこの複数のシナリオを検討して行動を決定することを「並列評価」と呼んでいます。
本書でお伝えする“話す前にちゃんと考える”ということは、カーネマンの言う「早い思考(システム1)」ではなく、どうやって「遅い思考(システム2)」を使って考えるか? ということなのです。

たとえば、あなたが先ほどの事例のように、目の前で新人が理不尽に責められたのを見て、怒りを覚えたとします。
そのときすぐ口を開いた場合、冒頭のリーダーのように、感情が理性を上回り「役員に怒鳴り返す」という不利益な選択をしてしまうかもしれません。

ところが「すぐに口を開かない」ことで、考える余地が生まれます。ここで何を考えるのか? は本書でこれから伝えていくことですが、カーネマンの言ういくつかのシナリオを検討するというのは、「ここで、怒鳴ったらどうなるのか?」を想像するだけではありません。

・叱られている新人を、別室に一時的に退避させる方法はないか?
・役員の注意を他にそらすことは可能か?

などと別の案をたくさん出してみることも含まれます。
あれこれ代案を検討しているうちに、怒りは静まります。
いくつかのシナリオを検討するのは、“実際に最適な手段を検討するため”でもありますが、冷静になる時間を稼ぐ“間を取るため”でもあるのです。

『頭のいい人が話す前に考えていること』 第1部 より 安達裕哉:著 ダイヤモンド社:刊

昔から「短気は損気」といいます。
キレて相手に当たっても、いいことは一つもありません。

いつでも心を冷静に保つように心がけること。
それと、怒りが湧いてきたときに外に出させないようにすること。

その両方が大切だということですね。

「承認欲求」を満たす側に回れ!

「黄金法則」の7つ目の「承認欲求を満たす側に回れ」とは、どういうことでしょうか。

安達さんは、コミュニケーションにおいて“話が上手になること”よりもはるかに大切なことがあり、それは“承認欲求をどうコントロールするか”だと指摘します。

 同志社大学教授の太田肇氏は、著書『お金より名誉のモチベーション論』の中で、人は他人から認められたい、尊敬されたいと願っており、それによって動機づけられるものだと述べ、それを「承認人」(ホモ・リスペクタス)と名づけています。

昨今のSNSの台頭をみても、人は多かれ少なかれ「承認欲求」によって突き動かされるのは間違いないでしょう。ほとんどの人間はみな周りから認められ、賞賛されたいと思っています。前項でお話しした”つい知識を披露したくなる”のも、この承認欲求があるゆえです。
しかし、裏を返せば、自分の承認欲求は抑制し、他者の承認欲求を満たすことができれば、「コミュニケーションの強者」になることが可能だということです。

周囲から“カリスマ”などと言われ、絶大なる信頼を得ている政治家や経営者は、往々にして承認欲求のコントロールに長けています。
たとえば、最も影響力のあった政治家のひとり、田中角栄は秘書から支持者にカネを配るとき、秘書にこう言ったそうです。

「いいか、きみが候補者にカネをくれてやるなんて気持ちが露かけらでもあれば必ず顔色に出る。そうすれば相手は百倍、千倍にも感じる。百万、二百万を届けたところで一銭の値打ちもなくなるんだ」
田中が金権政治の権化のようにいわれながらも、憎めないキャラクターと見なされるゆえんであろう。
服部龍二著『田中角栄 昭和の光と闇』より

田中角栄はこのように、あえて秘書から頭を下げ、カネを納めてもらうべく丁重にお願いするように指示しました。
“カネを渡す”ことが大事なのではなく、“候補者の自尊心を傷つけずにカネを渡す”ことが大事なのだと、田中角栄は理解していたのでしょう。
田中角栄はのちに賄賂で捕まっていますので、笑えないエピソードではありますが、彼があれほどまで支持され、今でも日本を変えた政治家として名を馳せている理由はよくわかります。

信頼を得ないと仕事にならないのは政治家だけではありません。
しかしながら「自己の抑制」と「他者の承認」の両立は、それほど簡単なことではありません。自制しつつ、他者を賞賛するにはそれなりの精神力が必要とされるからです。

承認欲求をコントロールし、コミュニケーションの強者になるには、ふたつの条件があります。

強者の条件 1 自信を持つこと
自尊心が低く、自分に自信がない人間は、うまく承認することができません。
自尊心とは、自分で自分を尊重し、受け入れる態度のことです。自尊心が低いと自分で自分を肯定できないため、他者の承認が必要になってくるのです。
一見、社会的に成功している人物であっても自尊心が低く「他者に承認を要求すること」しかできない人物は「承認欲求を欲する立場」ですから、コミュニケーションにおいては弱者といえます。

強者の条件 2 口(アピール)ではなく、結果で自分自身の有能さを示すこと

「へぇ、そうなんだ! すごいね! そういえば私さ・・・・・」
このようになんでもすぐに自分の話をしようとする人がいます。相手の話に反応はしつつも、すぐ自分の話に引き込もうとする人です。
このような人は「他者の承認」をすると、その分、釣り合いを取ろうとして自分の話をせずにはいられないのです。
しかし、それは自己アピールによって承認を得ようとする態度であり、コミュニケーション強者の態度とはいえません。
他者は褒めつつ、自分は「なんでもない人間です」という顔をするのが、コミュニケーション強者の態度であり、知的で慕われる人の態度です。
承認欲求をコントロールし、コミュニケーションの強者になるには、自分の話(自己PR)で他者の承認を得ようとせず、他者の承認は、結果によって得られると強く認識する必要があります。

「そんなことを言っても、相手から“大したことない奴”と舐められてしまうのでは?」
と思う方もいるでしょう。それでいいのです。
コミュニケーション強者の胸の内はこうです。
「相手が承認を求めているのであれば、思い切り承認してやろう。逆に、私が彼に承認されるかどうかは、私が彼に何をしてやったかによる」と。
他者からの承認は、肩書きによって得られるわけではありません。社長だから、役員だから承認されるのではないのです。肩書だけで承認してくる人は、立場を利用したいという下心のある、媚を売る人間だけです。

では人どのようなときに、他者を承認したくなるのでしょうか?
それは、“親切にされたとき”です。
つまり、結果を出した上で、他者に親切にできる人が、他者から賞賛を得て、信頼されるのです。

結果を出した上で、他者に親切にできる人物は徐々に「カリスマ」と呼ばれるようになります。
カリスマは自称するものではありません。
本人に親切にされた多くの人が、「この人はすごい」と吹聴して回ることで、その人が徐々に神格化されていくのです。
実際、カリスマと称される人に直接会ってみると、とても感じのいい人であったり、思った以上に優しい人だったりします。
有名人に会って、「意外と普通でした」とコメントする人を見かけますが、これこそ、正直な反応なのです。

私がお会いした経営者の中に、社員の承認欲求を満たすことがめっぽううまい経営者がいました。
その経営者は自社の社員の一人ひとりの子どもの受験日まで覚えていて「息子さんの受験が心配なら、今日は帰ったらどうだ」とか、社員の配偶者の誕生日には必ず花を届けさせる、とか、細かく他者に親切にすることを実践するのです。

もちろん、その経営者は意図的にやっています。
その一連の行動は「形だけ」ではなく、本気でした。
ゆえに、社員たちは「あの社長は本当にすごい。カリスマを感じる」と言うのです。

このように、コミュニケーションの強者は、承認欲求を満たしてもらう側ではなく、承認欲求を満たす側に回ることで、上手に信頼を得るのです。
出世して肩書きがつくと「肩書き」があるから他者から承認されると勘違いする人がいます。もちろん、ビジネス上、その肩書きにすり寄ってくる人もいます。
しかし、他者からの信頼は、肩書きがあるから得られるものではないことを忘れないでください。肩書きがあった上で、他者に親切にできる人こそ、絶対的な信頼を得られるのです。

トップは親切と承認とを与え、取り巻きは忠節と権力の基盤を提供する。
それはいうなれば、古代ローマのパトローネス(主に貴族)とクリエンテス(貴族に仕える従者)の関係のように、一方的な支配ではなく、お互いに「与え合う」互恵関係によるものなのです。

『頭のいい人が話す前に考えていること』 第1部 より 安達裕哉:著 ダイヤモンド社:刊

褒められたり、親切にされたりして嫌な気分になる人はいません。
その相手に対して好意を向けるようになるのは、自然なことでしょう。

承認欲求がまったくない人は、おそらくいないでしょう。
誰にでも効果があるなら、使わない手はないですね。

頭のいい人が話を聴くときに考えていること

頭のいい人の特徴として、「話をよく聴く」ことがあります。

安達さんは、人がだれかの話を「聞く」ときに考えていることは、以下の2種類に分かれると述べています。

1 自分の言いたいことを考えながら聞く
2 相手の言いたいことを考えながら聞く

1 自分の言いたいことを考えながら聞く

人の話を聞いているときに「反論」で頭がいっぱいになってしまうなど、次に自分が話すことで頭がいっぱいになっている人がいます。これでは人の話をちゃんと聞くことはできません。
このような人は「人の話を否定し、自分が勝った気になる」ために人の話を聞いています。人間としてまだ成熟していない、子どもの態度といっていいでしょう。

あるいは、「うまいことを言おう、悩みを解決してやろう」と思いながら聞いている人もいます。
反論に比べるとマシですが、こういう人は“教えてやろう”という気持ちが先行し、相手の話をちゃんと聞いておらず、成熟した知的な態度とはいえません。
“教えてやろう”と思っている人は「〇〇すればいいじゃない」「なんで〇〇しないの?」「そんなこと悩まなくていいよ。〇〇だし」「簡単だよ。〇〇すればいいんだよ」と、解決するための言葉を良かれと思って投げかけます。
しかし、“教えてやろう”は多くの場合、単なるおせっかいであり、聞き手は教えてもらうことを望んでいません。「人に教えてあげることで、自分が感謝される」あるいは「自分の優越を確認する」ことが、聞く目的となっています。

これらの態度は、相手のことを考えているようで自分のことを考えながら聞いているので、相手からは自己中心的に見えます。
決してボーッと聞いているわけではありませんが、相手からすると、「ちゃんと聞いているかな?」という気持ちになります。話を聞いてくれているようで、聞いていない状態なのです。

また、自分の言いたいことありきなので、臨機応変さがありません。
話が違う方向に行っているのに、無理やり元に戻そうとすることもあります。
たまに、インタビューアーでも、「答えありき」でインタビューする人がいますが、この人も相手の話を聞いているようで、言いたいことで頭がいっぱいなのです。

2 相手の言いたいことを考えながら聞く

それに対してちゃんと話を聞ける人は、余計な口を挟まず、“言いたい”ことはなんだろうか”と考えながら、まずは相手の話を正確に理解しようとします。
話す側の立場に立てば、相手がこのような態度で聞いてくれると“自分の話を正確に受け取ってくれた”という感覚になります。
その上で、相手から“学ぼう”という意識で聞くと、さらに相手から信頼されます。

私は学生時代の恩師に「もし今、“人生がそれほどうまくいっていない”と思うなら、人の話をよく聞くだけで、人生は好転するよ」と教わりました。
知的で慕われている人たちは、人の話をよく聞いています。
私が今までお会いしてきた経営者の中にはひと回り以上年下の私から“学ぼう”と思って話を聞いてくれる人もいました。
このような態度には「話し手への敬意」がベースにあります。敬意があるので、相手も非常に話やすく感じます。そして「聞いてもらっている」という感覚ではなく、おそらくは「対話している」という感覚になり、より深い信頼感が生まれます。
そして、「相手が何を言いたいのだろうか」を真剣に考えている聞き手は、次のような態度で聞きます。
言い換えれば、次のような態度は、人生を好転させる、人の話を聞くための態度といえます。

よく聞くための態度 1 肯定も否定もしない
安易に「わかった」と言うと嫌われます。かといって、「違う」と否定しても嫌われます。ちゃんと聞く人は、肯定も否定もせず、「そうなんですね」「なるほど」と相槌を打ちながらまずは相手に気持ちよく話してもらうのです。

よく聞くための態度 2 相手を評価しない
相手の話を評価すると、知らず知らずのうちに態度に出てしまいます。相手のことを評価しないためには「良い」も「悪い」もなく、相手がそう思っている、というだけの話だと割り切って聞きましょう。評価したくなっても「あなたがそう思うのならそうなんでしょう」と思うようにしましょう。

よく聞くための態度 3 意見を安易に言わない
「どう思う?」と聞かれても、すぐに自分の意見を言わないことが大事です。アドバイスも容易にしてはいけません。
相手はあなたの話を聞きたいのではなく、安心したいだけです。ですから、「ご想像の通りだと思いますよ」「おっしゃる通りだと思います」など、相手の期待通りの返事をしながら、まずは相手の話をすべて聞き出します。

よく聞くための態度 4 話が途切れたら、むしろ沈黙する
相手の話が途切れたら、まずは沈黙して、相手が話し出すのを待ちましょう。沈黙を怖がってはいけません。
こちらに何か求めているようならば、じっと相手を見てうなずく。すると、また相手は話し始めます。

よく聞くための態度 5 自分の好奇心を総動員する
相手が一見普通の人であっても、みんな何かしらの面白い話を持っていて、かつ何かのプロであるという意識を持って聞きます。
相手の話がつまらないと感じるなら、それは自分の好奇心が足りないからです。

そして相手の話を正確に最後まで聞き終えたら「相手は私に何を言ってほしいのだろうか」と考えるのが、知的で慕われる人です。
「褒めてほしいのだろうか」「共感の言葉が欲しいのだろうか」「解決策を求めているのだろうか」「提案が欲しいのだろうか」「慰めてほしいのだろうか」と考えるのです。相手の話をちゃんと正確に聞けているのであれば、相手が自分にどのような会話を期待しているのか、わかるはずです。

『頭のいい人が話す前に考えていること』 第2部 より 安達裕哉:著 ダイヤモンド社:刊

「自分は相手の話をちゃんと聞けている」

そう思っている人ほど、意外と自分本位の聞き方をしている場合があります。

相手が望んでいなければ、どんな立派な意見でも意味がありません。
相手ファーストの会話を心がけましょう。

プライベートでも使える「万能質問術」とは?

相手の話をちゃんと聞くには、「深く聞く技術」を身につける必要があります。

深く聞く技術とは、コミュニケーションをとりながら一緒に思考を掘り下げることで信頼関係を築く技術のことです。

安達さんは、具体的な方法として「構造化面接」と呼ばれるインタビュー術を紹介しています。

 米国政府が公開している構造化面接のマニュアルによれば、構造化面接では“導入の質問は2種類、深掘りの質問は3種類”としており、たったの5種類しかありません。
まず、導入の質問です。

導入質問 1 ”過去に行った行動”についての質問
「直面した状況にどのように対応したか?」

たとえば、過去のプロジェクト等でどのような実績をどうやって上げたか、といったような質問です。これは、「将来の行動を最もよく予測するのは、同じような状況下での過去の行動である」という考え方に基づいています。

「気難しい人、敵対的な人、悩みを抱えている人に対処した状況について説明してください。だれが関与していましたか? あなたは具体的にどのような行動をとり、その結果はどうなりましたか?」

導入質問 2 “仮定の状況判断”に基づく質問
「仮に〜このような状況に置かれたとしたら、どのようにしますか?」

状況判断に関する質問は、「人の意図が実際の行動と密接に結びついている」という考えに基づいて、候補者に現実的な仕事のシナリオやジレンマを与え、候補者がどのように対応するかを尋ねます。

「非常に怒った取引先が連絡してきました。彼女は、5日前に納品されるはずのものがまだ届いていないと言っています。
今すぐ製品を用意しろと取引先は要求してきますが、上司や工場に尋ねると、『今すぐ納品は無理だから、クライアントをなんとかなだめてほしい』と言われました。あなたならこの状況にどう対処しますか?」

この2種類のいずれか、もしくはその組み合わせによって導入質問をしたあと、以下の3つの質問で深掘りしていきます。

深掘り質問 1 状況(シチュエーション)に関する質問
「そのとき、どのような状況でしたか?」

たとえば、導入質問①で「悩みを抱えた人から相談を受けたときのことを教えてください」と質問し、「不動産営業をやっていたのですが、成績不振の部下の相談にのっていました」と候補者が答えたとします。そこで「具体的にどのような状況でしたか?」と、状況について深掘りをします。

深掘り質問 2 行動(アクション)に関する質問
「そのとき、何をしましたか?」

たとえば、候補者が、「前任の管理職がどちらかというと”俺の言う通りにやれ”というマネジメントスタイルだったので、あえてその逆に現場の課題を吸い上げました」と答えたとします。
その答えに対して「その状況を受けて具体的に何をしましたか?」「行動したときに重視したことはなんですか?」と質問します。

深掘り質問 3 成果に関する質問
「行動の結果、どのような変化がありましたか?」「何か現場で反発はありましたか?」

3つめは、行動に対する成果を聞きます。深掘り質問2の「その状況を受けて何をしましたか?」という質問に対して、「支店のメンバー全員と面談をしました」と帰ってきた場合、「その面談によって、成果はどのように変わりましたか? 変わらなかった人へは何をしましたか?」という具合に質問します。

面接のパフォーマンスを一定に保つための構造化面接のポイントやルールは他にもありますが、ここでみなさんに知っていただきたいのは、採用面接ですら、導入の質問ふたつと深掘りの質問3つだけで、成り立つということです。
人を採用するということは多大なるコストがかかります。年収600万円の社員をひとり採用するということは、最低でも年間600万円、10年勤めるとしたら、6000万円のコストがかかります。そんな重大な決断をするための、質問がこの5種類だけでいいのです。この構造化面接の質問術は、短時間で相手のことを深く知り本質に迫ることができる質問術といえるでしょう。
そしてこの質問術は、面接以外の場面でも、プライベートでも大いに力を発揮してくれます。

たとえば、“婚活”をイメージしてください。
初対面の相手と短時間でコミュニケーションをとり、関係を深め、この人と一緒にいたいかどうか判断する必要があります。
構造化面接の5つの質問を組み合わせることで、次のように掘り下げることができます。
まずは導入質問1を使います。過去に何をやっていたか、を聞くのです。

♠︎先ほど自己紹介で趣味が音楽だとおっしゃっていましたが、学生時代に何か楽器など、やられていたんですか?
♡吹奏楽部で、フルート吹いていました。

ここで、深く聞く技術を持たない人は、

♠︎そうなんですね、僕は楽器やったことなくて・・・・・・小学校からずっと野球部で・・・・・。

と自分の話をしてしまいます。
思い出してください、【黄金法則 その2】を。コミュニケーションの主体は相手にあると思ってください。相手に聞かれてもいないのに、自分の話をしてしまうのは、頭のいい人ではありません。
そこで深掘り質問1を使いましょう。状況を深く聞いていきます。

♠︎吹奏楽部だったんですね。僕は吹奏楽部については、いろいろな楽器がある、ということくらいしか知らないのですが、かなり大所帯だったんですか?
♡かなり人数はいました。高校のときは全学年で60人くらいいました。

ここで深掘り質問2。状況に対しての行動を聞きます。

♠︎そんなに人数いたら、練習はパートごとや、学年ごとに分かれてやるんですかね? 結構練習大変でした?
♡そうですね、テーマ別にいくつかのグループに分かれて、毎日夜遅くまで練習してました。

そして、深掘り質問3。その行動に対する成果を聞きます。

♠︎大会とかもあるのでしょうか?
♡はい、出ることはできたんですが、全国には行けませんでした。県予選の惜しいところで負けちゃって。
♠︎そうですか。でも、県予選でいいところまで行くだけでもすごいと思います。

ここで導入質問2に戻ってみましょう。「仮に〜」「もし〜」を使います。

♠︎もし時間があったら、またフルート吹きたいですか?
♡そうですね・・・・・今は、そこまで演奏したいというよりも、聴きに行きたいですね。聴くのも好きなんです。クラシックとか。
♠︎いいですね! 僕も聴くのは嫌いじゃないです。おすすめの曲とか、ありますか?

構造化面接の手法を使って、「学生時代にやっていた」ことから「音楽が好きで、今は演奏会に行って音楽を鑑賞したい」ということまで引き出すことができました。
この手法は万能です。打ち合わせで相手の話を引き出したいとき、プライベートで会話を盛り上げたいとき、ぜひ使ってみてください。

何をしたんですか?(過去の行動)
そのとき、どんな状況だったんですか?(状況の深掘り)
その状況でどうしたんですか?(行動の深掘り)
その結果どうなったんですか?(成果・結果の深掘り)
今度仮に、こういう状況になったらどうしますか?(仮定の状況における行動)

もちろん、「尋問」になっては困りますから、相手の様子を見ながら、質問は小出しにすべきです。また、基本的には相手が話している限りは、聞きに徹することです。
しかし、会話が途切れそうになったときには、これらの質問を組み合わせて繰り返すだけで、相手の話を掘り下げることができます。

『頭のいい人が話す前に考えていること』 第2部 より 安達裕哉:著 ダイヤモンド社:刊

構造化面接のスキルは、面接や婚活などに限らず、人と関わる場面すべてに使えます。

なかなか会話が続かずに、途切れてしまう。
会話は続くけれど、中身が深くならない。

そんな悩みを抱えている人は、ぜひ、身につけたいスキルです。

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安達さんが、22年のコンサルタント人生の中での一つの結論。
それは、わかった気になったときが一番危ないということです。

安達さんは、わかったような気になっているときこそ、丁寧なコミュニケーションを心がける。これこそ、本当に頭のいい、知的で謙虚な人の態度だとおっしゃっています。

古代ギリシャの哲学者、ソクラテスの言葉にも「無知の知」あります。
自分は何も知らないけれど、「自分は何も知らない」ことは知っている。
そんな謙虚さは、いつまでも忘れないようにしたいですね。

知識や経験が増えること。
それ自体は、「頭がよくなること」とイコールではありません。

頭のよさは、あくまで「相手ありき」です。
相手に合わせたコミュニケーションができなければ、どんな知識も宝の持ち腐れです。

私たちも、本書の「7つの黄金法則」を実践して、コミュニケーションの達人を目指しましょう。

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