【書評】『努力不要論』(中野信子)

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 お薦めの本の紹介です。
 中野信子先生の『努力不要論――脳科学が解く! 「がんばってるのに報われない」と思ったら読む本』です。

 中野信子(なかの・のぶこ)先生は、脳神経医学がご専門の脳科学者です。
 脳神経医学専攻の博士課程修了後、2年間、仏原子力庁サクレー研究所の研究員を務められています。

「努力は報われる」はウソ?


 「どんなに困難なことでも本人の努力次第で叶えることができる」
 そう信じている日本人は、少なくありませんね。

 しかし、中野先生は、「努力は報われる」とは、「半分は本当で半分は美しい虚構である」と指摘します。

 半分が「本当」である理由は、努力を積み重ねることで自分が持っている可能性の最大限まで発揮できるようになるから。
 半分が「虚構」である理由は、才能は遺伝的に決まっているから。

 人はみな、生まれ持った能力は違います。
 努力すれば、誰でもウサイン・ボルトのように速く走れるようになるわけではありません。

 うまくいかないのは、自分の「努力」が足りないから。
 中野先生は、そう考えるのは「洗脳マジック」に引っ掛かっているのだと主張します。

 本書は、脳科学の見地から「努力」の意味を解き明かし、報われない努力を回避するための方法を解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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本当の努力とは何か?


 中野先生は、無駄な努力や報われない努力をしないためには、

  1. 目的(目標)と、それを達成するための戦略を立てる
  2. タスクを一つひとつ処理していく
 を徹底することだ、と指摘しています。

 戦略をきちんと立てることが最重要です。普通は、人というのは面倒くさがりなものですから、戦略を立てるプロセスを飛ばし、一日か二日くらい何かすると、努力した気になって満足してしまう。目標を達成できるほうが不思議です。
 どんなに世の中がダイエット本であふれかえっても太った人は減りません。これは、一週間や二週間、運動したり、食べなかったりするだけで、なんとなくやった気になってしまうから。
 でも、それは努力といえるでしょうか?
 本人は、努力していると思っているのです。こうした、戦略のない「無意味な努力」を讃える風潮があるのも良くないことです。自己満足しているから気持ちいいとは思いますが、これでは真の努力とはいえません。

 努力というと普通の人は、苦労した分だけ成果が出る、と思い込まされているのではないでしょうか? しかし、「苦労すること=努力」ではないのです。
 真の努力というのは本来、成果を出すために必要な①目的を設定する、②戦略を立てる、③実行する、という3段階のプロセスを踏むことです。
 どれが間違っていても結果は出ません。たとえば、数学ができるようになりたいのに一生懸命外国語の単語を覚えても仕方ありませんよね。これは、②戦略を立てる、が間違っているのです。いくら努力しても努力は実を結びません。

 『努力不要論』 第1章 より 中野信子:著 フォレスト出版:刊

 結果の伴わない努力は、努力とは呼べないということですね。
 効果がないことは、早い段階であきらめて他の方法を探るという思い切りのよさも必要です。
 半信半疑のままズルズルと続けてしまうのが最も悪いパターンです。

 日本には、結果が出ていなくても、頑張ってさえいれば許される風潮があります。
 それも見方によっては、本人の「甘え」を助長しているといえますね。

努力する人は「野蛮人」である


 人間の脳は、機械のようにシンプルで合理的にはできていません。
 努力以外の遊びの部分というのは、脳にとって栄養源といってもいい大事なもの。

 中野先生は、ヒトは、努力よりずっと、遊びが必要な生き物だと述べています。
 遊びのような、非合理的な部分を備えていることが人間を人間たらしめているということ。

 このように書いていくと、「努力する人は野蛮である」と聞こえるでしょう。
 これは、ウソ偽りのない私の考えです。
 もちろん、人間だって生き物ですから、野蛮な部分があって当然です。生き物として合理的な選択、意思決定をする機能を使って生き延びていくわけだから、もちろん必要な部分です。
 しかし、野蛮さしか持たない人を信用すべきではありせません。あなたが、その野蛮さの犠牲になってしまうからです。

 無駄な部分への視線が少ない人は、人を傷つけることを厭(いと)わないものです。無駄な部分というのは、じつは、ヒトが仲間を思いやるという行動を可能にするために生まれた、長い目で見ると役に立つ無駄なのです。
 魚類や爬虫(はちゅう)類は自分の卵から生まれた子供でも、ごく自然に食べてしまいます。たとえばメダカなら、卵や稚魚を親に食べられないようにするのに工夫が必要になるほどです。
 ただ、これも個体が生き延びるためには合理的な選択です。子供は親からできるだけ遠くに行こうとする。これも合理的な選択です。
 しかし、ヒトはそんなことをしませんね。子供を殺すという行為にはそもそも、情動のブレーキがかかる。さらに、倫理的に許されない、とする。倫理というのは非常に無駄が多いのですが、無駄があることで逆説的に生存に有利になり、子孫が繁栄する。そして、文化的な社会が成立するのです。

 『努力不要論』 第2章 より 中野信子:著 フォレスト出版:刊

 今の経済中心の世の中は、役に立たないものをすぐに切り捨ててしまいがちです。
 それは進化しているようでいて、じつは退化している危険性をはらんでいるということ。

「努力する人は野蛮である」

 努力で得られるメリットだけに目を奪われず、無駄な部分への視線を忘れないようにしたいですね。

構造を「壊す」のではなく「利用する」工夫を


 学歴社会といわれ、年功序列制度がいまだに残っている日本。
「努力が報われない国」という印象をもっている人は多いでしょう。

 ただ、世界的に見ると、日本のように経済や教育の格差が少ない国は珍しいです。
 努力次第でいくらでも自分のやりたいことができる恵まれた環境といえます。

 中野先生は、格差社会だ、ワーキングプアだと騒いでいる人たち、あるいは当人は、実際に貧困だというよりも、発想力が貧困なのではと指摘します。

 努力を実らせて成功するために、わざわざ既存のルールや構造を壊す必要はありません。
 現行のルールに沿って、それを利用することで工夫して稼ぐことは可能です。

 起業家の例も面白いのですが、私がいつもすごいなと思うのは、お笑いタレントの人たちです。
 彼らは芸人である限り、時代を揶揄(やゆ)はしますが、時代の何物をも、壊そうとしません。それが自分を生かしているものであるということが、身にしみてわかっているからです。
 自分を取り巻く空気の中に存在している暗黙のルールをいち早く掴み取り、それを言葉などによって転がすことで多くの人を楽しませ、不満を解消し、溜飲(りゅういん)を下げさせて、そこから利益を得るのです。
 タモリさんや有吉弘行さんのように、時代を斬る感覚が鋭く、言葉の扱いが巧みな人であれば、大きな財産をつくることも可能です。

 もちろん、誰にでもできるというわけではありませんが、現行の構造やルールを利用して稼げる人の例として、こういう人もいるのだということを覚えておくべきだと思います。
 可能性を追求するかどうかは、あくまであなたの自由です。
 いろいろなチャレンジを、バカにしたり笑ったりする人は当然出てくるものです。けれど、日本の政府や公的機関が、法的にあなたの挑戦を禁止するといったことはありません。日本は、普通の庶民が、いくらチャレンジしても許される国なのです。

 『努力不要論』 第3章 より 中野信子:著 フォレスト出版:刊

 お笑いの世界は、実力勝負で、人気の移り変わりの激しい過酷な世界です。
 そのなかで生き残っていくためには、時代の風を敏感に感じとり、それをいち早く取り込んで自分の個性とうまく融合させることが必要ですね。

 これからの世の中は、「個人の時代」といわれています。
 一人ひとりが自分の人生に責任を持ち、“ピン芸人”としての意識をもつことが必要なのでしょう。

才能を潰そうとする人の対処法


「頑張っても報われない」
「あの人はずるい」

 真面目に頑張っている人ほど、そのような不条理を感じる傾向があります。

 中野先生は、もともと能力が低く、しかし努力を重ねてのし上がってきた、という人は他人の才能を見抜いて潰しにかかってくる傾向が強いと述べています。

 他人の才能を潰そうとする人の衝動は制御できません。
 本人でさえ、そういう自分を嫌だと思いつつも、衝動をコントロールできなくなっている可能性があります。だからできるだけ近づかないようにして、衝動を起こさせないことが大切です。自分はもちろん、相手のためにも大事なことです。

 どうしても接触しなければならない場合には、「私なんか大したことないですよ」「結構つらいんですよ」という姿を見せることが一つの有効な手段です。
「いやあ、才能があると思われているかもしれませんが、じつは家がこんなに貧乏で・・・・」とか、相手が安心できるような、つっこんでもらえるような弱点をみせるのです。
「今の旦那さんはたまたま良かったけれども、それまで本当に男運がなくて・・・・」などと適度に自己開示していくのも有効でしょう。女性であればわざと不美人に見える化粧やファッションをするのもいいでしょう。
 アンダードッグ効果と言いますが、同情の余地のある何かを提示することで、相手は溜飲を下げて応援してくれるようになります。
 ただし、見せた弱みを広められてしまうリスクもあるので、広まっても差し支えない話題を慎重に選ぶ必要はあります。

 AKB48の高橋みなみさんは、300人近いAKBグループを束ねる総監督という立場にいますね。大江戸温泉物語最高料理顧問で、元プリンスホテルの調理部長だった高階孝晴さんとの対談で、彼女は、こんなことを言っています。

「(メンバーに)親近感を持ってもらえるよう、不得意なことや失敗など、あえて自分の弱さを見せるようにしています。ライブのあとは、最初に“あそこで失敗しちゃった! ごめんね”と白状したうえで、みんなに対して意見を言います。そのほうが、気持ちが伝わりやすいですからね」

 これが、アンダードッグ効果の適切な応用です。高橋さんは若年ながら、ご自身の経験で、心理学上の発見と同じことを掴んで実践しているのです。
 これに対して高階さんも、次のように返答しています。

「そう、リーダーは完璧じゃだめです。どれだけ料理の腕がすごくても、たとえばお酒がだめとか、恋愛がまったくだめとか(笑)、そういった“隙”が大事。周りに“支えてあげなくては”と思わせてこそ、真のリーダーですよ」

 『努力不要論』 第4章 より 中野信子:著 フォレスト出版:刊

 一流といわれる人ほど、自分の能力をひけらかさず、謙虚な姿勢を崩しません。
 それには、嫉妬ややっかみの標的にならないための処世術という意味もあります。

「出る杭は打たれる」
 そんな言葉もあるように、日本の社会では突出した才能は叩かれます。

 上の立場になればなるほど、アンダードッグ効果をうまく使って、相手との間に壁をつくらず良好な関係を築く必要がありますね。

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 中野先生は、真の努力とは、「努力をしない努力」のことだとおっしゃっています。

「努力をしている」という自覚があるうちはまだまだ。
 時間を忘れるほど夢中に取り組んでいる、そんな状態をいうのでしょう。

 自分の好きなこと、夢中になれることは何か。
 自分の長所、生まれ持った能力は何か。

 本当の努力とは、それらを活かすための方法を考えて、実行する努力です。

 どんなスキルでも、イヤイヤながら頑張っても身につきません。
 脳の仕組みに逆らわない、楽しみながら続けられる工夫を心がけたいですね。


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