【書評】『仕事で成長する人は、なぜ 「不安」を「転機」に変えられるのか?』(久世浩司)

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 お薦めの本の紹介です。
 久世浩司さんの『仕事で成長する人は、なぜ 「不安」を「転機」に変えられるのか? キャリアに生かす「レジリエンス」仕事術』です。

 久世浩司(くぜ・こうじ)さんは、レジリエンスを専門とするメンタルトレーナーです。
 大学を卒業後、大手化粧品メーカーを経て、現在は国内初のポジティブ心理学の社会人向けスクールを設立、コーチ・講師などの実務家を育成されています。

「不安」を“てなずける”技術とは?


「人に嫌われないだろうか?」
「仕事の締め切りに間に合うだろうか?」

 そんな不安を抱えながら生きている人は多いです。
 不安に悩まされている人とそうでない人の差は、どこから生まれるのでしょうか。

 久世さんは、その答えを「レジリエンス」に見い出します。
 レジリエンスの定義は、逆境や困難、強いストレスに直面したときに、適応する精神力と心理的プロセスです。

 不安は、敵にするのではなく、いかにうまくつきあっていくかを考えなくてはいけないもの。
 つまり、不安を受け入れて「てなずける」スキルを身につけることが大切です。

 本書は、レジリエンスについての研究をもとに、不安のてなずけ方と活用法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「不安感情」の悪影響


 久世さんは、「不安の感情」が持つ問題点を次のように解説しています。

 不安は、過剰になるといくつかの問題を発生させる厄介なネガティブ感情の一種です。この感情をコントロールできなくなると、仕事や生活の障害になってしまうのです。
 不安感情の問題を「思考」「行動」「健康」という3つの側面で整理してみました。
 まず無視できないのが、思考面での悪影響です。一般的に、ネガティブ感情は私たちの視野を狭め、特定の物事に注意を集中させる働きがあります。不安も同じで、この感情にとらわれると悪いことばかりに目が行くようになります。仕事での問題やリスクが気になってしまうのです。
 また、不安は極端にネガティブな考えで頭をいっぱいにさせます。「失敗してひどい結果になるのではないか」「自分の将来は真っ暗ではないか」という根拠もない悲観的な考えが頭の中で繰り返されるのです。これは「破局的思考」といわれる、冷静な思考ができなくなり、正確な判断が困難になる思考状態です。不安なときに、人生や仕事での大切な意志決定や大きな買い物をしたりすべきではありません。
 行動面においては、まず自信が低下して、仕事のパフォーマンスが下がります。
 そして「不安で仕事が手につかない」というように、業務の効率の低下を招く原因となります。多くの職場では、最小の時間で最大の成果を発揮することが求められています。ところが、不安をうまくコントロールできないと、仕事をしている時間のほとんどで悩み、心配ばかりして、無駄な時間を費やしてしまいます。
 行動面での別の問題点は、失敗を恐れて仕事での新しい挑戦を避けようとする「行動回避」の悪癖です。経験したことのない仕事や初めての移動、さらには海外転勤の機会などを会社から与えられたときに、「自分には無理です」と断ってしまうのです。
 これはビジネスパーソンにとって、マイナスになる態度だと考えます。なぜなら、自分の成長の機会を失ってしまうからです。
 人の成長は、心理的な「快適ゾーン」を一步超えたところにある仕事に挑戦するときに生まれます。少し「無理だと感じられる」仕事を経て、私たちの経験値はぐっと上がるものです。経験値がアップする貴重な機会を自ら拒否しては、成長のスビードが限られてしまいます。私たちは新しい経験値を積み重ねることで成長するのです。
 健康面での問題も気になります。不安感情は心の健康に大きな影響を与えるからです。
 不安が重なると、神経的に緊張しやすくなり、偏頭痛に悩まされたり、疲労の回復に時間がかかったりします。さらには寝つきが悪い、眠りが浅く夜中に目が覚めてしまうなどの睡眠障害にもつながるリスクがあります。不安は老化の原因になるとも考えられています。肌にツヤがなく老けて見える人は、不安で悩んでいるのかもしれません。

 『仕事で成長する人は、なぜ「不安」を「転機」に変えられるのか?』 序章より 久世浩司:著 朝日新聞出版:刊

 不安は、健康にも、仕事にも、普段の生活にも大きな悪影響を及ぼすのですね。
 そのなかでも、失敗を恐れることで新しい挑戦を避けてしまう「行動回避」は、なんとしても避けたいところです。
 不安を自分自身の力に変える“したたかさ”が求められます。

「ボティスキャン」とは何か?


 不安に悩まされている人が、まず知っておくべき知識は、以下の『感情をコントロールする3つの不安』です。

  1. 感情に気づき、受け容れること
  2. 感情のきっかけとなる「思い込み」をてなずけること
  3. しつこいネガティブ感情は適切に「気晴らす」こと
 久世さんは、感情の「気づき」を高めるための手法として、「マインドフルネス」というテクニックを勧めています。
 マインドフルネスは、日本語に訳すと「気づくこと」または「注意深く意識すること」という意味です。

 マインドフルネスの目的は、心が「今、ここにあらず」の状態を「今、ここ」のあるべき位置に戻すこと
 久世さんは、その心の状態が、不安をはじめとした感情の「気づき」を促すと述べています。

 マインドフルネスの手法のひとつに、「ボディスキャン」という手法があります。

 ボティスキャンとは、自分の体全体に意識を行き渡らせ、現在の体の状態をあるがままに感じ取る作業です。体の感覚が鋭敏になると、体の内面に流れている感情への気づきが高まる効果も期待できます。
 私は海外に出張や旅行などをするときに、飛行機の座席を倒して、または到着後のホテルのベッドに横たわって、このボティスキャンをしてリラックスするすることもあります。
 この手法を体験すると実感するのが、私たちがいかに自分の身体に注意を払っていないかです。身体の感覚の認識力が低下しているのです。身体には、手足だけでなく、体の内面、つまり内臓も含まれます。
 私はボティスキャンを始めてから、身体の不調のサインにすぐに気づくことができるようになりました。早期に対処すると、怪我や病気などの大事の予防ともなります。
 手順は、ベッドやヨガマットの上など、平坦で快適な場所で楽に仰向けの状態に横たわり、頭の先から手の指先、足の指先まで体の各部に意識を注いでいきます。まるで病院にあるCTスキャナーに入り、頭頂から足先まで自分の身体が順番にスキャンされているかのように、自分の意識の力を研ぎ澄まして、身体の緊張や痛み、温かさや冷たさ、緩みやしびれなど、各所の感覚をもれなく観察していくのです。
 ボティスキャンを行うには、「次は右手の手首に意識を動かしてください」というように、誰かに指示をしてもらうと簡単です。そのときに便利なのがアプリです。
 たとえば、『寝たまんまヨガ』というiOSとAndroidの人気無料アプリがあります。ヨガ・スタジオとのコラボにより開発され、現役の女性インストラクターが音声で指導してくれるものです。
 このアプリ内の1番目のプログラムである「Deep Relaxation Short①」が、マインドフルネスにおけるボティスキャンと類似しています。心身ともに気持よくリラックスできるこのプログラムの後は、体も心も明晰になり、感情への気づきも高まり、穏やかで活力に満ち溢(あふ)れることが期待できます。
 ボティスキャンをすると、体に蓄積された緊張が和らぎ、気持ちも深く落ち着くため、うっかり寝てしまうこともあります。そのわずかな眠りは実はとても深い休息となるので、「寝落ち」しても気にする必要はありません。

 『仕事で成長する人は、なぜ「不安」を「転機」に変えられるのか?』 第1章より 久世浩司:著 朝日新聞出版:刊

 普段の生活の中で「ボディスキャン」を行うと、自分の感情察知能力が高まるとのこと。
 携帯のアプリなどの助けを借りて、体の感覚に鋭敏になるトレーニングを習慣づけたいですね。

「フロー」を体験して仕事に没頭する


 今、ここに精神を集中し、前進しているときには、不安は感じません。
 心理学では、ある行動に没入し、時間を忘れるほど高度に集中した心理状態を「フロー」と呼んでいます。
 久世さんは、仕事で一流の人ほど、目の前の職務に没入するタイプが多いと述べています。

 フローに入りやすい場面には、芸術活動や創作活動だけでなく、スポーツや趣味の活動、将棋やチェス、囲碁などの高度な思考系ゲーム、コードを打ち込むコンピュータ・プログラミング、さらには会場が一体化するようなワールドカップ・サッカーのようなビッグイベントなどがあります。
 そして、フロー体験の頻度が高い活動は、社会人であれば仕事をしているときであり、学生であれば学習に集中しているときであることもわかりました。
 たとえば、チクセントミハイ博士はその著書で革新的な製品を輩出していた頃のソニーを例に挙げ「技術者たちが技術することに深い喜びを感じ、その社会的使命を自覚して、思いきり働ける安定した職場をこしらえるのが第一の目的」という井深大さんの設立趣意書に掲げられた思いを、フローを生み出す職場を支える経営者の姿勢として賞賛しています。
 特殊な心理状態であるフローですが、さまざまなメリットが確認されています。
 1つ目に、非常に「充実した体験」であることが挙げられます。
この充実感は、私たちに幸福をもたらします。幸福とは、何か心地よい気分になることだけではありません。フローによる充実感も人間の純粋な喜びであり、より深い満足感や楽しさを与える幸せな体験なのです。
 2つ目に、「内発型のモチベーション」を与えます。これは、お金や承認、褒め言葉などの外発的報酬を伴う動機づけと異なり、その仕事をやりたいと感じさせるやる気です。フローは外発的報酬を伴う動機づけと異なり、その仕事をやりたいと感じさせるやる気です。フローはとても充実した体験なので、もう一度経験したいと自然に望むようになるのです。
 しかし、もう一度フローを体験するには、より高度な挑戦をしなくてはいけません。そのためには自分の能力をアップさせなくてはいけないのです。その結果、自ずと学習と訓練に励むようになります。これが3つ目のメリットである「自己成長」です。
 4つ目に、フローの状態が「心的エネルギーを無駄に消耗しない」があります。フローでは、ネガティブ感情で浪費されがちな心的エネルギーを効率的に活用します。まるで燃費の良いハイブリッド車に乗っているような状態なのです。だから、フローを体験すると、体は疲れても、心はさわやかで疲れを残さないのです。

 『仕事で成長する人は、なぜ「不安」を「転機」に変えられるのか?』 第2章より 久世浩司:著 朝日新聞出版:刊

 余計なことを考えず、目の前のことに全力で取り組むこと。
 それが結果的に、自分自身を成長させ、心理的な負担を軽くしてくれます。

 フロー状態というと、超一流の芸術家やスボーツ選手だけが入ることができる特別な心理状態だととらえられがちですが、そうではありません。
 私たちが普段やっている仕事や勉強でも、「今、ここ」に集中することで入ることができるということですね。

「シグモイドカーブ」をキャリアに応用する


 人生には、考え方や価値観をがらりと変えることを迫られる「転機」が必ず訪れます。
 そのとき、「喪失の不安」から自分が慣れ親しんだ過去の価値観にしがみついてしまうと、自分が変わる機会を逃してしまいます。

 自分は現在キャリアのどの地点にいて、転機はいつぐらいに訪れるのかを予測する。
 そんなときに役立つのが「シグモイドカーブ」です。

 事業の成長は、以下の4つの段階に分かれていて、S字のカーブによって表されます(下図1参照)。

  1. 創業期
  2. 成長期
  3. 成熟期
  4. 衰退期
シグモイドカーブにおける4つのステージ第3章P151
図1.シグモイドカーブにおける4つのステージ
(『仕事で成長する人は、なぜ 「不安」を「転機」に変えられるのか?』 第3章 より抜粋)


 このシグモイドカーブは、私たちのキャリアデザインにも応用することができます。

 シグモイドカーブでは、仕事的に成熟期に達したときこそ、キャリア上の「転機」が近づいていることを教えてくれます。そして、事業と同じように、成長期が終わり、成熟期に入った直後が、次のカーブを描き始めるための準備をすべき時期であると示します。
 つまり、仕事の基本をマスターして一人前になり、周囲の期待以上の成果をあげることができるようになり、自分ならではの知識・技術・経験が高く評価されるようになったそのタイミングに、次の仕事のやりがいとなりうる目的を探し始め、そのための種まきをすべきであるということです。
 しかし、転機の時期には困難も失敗もあります。シグモイドカーブでも一時的に落ち込んでいるように、第2のキャリアにスムーズに移行できるとは限りません。サプライズもあれば逆境もあるはずです。レジリエンスの能力が試される時期です。
 まいた種が花を咲かせるまでには時間がかかります。トライ&エラーをすることも多いでしょう。だからこそ、自分の仕事に自信がつき、ノリにのっている絶頂期にこそ、準備を開始しなくては間に合わないのです。
 その転機を乗り越えた先には、新たな成長が待ち構えています。1つ目のカーブとは異なる、ビジネスパーソンとしてよりダイナミックな成長です。一時的に落ち込んでいた所得も再起して、以前のキャリアを上回るレベルに増加するかもしれません。

 『仕事で成長する人は、なぜ「不安」を「転機」に変えられるのか?』 第3章より 久世浩司:著 朝日新聞出版:刊

キャリアの転機で新しいカーブを描く第3章P154
図2.キャリアの転機で新しいカーブを描く
(『仕事で成長する人は、なぜ 「不安」を「転機」に変えられるのか?』 第3章 より抜粋)


 いつまでも同じ会社で同じ仕事をしているわけにはいきません。
 人材が流動化するこれからの時代はなおさらですね。

 今の仕事を続けられるか、あれこれ悩んでいても解決にはなりません。

「次に自分がやりたいことは何か」
「自分のスキルを活かせることは何か」

 それらを考えながら、自ら積極的に第2のキャリアを探しにいく、攻めの姿勢が大切です。

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 人は、生きている限り、不安から逃れられません。
 だからといって、不安から逃げてばかりいては、いつか袋小路に追い込まれます。

 不安の力は、私たちが想像しているより大きいです。
「レジリエンス」の考え方は、その不安を受け入れ、てなずけるというもの。
「不安は抑えこみ、打ち勝つべき」という従来の考え方とは、大きく発想が異なります。

 本来なら後ろ向きに働くことが多い、不安の力。
 それを、ゼロにするどころか前進する力に変えてしまおうということ。

 本書の内容は、不安におびえて立ちすくんでいる人に、一步前に踏み出す勇気を与えてくれます。


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