【書評】『マインドフル・リーダーシップ 』(田口力)

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 お薦めの本の紹介です。
 田口力さんの『マインドフル・リーダーシップ “今”に集中するほど、成果が最大化される』です。

 田口力(たぐち・ちから)さんは、世界最高のリーダー育成機関として知られる「クロトンビル」で、日本人として唯一リーダーシップ研修を任された方です。
 現在は、独立して国内外の企業幹部に対して「本物のリーダーシップ研修」を指導されています。

求められる「リーダーシップ」とは?


 情報テクノロジーなどの目覚ましい進歩により、環境変化のスピードは増し続けています。
 私たちに求められるスキルも、どんどん変わっていきます。

 時代や社会のしくみが変化しても、つねに求められる普遍的な能力というものはあるのか。
 田口さんは、そのような能力について研究を重ねてきました。
 30年にわたり試行錯誤した結果、たどり着いたのが、「マインドフル・リーダーシップ」です。

 本書は、「マインドフルネス」を始め、普遍的なリーダーシップの基盤ともいうべき能力を解説し、それらを身につけるための方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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マインドフルネスが「リーダーの根底」にある理由


 リーダーにとって「マインドフルであること」。
 それは、意識をその瞬間に集中して新しい物事に気付くことです。

 なぜ、マインドフルな状態になる必要があるのか。
 単に「世の中の情報に振り回されないようにする」とか、「考える時間をきちんとつくる」ためだけではありません。
 リーダーにとって一番大切である「自分を知る」ための第一歩だからです。目の前のことに集中する、この意識的な気付きが積み重なって、自覚や自己認識につながるとも言えます。
 まず、「自分を知る」ことが「マインドフルネス」とどのような関係があるのかについて整理しておきましょう。

 29ページにある図(下図を参照)をまずご覧ください。
 私が本書で「自分を知る」という言葉を使うとき、それは英語のセルフ・アウェアネスを意味します。逆にこの英単語を辞書で引けば、日本語では「自己認識」や「自覚」と出てきます。アウェアという言葉は、気付いているという意味です。
 このセルフ・アウェアネスを高めることが、優れたリーダーになるために必要です。その関係は、図に示したとおりで、セルフ・アウェアネスは、マインドフルネスの上に成り立っています。これからご説明するマインドフルな状態にあることで、初めて自分を知ることができるようになるわけです。
 そして、セルフ・アウェアネスが高まるほどに、“混じり気のない本物”のリーダーになることができると考えます。”混じり気のない本物”のリーダーとは、次のような特徴を持っている人のことです。ここでは詳述はしませんが、イメージだけはしておいてください。

  • 自らの確固たる信念や価値観に従い、行動・実践する
  • 目的を達成するために大いなる情熱を持っている
  • 他者に対する思いやりを持つと同時に、果敢な決断ができる
  • 謙虚さと自信に裏付けられた、幅広い人間関係を構築・維持できる
  • 品性と倫理観、厳しい自己統制力を持っている
 さて、図が示すように、この三つの要素は同じ大きさのボックスで積み上がっているわけではありません。この解釈の仕方としては、
「多くのマインドフルな思考や行動からいくつかのセルフ・アウェアネスが得られ、その多くのセルフ・アウェアネスの積み重ねによって本物のリーダーシップ要素がいくつか得られる」
 という具合に理解してください。
 このようなリーダーであることが、「変革型」や「サーバント型」など、いろいろとタイプ分けされることの多いリーダーシップ・スタイルの前提として存在するわけです。

 『マインドフル・リーダーシップ』 1章 より 田口力:著 KADOKAWA:刊

図 リーダーシップの土台 1章P29
図.リーダーシップの土台(『マインドフル・リーダーシップ』 1章より抜粋)

 “混じり気のない本物のリーダー”になるために必要な「セルフ・アウェアネス」。
 その土台となるのが、「マインドフルネス」です。

 田口さんは、さまざまなリーダーシップ・スタイルの基盤を作るための第一歩がマインドフルなリーダーになることだと述べています。

影響力がある人は「このプロセス」を大事にする


 田口さんは、自分の職位に付随した権限を行使して人を動かすのがマネジメントで、その権限を行使しないで人を動かすのがリーダーシップであると述べています。

「マネジメント」と「リーダーシップ」は車の両輪のようなもので、バランスよく発揮することが大切です。

 新卒で会社に入った人の多くが、リーダーシップをとる経験を最初にするのが、プロジェクト・チームになったときではないでしょうか。
 公式な組織のリーダー、つまり部下を持つリーダーの役割は、管理職(マネジャー)でもあります。この公式な組織の管理職になる以前に、プロジェクトのリーダーを務めることは、大変よい経験と教訓を得る機会となります。
 なぜなら、公式的な組織における指揮命令系統における部下ではない人たちをまとめ上げなければならないからです。そうした状況でリーダーシップを発揮してプロジェクトを進め、そして成果を挙げることは、まさにリーダーシップの鍛錬の場としては最適でしょう。
 プロジェクトには、さまざまな部門から、そのプロジェクトだけのために一時的に人が集まります。そのような人たちを動かすにあたっては、自分の部下に対して行使するような権限を使うことはできません。
 では、そもそも自分の権限の及ばない人々を通じて、チームの目標を達成するためにはどうしたらよいでしょうか。言い換えれば、自分の権限の及ばない人を動かしたり、あるいは自分の部下であっても権限を使わずに動かしたりするには、どうしたらよいのでしょうか。
 その答えは、影響力を使うことです。自分が持つ権限を使わないで人を動かすことがリーダーシップであるならば、その手段が影響力であると言うことができます。
 リーダーシップを発揮することは、権限や肩書には関係ありません。昨日入社したばかりの新入社員でも、非正規の従業員でも、だれもがリーダーシップを発揮できますし、発揮することが期待されています。
 では、その影響力とは一体何なのかについて考えてみましょう。
 まず、「人に影響を与えること」とはどのようなことかと言えば、相手に何らかの行動を取るようにさせることです。
 しかも、本人が自ら望んで行動していると思わせる必要があります。あなたが影響を与える相手が、「無理やりやらされている」とか「仕方なくやっている」という気持ちを持つのではなく、「参加している」「尊敬されている」「踊らされていない」「自分にとって意味がある」という思いを抱かせることがポイントです。
 自分が思うように強制的に相手を動かそうとするのではなく、相手の立場に立って影響を与えることが肝要なのです。

 『マインドフル・リーダーシップ』 2章 より 田口力:著 KADOKAWA:刊

 肩書や権力にものをいわせて相手を強制的に動かすだけでは、思い通りに進みません。
 相手に進んで協力してもらうことが、物ごとをスムーズに進めるポイントです。

 リーダーシップの手段は、その人の持つ「影響力」。
 立場に関係なく発揮できる能力だということですね。

「とらわれない心 かたよらない心 こだわらない心」


 田口さんの座右の銘のひとつに、「行雲流水(こううんりゅうすい)」という言葉があります。

 行雲流水とは、禅の言葉で、空を行く雲のように、そして川を流れる水のように、一ヶ所に留まることのない様子を表します。

 この行雲流水という言葉に触れたとき、「川の水も、流れが悪いところにはゴミがたまってよどみができてしまう。心も同じで、一つのことにこだわってしまうとそこによどみができるものだ」といった趣旨の解釈を読みました。
 まさに若いころの私の心は、よどみの集合体でした。過去のことにいつまでもとらわれていれば目の前のことに全力で向き合うこともできませんし、未来への希望もわきません。
 言うまでもありませんが、過去にとらわれないことと過去を反省しないことはイコールではありません。
 反省するときは反省する。そしてそこから教訓など何かを学び取る。そしてそこまでできたら先に進むということが大切である――と、この言葉に出会って頭を切り換えることができました。
 禅の修行場にいたとき、毎日、般若心経(はんにゃしんぎょう)を全員で読経(どきょう)していました。プロの(?)修行僧としてではなく、素人の修行体験みたいなものでしたから本格的な厳しさではありませんでしたが、お坊さんからいろいろな法話を聞くことができました。
 行雲流水という言葉を知ることによって、私は執着心を捨てねばならないと思いましたが、さらにそれを加速してくれたのが、その法話の中で紹介された、

 とらわれない心 かたよらない心 こだわらない心
 ひろく ひろく もっとひろく
 これが般若心経 空(くう)の心なり

 という、薬師寺の管主であった高田好胤(こういん)師の言葉でした。
 私には「とらわれない心 かたよらない心 こだわらない心」というフレーズが、経典(きょうてん)の中身の理解よりも先に素直に心に刺さりました。過去の苦い経験で味わった感情面だけにとらわれていると、そこから心のよどみができてしまい、やがてそれが固定観念や先入観というものに姿を変えていたことに気付きました。
 自分の心を縛り付けている執着心などの制約から離れ、心の動きを自在にすること。目の前にあることをそのまま見るために欠かせない条件です。

 『マインドフル・リーダーシップ』 3章 より 田口力:著 KADOKAWA:刊

 私たちが執着しているのは、過去や未来のことについてがほとんどです。
 マインドフルネスによって「今この瞬間」に意識を集中することで、それらから解放されます。
 
「とらわれない心 かたよらない心 こだわらない心」

 つねにニュートラルな心の状態を保っていたいものですね。

コーチングとは「部下への邪魔」を排除してやること


 田口さんは、管理職の役割として、「部下のパフォーマンス・エンジンに着火すること」がとても大切な役割であると述べています。

 人は、能動的に学習のサイクルを回し始めることで、自律型人材へと進化します。
 部下が学習サイクルの好循環を回すためには、コーチ役である上司の役割が重要です。

 上司がコーチとしての役割を十分果たすためには、まず頭の中を、新しいパラダイムにシフトする必要があるとのこと。

 従来のコーチングのパラダイムは、「P=C+K」という考え方でした。「P」はPerformanceで業績、「C」はCapacityで能力、「K」はKnowledgeで知識を表します。
 つまり、コーチングとは、今の能力に知識を付け加えることで業績を向上させようとする活動だ、考えられていたのです。そのため、コーチングの研修を受けた管理職は、「コーチングで肝心なことは良い質問をすることである」などと教わったはずなのに、いつの間にか「自分が君くらいのときにはだなぁ」などと“ティーチング”のようなお説教が始まってしまうのです。
 ティーチングが必要な場合ももちろんありますが、コーチングとの使い分けができることが大切です。同一の部下に対していても、場合によってティーチングがふさわしいときとコーチングがふさわしいときの両方があるので注意が必要です。
 さて前述したように、ハイ・パフォーマーとロー・パフォーマーとでは、能力に大きな差がないと言いました。そして「集中」「自信」「エネルギー」の三つの要因が両者を分けるポイントであるとわかりました。
 つまり本来人が持っている能力には大きな差はないにもかかわらず、この三つの要因を発揮することを阻害していることがあるため、人はその能力を最大限に用いることができていないのです。
 言い換えれば、ハイ・パフォーマーとは、自分が持っている能力を最大限に発揮できている人である、と言えるでしょう。
 そして、この考え方に基づいたコーチングの新しいパラダイムは、「P=C−I」と表すことができます。
「P」と「C」は先ほどと同じで、業績と能力を表します。「I」はInterferenceで妨害や干渉、邪魔といった阻害要因を意味します。
 すなわち本来のコーチングの目的は、人が持っている能力を発揮することを邪魔してしまうような「I」を極小化することなのです。
 マインドフルの逆の状態であるマインドレス、つまり気が散ってしまって意識を集中できない、他者への配慮がないような状態になることを防いであげる、あるいは取り払ってあげるためにコーチングを行うのです。
 一体どのようなことが、その人にとっての妨害や干渉になるのでしょう。
 代表的なものは、その個人にとって「恐れ」となることです。具体的に何が「恐れ」になるのかは人によって異なりますが、一般的にはリストラ、新しい技術、競争の激化、人員削減による過重労働、職場や人間関係の変化、不確実性などが挙げられるでしょう。
 もちろんこうした組織的な要因だけでなく、政治・経済環境などの外的要因や家族の問題、個人のキャリア、病気など、個人的あるいは内的要因も「恐れ」となります。
 従来、部下が働きやすい環境づくりをすることが上司の役割であると言われてきましたが、阻害要因に注目してみると、コーチングのヒントが隠されているかもしれません。

『マインドフル・リーダーシップ』 4章 より 田口力:著 KADOKAWA:刊

 持てる力を発揮できないのには、何かしらの理由があります。
 それを取り除かなければ、いくら知識やノウハウを詰め込んでも状況は変わりません。

 部下のパフォーマンスを妨げている要因は何なのか。
 それを見極める注意力、コミュニケーション力が必要になります。

 コーチングは、まさに、マインドフルな力が試されるスキルですね。

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 本書の中で、「Carpe Diem(カーペ・ディエーム)」という言葉が紹介されています。
 この言葉はラテン語で、和訳すると、「今を生きろ」「今をつかめ」という意味になります。
 映画『いまを生きる』の中で、主人公のキーティング先生が生徒たちを前に語りかけた言葉として記憶している人も多いのではないでしょうか。
 この言葉はまさに、マインドフルな人生の本質を突いた言葉ですね。

 過去を悔やまず、未来を憂いない。
 今、目の前のことに全力を尽くす。

 それが自らの道を切り拓く、最も強力な方法です。
 時代や社会のしくみが変化しても、おそらく変わることはないでしょう。

 普遍的で一生ものの価値を持つ「マインドフル・リーダーシップ」。
 これからの時代を生き抜く上で、必須のスキルになるのではないでしょうか。


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