本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『人工知能に負けない脳』(茂木健一郎)

 お薦めの本の紹介です。
 茂木健一郎先生の『人工知能に負けない脳 人間らしく働き続ける5つのスキル』です。

 茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)先生(@kenichiromogi)は、脳科学者です。
ご自身のご専門に留まらず、幅広い分野で活躍されています。

「人工知能に負けない脳」の活かし方とは?

 コンピューターとソフトウェア技術の目覚ましい発展により、急速な進化を遂げた「人工知能」
 今日、あらゆる分野において、その存在が脚光を浴びています。

 人工知能の進化がこのまま続くと、これまでは人間にしかできないと思われていた仕事が、ロボットなどの機械に取って代わられる可能性が指摘されています。
 茂木先生は、私たちはいよいよ人工知能について、本気で考えるタイミングに直面したと指摘します。

 ここでもう一度、私たち人間に求められるスキルをおさらいしてみましょう。

  • コミュニケーション
  • 身体性
  • 発想・アイデア
  • 直感・センス
  • イノベーション

 これらのスキルを磨いていくことこそ、これからの人工知能時代を生き抜く大きな武器になるというわけです。
 さらに、これから本書を読み進めていく皆さんに問いたいこと、それは、「あなただからこそできる仕事とは何か?」ということ。この問いに答えられないような人や仕事では、人工知能時代を生き抜く可能性が極めて低いということ。

「私たち人間は、ついにパンドラの箱を開けてしまった!」
 そう考えるのは、いささか早合点ではないでしょうか。
 なぜなら、人工知能の発展は私たち人間を、そして社会をより便利で豊かにし、幸福にしてくれる側面もあるからです。
 だからこそ、人工知能が優れている仕事は人工知能に任せ、私たち人間は人工知能に負けない働き方を目指していけばいいのです。
 たしかに、人間の知性をも超えた人工知能の登場で、それまで人間がしていた仕事もコンピューターが担うようになるでしょう。
 実際に、生涯安泰と思われていた医者や弁護士といった知的労働でさえ、その一部はコンピューターに置き換えられようとしています。
 でも、そのようなときには必ず人間の役割や価値、働く意味といった問題とあらためて向き合うことになります。そこで必要となる考え方、それが本書のテーマである「人工知能に負けない脳」をいかにつくっていくか、なのです。

 『人工知能に負けない脳』 はじめに より 茂木健一郎:著 日本実業出版社:刊

 茂木先生は、いくら人工知能が進化しても、やはり人間にしかできない働き方、もっと言ってしまえば生き方があると述べています。

 本書は、脳科学者の見地から、「人工知能に負けない」脳の活かし方を、わかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「2045年問題」は本当に起こるのか?

 今後の人工知能の進化を語るうえで、避けて通れないのが、「2045年問題」です。

 そもそも、2045年問題を簡単に説明すると、コンピューター技術がいまのスピードで発達し続けると、ある地点で人類の知能を超える究極の人工知能コンピューターが誕生する。それが30年後の2045年だと予測されている問題です。
 ここが「技術的特異点(シンギュラリティ)」と呼ばれるポイントなのですが、私は「2045年」という数字にはあまり意味がないと思っています。
 たしかに、シンギュラリティは間違いなく起こるでしょう。
 ただし、この「シンギュラリティは間違いなく起こる」という意味については、きちんと説明しなければいけません。それは、人工知能の発達によって人工知能の能力がどんどん「ブラックボックス化」していくということです。
 これがどのようなことかと言えば、これまでの人工知能というのは人間の手によってアーキテクチャーが開発されてきました。すなわち一個一個の要素を人間がプログラムとして書き込んでいたので、その特徴も把握できていたわけです。
 ところが、人工知能プログラムが人間の知能を超えて進化し続けると、コンピューターは自分で自分を改良できるようになっていく。これが、人工知能研究者たちをして「人類最後の発明」と言わしめている要因です。
 ここで注目したいのが「最後の」というキーワードです。
 これにはふたつの意味があると言われていて、ひとつは「もうそれ以上発明する必要がない」という意味、もうひとつは「人類が滅亡する」という意味です。
 そのような人工知能が誕生する可能性は極めて高く、そのとき人工知能は、人間にはもはや理解できない仕組み、つまりブラックボックスになっているということなのです。
 それが2045年かどうかはわかりませんが、そういう時代が来るのも時間の問題ということです。

 『人工知能に負けない脳』 第1章 より 茂木健一郎:著 日本実業出版社:刊

 人工知能の開発競争は、軍拡競争と同じで誰かがやらないとしても、必ず他の誰かがやるので、止まることはありません。
 解決しなければならない課題は、「人工知能をどうコントロールするか」
 私たちに残されている時間は、多くはありません。

 人工知能が人類を滅亡させる。
 SF映画のような話が現実にならないことを願うばかりです。

人工知能時代をチャンスと捉えられない人の3つの阻害要因

 本格的な人工知能時代を迎えるにあたり、私たちはどのような準備をすればいいのでしょうか。
 茂木先生は、人工知能時代をチャンスと捉えられない人の特徴として、以下の3つを挙げています。

  • 権威主義に固執している
  • 成功体験に囚われている
  • スピード感を持っていない

 人工知能がもたらすチャンスを活かすうえで、邪魔になってしまう阻害要因がいくつかあります。そのひとつが、権威主義に固執してしまうことです。
 特に日本人を見ていると、権威主義が邪魔をしてビジネスチャンスをつぶしていることが多いと感じます。
 しかし、人工知能の世界では、権威は関係ありません。
 たとえば、大手メディアが報じたから正しい、あるいは有名大学の教授が言っていることだから間違いない。「ハーバード大学」と聞けば、ブランド意識に苛まれていしまう・・・・・。私たち人間はこう考えがちですが、人工知能は違います。誤った認知バイアスを排除して、物事の客観的な事実や本質を見抜く、これが人工知能なのです。
 そのひとつの例として、たとえばいままでの品質保証の概念は役に立たなくなるというのが私の意見です。つまり、工業製品であれば「JIS」、あるいはおもちゃであれば「ST(玩具安全基準)」といったものがあります。これらの保証や認証による権威性を人工知能が無意味化してしまう世の中になっていくということです。
 しかし、人間には、遺伝子組換えにしても抵抗感を持つ人がいたり、ネットでの情報検索にしても「Wikipedia」の信ぴょう性を疑う人がいます。
 このような、「お墨付き」がなければ不安になってしまう人、あるいは権威主義に固執する人は、基本的に人工知能時代になじみません。
 次に、過去の成功体験に囚われていること。
 人工知能の特徴を突き詰めていくと、いわゆる「destructive innovation(破壊的イノベーション)」というキーワードに行き着きます。
 これが何を意味するかと言えば、過去の成功体験や経験則を捨てなければ、人工知能がもたらす恩恵に対して懐疑的になってしまうということです。
 GoogleやFacebookでさえ、今後、新しいイノベーションが出てきたときに、彼らの成功体験が邪魔になるかもしれません。マイクロソフトはOS「Windows」で大きな成功を収めましたが、いまは代表的なOS「Android」が無償で提供されている時代であり、かつてのような成功を続けるのは難しいでしょう。
 このような破壊的イノベーションが次々と起こる現代では、やはり過去の成功体験から抜け出せないことが、かえってリスクを高めてしまうのです。
 そして、もっとも重要なのがスピード感を持っていないことです。
 人工知能の発展によって、私たちが働く速度、生きる速度がどんどん加速しています。これについていけない人は、やはりチャンスを活かすことが難しいでしょう。
 では、具体的にスピード感を持って働くにはどうすればいいのか。
 まずは、時代のスピード感を持って働いている人の近くで学ぶということがもっとも有効な手段であるというのが私の意見です。

 『人工知能に負けない脳』 第2章 より 茂木健一郎:著 日本実業出版社:刊

 時代が大きく変わる転換期においては、価値観や常識もこれまでとまったく違ったものになります。
 その変化についていけない人は、時代から取り残されてしまいます。

 自分が乗っている列車のレールは、来るべき「人工知能時代」の激震で途切れることはないか。
 これまでとは違った新しい視点で、再検証する必要がありますね。

人間の強みとなる「コミュニケーション能力」を磨く

 人工知能に負けないスキルのひとつが「コミュニケーション力」です。
 茂木先生は、その理由を以下のように説明しています。

 人間にしかできない必要な能力、人間の脳でしか伸ばすことができないすきるこそ、コミュニケーションだと言えます。
 そもそも、人間というのは生き延びるために脳が進化してきた経緯があります。その経緯には、人間(動物)が生き延びるために必要なふたつの戦略が存在していました。
 ひとつは環境との戦いです。
 これはすべての動物に共通して言えることなのですが、進化の過程において、食料を確保するための知恵や敵から身を守る戦略として持っていた動物だけが生き延びることができたわけです。
 もうひとつは、同じ種同士の社会的な関係性、つまりはコミュニケーション能力です。
 これは人間の進化における大きな特徴のひとつなのですが、多くの生物の中でも抜きん出て速いスピードで「社会性」を発展させてきた結果、人間は環境との戦いというよりは、社会性、つまりはコミュニケーションの能力によって、その人間の生きやすさ、生きにくさが決まっていたわけです。
 では、そんな時代を経て、現代社会を生きる私たちのコミュニケーションには、どんな手法があるのでしょうか。
 ひとつには、ソーシャルメディア(SNS)が挙げられます。
 実はこのソーシャルメディア、若い人たちだけのツールになっていると思われがちですが、年配の方でもツイッターやFacebookを使いこなしている人がたくさんいらっしゃいます。むしろ、「テクノロジーアレルギー」などといって若い人でもSNSを使いこなせない人もいる・・・・・。
 ツイッターやFacebookを使いこなして積極的にコミュニケーションを取れない人というのは、「違う世界」で生きていると言わざるを得ません。
 ここで何が言いたいかといえば、現状でもすでにITを使いこなせる人と使いこなせない人の間には、「生きている感覚」に大きな差が生まれてしまっているということです。
 さらに、これから人工知能が爆発的に発展する時代においては、コミュニケーションにおける差が、それこそ人類のニュータイプと旧人類ほどの差となって出てきてしまうでしょう。
 そこで、SNSをひとつのコミュニケーションツールとして、「人工知能を使いこなす好奇心」は、この先どうしても必要になってくるのではないでしょうか。
 たとえば、「人工知能によるSNSサービスはこんな機能を持っていて、自分の人生にこう使えて、そうすると自分の人生がこう変わるんだ」というような好奇心とそれに飛びつく力、そして使いこなす力のある人が、これからの時代は非常に伸びていくはずです。

 『人工知能に負けない脳』 第3章 より 茂木健一郎:著 日本実業出版社:刊

 コミュニケーションの方法は、時代とともに大きく変化していきます。
 時代の変化の波に乗れるか乗れないか、それが鍵となります。

 好奇心とそれに飛びつく力、そして使いこなす力。
 人と社会に対する関心をつねに忘れない、若々しい心を持ち続けたいものです。

人工知能に負けない「直感力」を磨く

 茂木先生は、人工知能時代を生き抜いていくためには、「野生のカン」が研ぎ澄まされないといけないと指摘します。

 ジャングルの中では、野生動物が「この果実は食べられるのか」「こいつは危険な動物か」ということを直感的に見分けています。その直感が間違っていれば、厳しい自然界ではたちまち絶滅してしまうでしょう。
 それと同じように、人工知能時代を前にして、人間が進むべき道や働き方、あるいは重要な決断を行わなければいけない時代に突入したのです。
 しかも、その判断力のスピードがどんどん加速していっているのです。
 それはまさに、人工知能時代を取り巻く私たちの生きる環境が、いわば“ジャングル化”しているとも言えます。
 そういう時代において人間は、野生の草食動物が本能的に備えている危険を察知する嗅覚や、野生のジャガーがしなやかな肉体を躍動させて獲物を狙うときの瞬発力が求められ、そうした直感力が備わっている人が勝ち残っていくと思うのです。
 でも、このような能力というのは、実はそれほど難しいことではありません。むしろ、これは人間の脳がもっとも得意とすることでもあるのです。
 実は人間の脳というのは、たった数秒で物事を判断できるような能力を持っています。
 ベストセラーを連発しているノンフィクションライターのマルコム・グラッドウェルの著書『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』でも述べられているように、人間の判断はたったの2秒、その直感やひらめきによって、人は物事の本質を見抜いていることが多いという数多くの事例や学術的根拠が存在することがわかったのです。
 このようなことから導き出される答えとは、データを蓄積しなくても結論がすぐに出せるというのが人間の強みでもあるということです。
 これが、現時点で人工知能と人間の脳の大きな違いのひとつだとすれば、私たち人間は直感を磨かない手はありません。
 それを裏づける、ある事例をご紹介しましょう。
 将棋のプロ棋士は最初にその局面を見た瞬間、直感的に「これだ!」という結論を出している言います。その後、考慮時間を使ってその妥当性を論理的に裏付けているわけです。
 ところが、人工知能はその逆で、まずすべての手を可能性としてリストアップする。それこそ、何百万という手をすべて読んでから、それらの優劣を比較して最終的に指す手を決定するというわけです。つまり、人間は直感から導き出される結論が先にあり、人工知能はまず裏付けが先にあって最後に結論が出るという違いがあるのです。
 そうなると、人間が今後自分の特性を活かすためには、直感を磨くのが最善の戦略だということがおわかりでしょう。

 『人工知能に負けない脳』 第4章 より 茂木健一郎:著 日本実業出版社:刊

 これまで、知識量や記憶力が、頭の良さの象徴とされてきました。
 それは、まさに人工知能の得意分野と重なりますね。
 どうやっても、人間には勝ち目はありません。

 逆に、これまであまり重視されなかった、理屈で説明できない部分。
 ひらめきや直感が、人間の脳の持つ強みとして生かせる時代になったということです。
 コンピューターにはない、“カンピューター”をフルに働かせ、人工知能時代の荒海に立ち向かいたいですね。

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 人工知能時代の到来は、世の中を大きく変えることになるのは、間違いありません。
 これから、今まで人間がしてきた仕事の多くが、コンピューターやロボットに置き換わることになります。
 私たちにとって、生活が奪われかねない深刻な事態といえます。

 ただ、人工知能時代の到来は、ピンチであると同時にチャンスでもあります。
 人工知能による自動化、ロボット化が進むと、これまで汗水たらして行ってきた厳しい労働から解放されます。
 人間は、より創造力を活かせる仕事に、時間と労力をかけることができます。

 茂木先生がおっしゃるように、「自分にしかできないことは何か」を、真剣に考えなければならない時代が迫っている。
 そのことは、私たちも強く認識しておくべきでしょう。

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One thought on “【書評】『人工知能に負けない脳』(茂木健一郎)

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