本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『心をつなげる』(アンドリュー・ニューバーグ)

 お薦めの本の紹介です。
 アンドリュー・ニューバーグさんとマーク・ロバート・ウォルドマンさんの『心をつなげる 相手と本当の関係を築くために大切な「共感コミュニケーション」12の方法』です。

 アンドリュー・ニューバーグ(Andrew Newberg)さんは、米国フィラデルフィア市トーマス・ジェファーソン大学病院Myrna Brind統合医療センター研究部長です。

 マーク・ロバート・ウォルドマン(Mark Robert Waldman)さんは、米国ロサンゼルス市ロヨラ・メリーマウント大学EMBAプログラム・エグゼクティブ・コミュニケーション講師です。

「共感」と「信頼」を引き出すコミュニケーション法とは?

 人間は、「言葉」という特殊な能力を生まれながらに持ち合わせています。
 しかし、他者との意思の疎通においては、驚くほどコミュニケーションが下手なことが研究によって明らかにされています。

 私たちが会話下手なのは、教育云々ではなく、むしろ、脳が未発達であることが大いに関係している。というのも、社会に対する意識や相手に共感する力、それに関連した言語スキルをつかさどる脳の領域が完全に機能するようになるのは、人間が30歳を迎えるころなのだ。しかしそんな神経学的なハンデにもかかわらず、科学的研究は、こう示している。人間は年齢を問わす、脳の領域をはたらかせることができる、と。
 そこで私はこれまでの研究成果から、初対面の相手とでも単に情報を伝え合うだけでなく、結びつきを深め、会話そのものを楽しむことができる12項目の技法を次のようにまとめた。この12項目を実践することで、聞き手の脳内にある深い共感と信頼を引き出すことかできる。感情を制御する脳内神経回路にダメージをおよぼす、ネガティブな思考パターンを断ち切ることも可能だ。

●共感コミュニケーション(Compassionate Communication)の12項目

  1. リラックスする
  2. 今という瞬間に注意を払う
  3. 自分の内面にある静けさをはぐくむ
  4. ポジティビティ(肯定的な感情と前向きな姿勢)を高める
  5. 自分のいちばん深いところにある価値観と向き合う
  6. 楽しかった思い出にアクセスする
  7. 非言語シグナル(言語以外のサイン)を観察する
  8. 感謝の気持ちを表す
  9. 心から温かい口調で話す
  10. ゆっくり話す
  11. 簡潔に話す
  12. じっくり話す

 本書ではこの12項目を活用しながら、家庭や職場での人間関係が急速に深まる方法を紹介していく。これを実践することで、不安、恐れ、不信感を生む無意識の心の声を断ち切る術が身につくだろう。また私生活ではさらに親密な関係を築くことができるようになり、職場ではクライアントだけでなく従業員や同僚との人間関係がよりスムーズになるだろう。職場での管理能力の向上が売上や収入アップにつながるのは言うまでもない。
 また、話している相手の嘘を見破り、相手がまだ言葉を発していなくても何を考えているのかを自分の直感にしたがって察知できるようになる。沈黙がどれほどコミュニケーションのスキルを高めてくれるのか、その良さを発見するかもしれない。
 子どもたちが実践すれば、対人関係や困難な問題にうまく対処する術が身につき、学業アップの手助けともなる。
 毎日数分間だけでもこの12項目を実践すれば、思考がクリアになって創造力がさらに高まり、より真摯な会話が生まれるだろう。相手と対立する前にそのタネを取り除くことだって可能だ。

 『心をつなげる』 Chapter 1 より アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン:著 川田志津:訳 東洋出版:刊

 本書は、「共感コミュニケーション」を身につける方法を、具体的なエクササイズを中心にまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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人の意識は「個人的体験」である

 コミュニケーションを考えるうえで、重要なのが「意識」です。
 神経学的にいう「意識」とは、人間の脳のほぼ全領域のはたらきが絡み合っているもののことです。
 そのはたらきにより、私たちは社会意識を持って他者とコミュニケーションを図ることができます。

 意識はそれ自体がひとつの世界、つまり十分には把握し得ない外界の現実を抽象的に捉えた心的表象だ。
 色を例に挙げてみよう。色というものは本来実在しない。色の情報を伝える波長は実在するが、その波長は脳が「見ている」ものではない。脳内の視覚中枢が、網膜内の錐体細胞が感じた波長を情報として読み取り、その情報が脳内で色として再構成され、使う言葉によって分類されるのだ。人間の視覚機能は万人に共通しているため、晴れの日には「青い」空を眺めることができる。空は実際には「青」ではないものの、特定の名称や呼び名をつけなければ、脳はその具体的な色を「見る」ことができなくなってしまうだろう。
 また生まれ育つ文化の影響によって、色を表現する言葉が異なるだけでなく、実際に「見て認識する色」さえも変わるのである。
 例えば、パプアニューギニアのベリンモ族は、「緑」と「青」を区別することはできないが、区別する方法を学ぶことは可能だ。つまり、色の見方と分類は、人間の脳に固有の認知処理能力が制御している固定化された言語によって異なるのである。
 文化の違いは発話にも当てはまる。発音やイントネーションを変えるだけで全体の意味が異なってくるからだ。他者と話すときにはそれを肝に銘じておかなければならない。たとえ同じ言葉やフレーズでも、育った文化背景や幼少期の経験によって、人それぞれ反応が異なるのだ。
 例えば「あなたは美しい」という言葉は、ある人には褒め言葉にもなり得るが、ある人にとってはプライバシーを侵害されていることになりかねない。中国では、外見の美しさを褒めることは無作法であると見なされている。
 通常の会話では、他者が自分と同じ視点や論点から言葉を理解し関連づけていると誤った前提を持っているものだ。だからこそ、同じ言葉を使っていたとしても、耳に入るものは人それぞれであることを念頭に置かねばならない。
 言い換えれば、意識――そして情動、思考、信念を伝えるために使う言語――は、極めて特異かつ個人的な体験なのである。この神経学的事実を認識することで、他者が私たちの言葉を完全に理解しているという先入観もなくなり、もっとコミュニケーション上手になることができる。

 『心をつなげる』 Chapter 4 より アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン:著 川田志津:訳 東洋出版:刊

 同じものでも、見る人によって捉え方はまったく異なります。
 頭では理解していても、ついそれを忘れて、相手も自分と同じように見たり、感じたりしていると考えてしまいがちです。

 意識(言語)は、「極めて特異かつ個人的経験」である。
 普段からそれをしっかり意識して、相手と意思の疎通を図りたいですね。

脳は「長話」が苦手

 意識には異なるレベルや状態があります。
 最近の研究により、意識のレベルや状態は、脳内にある特定の神経回路によってそれぞれ制御されていることが明らかになりました。

 著者は、他者とコミュニケーションするうえで最も関係が深い「日常の意識」を、以下のように説明しています。

 日常の意識は、常日頃から当然のように抱く何気ない思考、情動、感覚から成り立っており、現実を捉える視野は限られている。例えるなら、パノラマのように壮大な眺望のごく一部を捉えたスナップ写真のようなものであり、スナップ写真から伝わる情報は刻一刻と変化しながら、私たちの世界観をも変化させている。
 また日常の意識はワーキングメモリ[情報を一時的に保持し、目下の行動や作業を進めるための短期的な記憶]に大きく依存している。私たちはワーキングメモリを用いながら文章を構築し、他者にその意味を伝えているが、本書の冒頭でもふれたように、平均的な人間は短時間かつ一定量の情報にしか集中することができない。つまり、他者と意識的にコミュニケーションを図ろうとする際、ワーキングメモリはそれまで脳に蓄積された膨大な情報の中から3〜4つの「情報のかたまり」を選び出しているのだ。
 ではその「かたまり」とは一体何だろうか。それは脳が「これは関連がある情報だ」と選択した情動や思考を具体的に示すもので、いわゆるパケットだと考えてほしい。人間の短期記憶がその情報のかたまりを保持できるのは、平均20〜30秒に過ぎないのである。そして20〜30秒が経過すると、古いパケットはワーキングメモリから消去され、代わりに次のパケットが新しい情報として蓄積される。いってみれば、大自然の中で木々や岩山、植物、さえずる小鳥たち、そして木漏れ日をいっぺんに眺めているようなものだ。
 私たちが意識的にすべての情報に注意を向けることは不可能なため、脳は木々や岩山、その他の情報を集約した上で「森」だと判断する。そして感覚器官からさまざまな情報を取り込みながら、その場で経験している物事に対して的確な言葉を選択しているのだが、新しい情報のかたまりがワーキングメモリに蓄積されると同時に、その言葉は忘却されるのである。
 他者の話を聴いているときにも、脳内でまったく同じことが起きている。脳は、相手の言葉やそこに込められた意味を一旦すべて取り込み、内容を要約した上で、その瞬間の思考をはじき出す。よって情報がワーキングメモリの限界を超えると、状況に関連性がありそうな言葉を、無意識かつ独断的に選び出しているのだ。
 その何が問題なのかは想像に難くないだろう。多くの人々は、会話の相手にできるだけ詳細な情報を言葉で伝えることが大切だと思い込んでいるが、実際のところ、相手が集中できるのは、たった4つの情報のかたまりで、その許容時間もごくわずかなのだ。
(中略)
 日常の意識の限界を理解すれば、話を簡潔にし、今伝えた内容を相手が理解しているのかを確認しながら、コミュニケーションを円滑に進めることができる。もし伝えたい内容が相手にとって新しかったり複雑であったたりする場合は、言い回しや伝え方を変えながら幾度か試してみるといいだろう。それにより相手の脳内では新しい神経回路の形成が促進される。
 コミュニケーションスキルの向上に役立つ神経科学的事実としてもうひとつ挙げられるのは、話し手がゆっくりと話せば話すほど、聞き手の理解が深まるという点だ。また、ゆっくり話すことでお互いに最低限の言葉を使うだけでも、深い相互理解を築くことが可能で、かつ身体にも脳にもプラスとなる状況が生まれるのだ。その心構えをシンプルにまとめてみよう。
 話をするときは、手短に、ゆっくりと、30秒以内で。

 『心をつなげる』 Chapter 4 より アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン:著 川田志津:訳 東洋出版:刊

 人間の意識が一度に処理できるのは、3〜4つの「情報のかたまり」だけ。
 しかも、その時間は20〜30秒という短い時間です。

 話をするときは、手短に、ゆっくりと、30秒以内で。
 聞き手に配慮した話し方をつねに心がけたいですね。

信頼関係を築くための「アイコンタクト」

「アイコンタクト」は、コミュニケーションを図る上で欠かせないものです。
 しかし、著者はその度合は育った環境や文化的背景によって左右されることもあると指摘します。

「アイ」コンタクトとは言え、意思疎通を図る際に実際に使っているのは、目ではなくその周りの筋肉だ。まぶたや眉の動きに注目すると、情動状態――特に怒り、悲しみ、恐れ、軽蔑――に関する極めて重要な情報がたくさん込められていることに気づくだろう。しかし喜びや満足感は伝わりにくく、完全にリラックスした表情はかえって相手に興味がないという印象を与えることもある。
 ここでちょっとしたエクササイズを試してみよう。鏡の前に立って、まずは数分間深呼吸をしながらリラックスする。そして顔全体にぎゅっと力を入れてしわくちゃな表情を作ったら、今度は力を抜いてみよう。それを数回行ってから、自分の表情からどんな情動が伝わってくるかに注目してみる。
 張り詰めた表情からは、怒り、嫌悪、拒絶といったメッセージが伝わることもあるが、できるだけ眉を上げて口を大きく開いてみれば、使っている顔の筋肉やその緊張・弛緩の度合いにもよるが、不安から驚愕、そして恐れまで、多様な情動を伝える表情が浮かぶのを目の当たりにするはずだ。
 そして再び顔の筋肉を緩め、3〜4分間程度自分の顔をじっと見つめながら、そのときの思考や感情に注意を払ってみよう。気まずさを感じても、湧き上がる感情に目を向けながらエクササイズを続けてほしい。しばらく経つうちにぎこちなさも薄れていくはずだ。
 それでは怒り、悲しみ、恐れの表情を意図的に作れるか試してみよう。過去の記憶を辿りながら試せば、自分の表情がより真実に近い情動状態を反映していることに気づくかもしれない。事実、情動的記憶はその出来事を実際に経験したときと全く同じ筋肉収縮を引き起こすのだ。
 今度はポジティブな感情――幸福感、楽しみ、満足、安らぎ――を表現してみよう。先ほどに比べて簡単と感じるだろうか、それとも難しいと感じるだろうか。ここでもそれぞれの表情を作る際に自分のインナースピーチに耳を傾けてみよう。
 そして最後に、羞恥心、罪悪感、好奇心、退屈、驚きの表情を作ってみよう。人間の表情研究の第一人者であるポール・エクマン博士によれば、潜在的な情動を感じれば感じるほど脳を訓練していることになり、他者と会話をする際にその情動を認識し表現することができるのだ。
 大抵の場合において、私たちは他者に向けている表情を自覚しておらず、また相手の表情にも注意を払い切れていない。それ故に相手の感情を勘違いしてしまうことも多々ある。しかし微表情――言葉を介さずとも1秒足らずで伝わる情動のヒント――に精通している人でさえも、相手の気持ちを確認する上で微表情は単なく手がかりに過ぎず、本格的な会話を通じて確かめる必要があると理解している。また表情に関してもうひとつ知っておきたいのは、白熱した会話では、互いの中でさまざまな感情や思考が生じるため、表情から伝わるメッセージが曖昧になってしまうことだ。
 先ほどの表情エクササイズを家族や友人とぜひ試してほしい。ジェスチャーゲームのように、相手がどんな感情を表現しているのか当ててみよう。このエクササイズを続けることで、普段から絶えず送り合っている非言語メッセージをより意識するようになるだけでなく、会話をする相手の視線にも慣れてくるはずだ。

 『心をつなげる』 Chapter 6 より アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン:著 川田志津:訳 東洋出版:刊

「目は口ほどにものを言う」という言葉もあります。
 アイコンタクトからは、発する言葉以上に、相手の情動状態の情報を得ることができるということです。

 どんな情動状態のときに、どんな表情になるのか。
 まずは、自分自身を実験台に、しっかりと把握しておきたいですね。

いちばん深いところにある「価値観」は?

 著者は、自分にとって最もインパクトのある言葉とは、これまでの人生で培ってきた大切な価値観の象徴ともいえると述べています。
 そのような言葉を見つけるには、どうすればいいのでしょうか。

 自分にとってかけがえのない言葉を見つけるため、まずは紙とペンを手元に用意してみよう。そして本書で紹介してきたエクササイズと同様に、深呼吸やストレッチをしながら今という瞬間に意識を集中させる。十分にリラックスしたと思ったら、自分にこう尋ねてみよう。
「私のいちばん深いところにある価値観は?」
 それから最低でも60秒間目を閉じたまま、インナースピーチに耳を傾けながら、頭に浮かんでくる思考や感情がゆっくりと流れ消えていくのを静かに見守る。目を開けたら、自分が最も大切にしている価値観を表す単語かフレーズを書き留めよう。
 もし何も浮かんでこなかったら、再び目を閉じて、先ほどの質問を復唱しながら2分間、言葉が浮かんでくるのを静かに待つ。その一連の流れを数回繰り返すうちに、自分の価値観を表す言葉やフレーズはひとつに限らないと気づくのではないだろうか。
 次に書き出した言葉のリストから、その瞬間に感じている実際の気持ちを映し出すものに丸をつける。そして目をつむり、たった今選んだ単語やフレーズを、最初は心の中で、次に声に出しながら復唱する。その言葉を口にするとどんな気持ちや感覚になるかを感じ取り、リストに残っている他の言葉との違いを比べてみよう。
 このエクササイズの目的は? と首を傾げている方々もいらっしゃるのではないだろうか。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者らによれば、「個人の価値観を省みることで、神経内分泌機能が正常にはたらき、心理的ストレス反応を緩和することができる」のである。
 つまり、自分の根底にある価値観を考察・確認するだけで、脳の健康状態を保てるのだ。脳が健康であれば、仕事で燃え尽きてしまうこともないだろうし、たとえ失敗をしてもそれに固執し続けることもなくなるだろう。他者から面と向かって不愉快なことを言われても、過剰反応や自己防衛反応を示すことも少なくなる。

 『心をつなげる』 Chapter 7 より アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン:著 川田志津:訳 東洋出版:刊

 人は、それぞれ独自の考え方や価値観を持っています。
 他者を理解し共感するためには、まず、自分の本当の価値観を知らなければなりません。
 しかし、社会の常識や慣習に従って生活していると、それを忘れてしまいがちです。

 迷ったときや行き詰まったときに「本当の自分」に立ち返る。
 その道しるべになるような言葉を、ぜひ見つけておきたいですね。

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「共感する」とは、自分と相手の間から“共通項”を見いだすこと。
 そのためには、自分の心の内側と相手の心の内側、その両方を見通せる「目」が必要です。

「他人は自分の鏡」

 よく言われる言葉ですが、人間関係においては、まさにその通りだといえます。

 他者を知ることで、自分を知る。
 自分を知ることで、他者を知る。

 人間関係の本当の価値は、そんなところにあるのでしょう。
 本書は、コミュニケーションについて「自分」と「他者」の両方からアプローチした、共感力を身につける“教科書”ともいえる一冊です。

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