本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『「思い通りにならない相手」を動かす心理術』(水島広子)

 お薦めの本の紹介です。
 水島広子先生の『仕事もプライベートも 「思い通りにならない相手」を動かす心理術』です。

 水島広子(みずしま・ひろこ)先生は精神科医です。
 5年間、衆議院議員を務められた経験もお持ちです。

人は変えられないけど、動かせる!

 対人関係療法がご専門の水島先生が、治療の中で取り組むことが多いのが、「思った通りのことを相手にしてもらうにはどうしたらよいか」ということ。
 これまでの数え切れない治療経験から、「きちんとした手続きを踏めば、相手を思い通りに動かすことができる」ことを学んだそうです。

 相手が思い通りに動いてくれるようになると、相手との関係性がよくなったり、お互いに相手に対して感謝の気持ちや親しみを持てるようになることも多いとのこと。

 水島先生は「人を動かす」ポイントとして、以下の4点を挙げています。

  1. 対立構造にしない
  2. 相手の恐れを取り除く
  3. 目標を共有する
  4. 敬意と感謝を示す

 これらのポイントを押さえると、信頼関係がより深まり、その後も相手が自分のために動いてくれるようになります。

 本書は、対人関係療法をベースにした、相手を思い通りに動かし、相手との関係も良くなる方法を解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「人が変わりやすい環境」は作ることかできる

 なぜ、人は思い通りに動いてくれないのでしょうか。
 それは、「それぞれの人には、それぞれの事情があるから」です。

 こちらの意図どおりに動かない人にも、その人なりの「変われない理由」があります。
 サボっているように見える人でも、その人にとっては目いっぱいの努力をしている場合もあります。

 誰かを「変える」ことはできません。
 しかし、人は「変わる」ことができます。

 水島先生は、「人を動かす」ためには、「本人が変わりやすい環境を作る」ということが最も効果的だと述べています。

 さて、人が変わりやすい環境とはどんなでしょうか。
 
 一言で言えば、それは、「安全な環境」です。

 自分がありのままでいても脅かされない環境。素の自分を出しても大丈夫な環境です。そんな環境にいれば、人は必ず前向きに進んでいきます。
 過去からの傷がある人は癒やされていきますし、失敗が怖くて何もできなかった人は挑戦を試みるようになるでしょう。
 例えば、先ほどお話した「主体的に動いてくれない部下」の場合、「この部分は自分で考えてやってごらん。あとで一緒に振り返ろう」などと、まずは部分的に安全な環境を提供すれば、その部分だけは主体的に動いてくれるようになるでしょう。
 また、もしも結果が悪くても、「自分で考えて動いたことに価値があるんだから、結果は気にしなくていいんだよ」と言ってあげれば、「主体的に動くこと」に安心感を持てるでしょう。それを積み重ねていけば、言われなくても主体的に動くようになってくると思います。
 また、「暴言をはく上司」のほうは、何を言われても、淡々と、礼儀正しく、できれば「こんなみっともない姿しか見せられないなんて、かわいそうな上司だな」というような若干の同情心を持って接してあげる、つまり、だだっ子に対する大人の対応をしていくと、相手は徐々にトーンダウンしてくるでしょう。
 このような人は、多くの人から眉をひそめられてきたはずです。そんな中で、「もっと攻撃力を強めなければやられてしまう」と緊張してきたのかもしれません。
 ですから、こちらが大人の対応をしていくと、相手にとっては全く新しい体験になると思います。立場的には相手が上司でも、人間的にはこちらのほうが大人として接することです。

 もちろん相手が変化するのには時間がかかるもの。しかし、「安全な環境」を提供していけば、すぐには違いを感じられなくても、状況はよい方向に進んでいくでしょう。

 『「思い通りにならない相手」を動かす心理術』 序章 より 水島広子:著 大和出版:刊

 どんなにムカつく相手でも、こちらがその人と同じ反応を起こしてしまえば、その人と同レベル、同じ次元にいることになります。

 思い通りにならない人ほど、より高い視点から“大人の対応”をし、自ら動けるように環境を整える。
 ぜひ、実践したいですね。

「敵・味方」になるのを避ける

「安全な環境」「ありのままの状態」でいられるときに、人はよい方向に動いてくれます。

 水島先生は、そのような状況を作り出すためには、一番効果的なのは「『対立構造』を作らないように自分が動く」ことだと述べています。
 対立構造には、つねに緊張が伴うため人は動きにくくなります。

 水島先生は、対立構造を作らないための方法を以下のような例を挙げて説明しています。

 例▷サボってばかりで働かない部下をなんとかしたい!

 この場合、気持ちのままに叱りつけると、「働かない部下」vs「働かせたい上司」という「対立構造」が生まれてしまいます。今まで見てきたように、この状態では、上司がなんとかしようとすればするほど、部下は防御態勢をとり、ますます動かなくなります。たとえ動いたとしても、「恐怖によって」動いているだけなので、期待する結果は得られないと思います。

 この場合は「対立構造」ではなく、「仲間意識の構造」に持ち込んでみましょう。

「君には力があるって信じているんだけど、きっとこの職場の何かが働きにくくさせているんだろうね。何をどうしたら、実力を発揮できるのか、教えてくれないかな」などと、そもそも相手を「働かない部下」ととらえず、「環境のせいで実力を発揮できていない部下」という見方をすることによって、「動けなくて困っている部下を助ける」という構造を作ってもいいでしょう。

「対立構造」を作らない、という考え方は、あらゆる場面で有効です。

 『「思い通りにならない相手」を動かす心理術』 1章 より 水島広子:著 大和出版:刊

「対立構造」ではなく、「仲間意識の構造」に持ち込むこと。

「自分の思い通りに動かない人は、すべて敵だ」
 そう考えずに、「動かない人には、動かない人なりの理由がある。その理由は何なのか?」と考える。

 その意識を持つだけで、相手の抵抗は相当減らすことができますね。

 あとは、相手の動きを阻害しているものを探し出せばいいだけです。
 この方法なら、力づくで動かすよりも、少ない労力で効果的に相手に動いてもらえます。

「人を動かす」と「人を利用する」の違い

 水島先生は、「人を動かす」ことと、「人を利用する」ことの違いを、前者には相手への敬意や心のつながりがあるけれども、後者にはそれがありませんと指摘しています。

 そんなこと、相手にバレなければ大丈夫だろうと思われるかもしれませんが、例えば、「このほめ言葉は、相手を利用するために使うのだけど、まあいいか」などと、自分の不誠実さについて見て見ぬふりをすると、多くの場合、相手は動かないか、時の経過と共に、動いてくれる人の数が減ってくると思います。
 不誠実な様子はカンのよい相手に見え見えのときもありますし、そうでなくても、時間が経つにつれて、相手には「なんだか自分はうまいように搾取されている」という気持ちが生じてくるからです。
 人を動かすに当たって、自分に正直でいることはとても大切です。
 相手に誠実でいること以上に、自分に誠実でいることが問われるのです。

 自分に誠実でいることで、「思考」「言葉」「行動」を一致させる。
 この一貫性が相手から「信用できる」「誠実」と感じられるポイントになります。

ですから、自分の中に「相手を利用してやろう」「自分だけが得をしてやろう」などという気持ちを見つけたら、それを直ちに否定したり、見て見ぬふりをしたりするのではなく、ちょっと自分の心の中にとどまってみます。
 相手を搾取するような気持ちを自分が持っているということを正面から認めた上で、相手に対してそのような気持ちを持っている自分は、穏やかで安らかでいられるかを考えてみましょう。いられませんね。そもそも、搾取(さくしゅ)する気持ちを持ったままでは、相手に対して自分の気持ちをそのまま伝えることすらできません。
 そのような気持ちに気づいたら、なぜ自分は相手に対して搾取的な、一方的な思いを持つのか、ちょっと考えてみましょう。
 実は、こうした「自分さえ得をすればよい」という考え方は、被害者意識と関係があります。

 『「思い通りにならない相手」を動かす心理術』 2章 より 水島広子:著 大和出版:刊

 相手を利用しよう、搾取しようという気持ちは、相手に見透かされてしまうものです。
 一度相手に不信感を与えてしまうと、どんなに都合のいい話を持っていっても、「裏に何かあるのでは」と勘ぐられてしまい、簡単に動いてもらえなくなります。

 普段から、『「思考」「言葉」「行動」を一致させる習慣をつける』こと。
 周囲から信頼を得るためには大切なことですね。

自分にできることからやってみる

 相手に動いてもらうためには、まずは、自分から動くことです。
 水島先生は、相手を動かすために「どう動いたら」いいのか、以下のように説明しています。

 例▷なにかと敵対していた同僚を味方に変えたい!

 こんな場合も、ますは「自分には何ができるか」から考えていきましょう。
 敵対している場合、なんらかの「綱引き」が行われているということはお話してきました。ですから、こちらから綱を放してしまう必要があります。
 そうすると、相手もそれ以上「綱引き」を続けられなくなります。
 ですから、まずは自分が相手の味方になってしまいましょう。
 敵対している人に対して、いきなり味方になるのは難しいかもしれませんが、朝、笑顔で挨拶(あいさつ)してみるとか、そんなところから始めてみるのもいいでしょう。
 そんなことはわかっているけれどもできない、という方も多いと思います。人間関係として考えれば、確かに気まずく感じられますよね。でも、こちらが堂々と挨拶することによって、あぶり出されるのは「相手の度量はどの程度か」ということ。
 それを試してやろう、という気持ちで行えば、「自分が気まずい」のではなく、「相手は大きい人間か、小さい人間か」に目が向くと思います。
 もしかしたら、相手は最初、気持ち悪がるかもしれませんし、「何か裏があるのではないか」といぶかしく思うかもしれません。
 でもそれは相手の領域の中の話。こちらはめげずによい態度をとり続けましょう。

 人は、自分を尊重してくれる人を尊重したくなるもの

 こちらが味方になれば、相手が味方に変わってくれるのは、それほど時間がかからないと思います。

 『「思い通りにならない相手」を動かす心理術』 4章 より 水島広子:著 大和出版:刊

 対立関係は、相手と自分、双方が綱を引き合わなければ成立しません。

 勝っても意味のない勝負にはこだわらない。
 自分から綱を放してしまうというのは名案ですね。

 負けを認めるとか、頭を下げるという意味ではありません。
「相手の度量はどの程度か」を試せるくらいの余裕を持ちたいものです。

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 相手をこちらの意図どおりに動かしたい。
 そんなとき、私たちが最もしてしまう過ちは、「相手を変えよう」とすることです。

 しかし、水島先生もおっしゃっているように、人を変えることはできません。

 人を変えようとすることで、問題がスムーズに解決することはない。
 昨今の政治や国際情勢の動きをみれば、一目瞭然ですね。

「北風と太陽」の寓話が暗示するように、力づくでは相手は動いてくれません。
 動いてもらえないのには、その人なりの理由があります。

 行動を阻む原因に焦点を当て、障害を取り除いてあげること。
 既成概念を壊し、対人関係における、あらゆる場面で役に立つ良書です。

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