【書評】『長生きの統計学』(川田浩志)

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 お薦めの本の紹介です。
 川田浩志先生の『長生きの統計学』です。

 川田浩志(かわた・ひろし)先生は、血液内科・アンチエイジング医学がご専門の医師です。

健康情報は、「科学的なエビデンス」が何よりも大切


 世の中には、さまざまな健康情報やノウハウがあふれています。
 しかし、そのすべてが論拠が明確で、信頼できるものとは限りません。

 川田先生は、健康に良いと、メディアで取り上げられたから、知人にすすめられたからといって、安易に飛びつくのは非常に危険だと指摘します。

 肝心なのは科学的なエビデンス、すなわち実験や調査など研究結果から導かれた裏付けです。そして、本書では、すべてハーバード大学やアメリカの国立がん研究所といった信頼できる研究機関によって、確かな学術雑誌に報告された論文をベースにした健康・長寿に関する情報を取り上げています。
 信頼に足りる情報とは数千人から数万人という大規模な人と時間をかけて研究し、統計学的にその効果が立証された情報のことです。巷にあふれているような、数人の被験者がその健康法実践したら、たまたま「健康になった」「ダイエットに成功した」というものとは、明らかに異なるわけです。
 研究者によって実験された結果は研究論文という形にまとめられ、「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」(米国の医学誌)や「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」(英国の医学誌)といった学術雑誌に投稿されます。
 この学術雑誌に掲載されるには、当然ながら厳しい審査に合格しなければいけません。つまり、研究と実験を経てまとめられた研究論文が、学術雑誌に掲載されて、ようやく科学的エビデンスが確立される。健康・長寿情報というのは、こうした研究者たちによる幾重もの努力のうえで、はじめて信頼するに足る情報となるわけです。

『長生きの統計学』 はじめに より 川田浩志:著 文響社:刊

 今後日本人の平均寿命は延びて、2045年頃には100歳に到達するとも言われています。
 健康的で生き生きとした老後を過ごすには、早い段階からの正しい情報に基づいた予防が大切です。

 本書は、「食事」「生活習慣」「運動」「メンタル」の4分野における、エビデンスの確かな健康情報をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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死亡リスクを下げるなら、「コーヒー」は1日何杯?


 コーヒーは、これまで「体に悪そうな飲み物」そんなイメージが強かったです。
 しかし、近年の調査により、それはまったくの濡れ衣であることがわかってきました。

 川田先生は、コーヒーにはさまざまな病気を予防して死亡リスクを明らかに低下させるパワーがあると指摘します。

 米国保健福祉省の研究者は、50〜70歳の米国の男女40万人を対象に、コーヒーとさまざまな病気による死亡リスクとの関係を13年にわたって追跡調査しました。
 その結果として示された事実は、1日4杯以上のコーヒーを飲んでいると、死亡リスクが明らかに低下するということでした。死因別では、心臓病、呼吸器疾患、脳卒中、外傷や事故、糖尿病、感染症など、病気だけでなくケガによる死亡リスクまで有意に低下させるという、驚くべき結果となりました(下図1を参照)。なぜ外傷や事故の死亡率まで低下するのか、はっきりした因果関係はわかりませんが、いずれにしても、コーヒーが、少なくとも人の健康に、何らかのよい影響を及ぼしていることだけは確認されたようです。
 ちなみにこの時に調査されたコーヒーには特定の銘柄はなく、インスタントコーヒーやカフェインレスのコーヒーでもじゅうぶん認められることもわかっています。

 また、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究者らが、1966年から2013年までに報告されたコーヒー摂取と健康の関係に関する調査をまとめ、解析したデータがあります。それによると、コーヒーを飲むことで人々の死亡リスクが下がるのは明らかで、特に1日4杯のコーヒー摂取がもっとも(16%)効果的、ということでした。図らずも米国の調査と同じ結果となっており、その信憑性は高いといえます。

 コーヒーががんの発症リスクを低下させるという研究結果もあります。
 米国で、90万人の男女を対象とした研究においては、コーヒーの摂取により口腔がんや咽頭がんの発症リスクが低下するという結果が出ています。
 日本では、厚生労働省の研究班による、日本人男女9万人を対象とした10年の追跡調査において、肝臓がんの発症リスクをおさえるということも明らかになっています。コーヒーをほとんど飲まない人の肝臓がんの発症率を1としたとき、毎日1〜2杯飲む人の発症率は0.52、3〜4杯飲む人にいたっては0.24と、4分の1以下にまで下がりました。
 効果がある部位がなぜ口の中と肝臓なのかといえば、おそらくはコーヒーの成分と直接コンタクトする口と、コーヒーの成分が吸収されてまず到達する肝臓というように、直接的な影響力の強い部位であるからと考えられます。

 さらに糖尿病に関しても、フィンランド国立衛生研究所の調査では、コーヒーを1日3〜4杯飲む人のⅡ型糖尿病の発症率は、まったく飲まない人に比べて男女ともに3割近く低く、さらに1日10杯以上飲む人では、女性で79%、男性で55%も発症率が低いという結果が示されています。
 その他にも、脳梗塞や認知症、パーキンソン病を予防するという調査もあります。

『長生きの統計学』 第1章 より 川田浩志:著 文響社:刊

図1 コーヒーの摂取は死亡リスクを低下させる 第1章P17
図1.コーヒーの摂取は死亡リスクを低下させる
(『長生きの統計学』 第1章 より抜粋)


 コーヒーを飲むと、病気だけでなく、怪我による死亡リスクも低下する。
 しかも、インスタントコーヒーやカフェインレスコーヒーでも、その効果が認められる。

 これまでの私たちの常識を覆す、驚きの調査結果ですね。

見た目が若いと寿命も長い?


 同じ年齢であっても、若々しく見える人と、老けて見える人がいます。
 実は、容姿は寿命と大きくかかわっていることが、最近の研究から明らかになりました。

 川田先生は、見た目が若い人のほうが、将来もより長生きすることが多いと述べています。
 その理由は、見た目が若いということは病的な老化の進行が遅く、かつ体内のコンディションが良好に保たれている現れであるからです。

 2009年、英国の医学誌「BMJ」に発表された、見た目年齢に関する研究があります。その調査では、70歳以上の一卵性双生児913組の顔写真を用意し、それを41人の第三者に見せて「見た目年齢」を判定してもらいました。
 そしてその後、双子の生存期間を追跡調査していった結果、遺伝子がまったく同じはずなのに、若く判定された人の方が明らかに長生きだったのです。
 見た目が老けているということすなわち、老化が進んでいるということに他なりません。同じ年齢、同じ遺伝子であるなら、老化が早いほうが先に亡くなってしまうのは道理です。
 では、そもそも老化とは、どのように進行するものなのでしょうか。
 抗加齢医学の世界では、老化には「自然な老化」と「病的な老化」の2つがあり、それらが一緒になって人が老けていくと考えます。
 生理的老化というのは、日々の生命の営みにより進行するものであり、それを防ぐことは叶いません。
 しかし病的な老化に関していえば、すべての人に平等に訪れるものではなく、人によってその程度が違います。
 そしてこの病的な老化こそが、見た目の若さを大きく左右する要因になっているといえます。

 病的な老化は、健康に悪い生活習慣を積み重ねるほど進行が早まります。例えば、喫煙は、活性酸素をはじめとした体に悪影響を及ぼす物質を大量に発生させますが、それが習慣化するとダメージが蓄積し、寿命に影響が出るだけでなく、病的な老化のスピードも早め、見た目が明らかに老けてしまいます。

 医師の診療において、まず重要なのは「視診」です。患者さんの様子をじっくり観察することで、その体内で起こっていることを判断します。
 顔にも体内の兆候というのはよく現れ、黄疸があれば貧血や肝機能が低下している疑いがありますし、皮膚の張り具合から水分の過不足が判断できます。体調の悪いときに肌荒れや吹き出ものができたりした経験がある人は多いと思いますが、視診では、皮膚にできた皮疹の状態から、内臓の腫瘍の有無までわかることもあります。
 つまり、見た目というのは体内のコンディションを如実に映し出す鏡であるといえ、体内が健康であるほど見た目は若く保たれ、反対に不健康であるほど見た目にも老けて見えるのです。

『長生きの統計学』 第2章 より 川田浩志:著 文響社:刊

 人は誰でも、歳をとれば老いていくもの。
 ただ、その進行を遅らせることは、可能です。

「見た目」は、体内コンディションを如実に映し出す鏡。
 毎日のチェックを怠らないようにしたいですね。

介護依存のリスクがもっとも低下する生活習慣とは?


 川田先生は、歩く速さに今後の寿命が反映されると指摘します。

 実は、歩行スピードの速い人(高齢者)ほど、介護依存になるリスクが低く、死亡リスクも低いとのこと。

 アメリカの医師会が発行する医師会雑誌「ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション」に発表された研究で、歩行スピードと余命の関係について興味深い分析がなされています。
 65歳以上の3万4000人の男女を対象にした9の調査をまとめて解析した結果、歩行スピードは余命と密接なつながりがあり、各年齢においての歩行スピードと残りの寿命がきれいな比例曲線で表わせることが判明しました。
 例えば、男性では65歳の時点で1.1メートル/秒(1キロメートルを15分ペース)のスピードで歩けるなら、あと約20年は生きられる可能性が高くなります。女性の場合、同様の条件では約27.5年も長生きできる可能性があることが示唆されています。

 なぜこのような予測が立つのかといえば、歩行スピードというのは、将来の介護依存の可能性をもっとも感度よく反映する指標だからです。介護が必要になるほど死亡リスクも高まるため、歩行スピードが寿命とも関連してくることになります。
 65歳以上の日本人男女940人を対象とした調査では、最大歩行スピード、普通歩行スピード、片脚立ち、握力という、筋力を要する4つの測定項目を設け、結果が良かった順に人々を4つのグループに分けました。そして、もっとも優れていたグループ1が向こう6年間に介護依存になるリスクを基準として、他のグループのリスクを算出したところ、いずれの項目も近い将来の介護依存度と関連を示しましたが、とくに歩行スピードの結果の精度が高くなりました(下図2を参照)。
 ちなみに、調査項目の「握力」に関しては、握力が強い人ほど病気や外傷による死亡率が低いという研究があります。世界17カ国の成人約14万人を対象に、平均4年間の追跡調査を行ったところ、握力が強いほど、心筋梗塞や脳卒中、がん、転倒、骨折などによる死亡率が下がることがわかっています。
 こういったいくつかの研究を総合的に判断すると、筋力のある中高年ほど長生きできる可能性が高まるといえます。実際に、米国で行われた3659人の男女(男性55歳以上、女性65歳以上)を対象とした調査において、もっとも筋肉量の多いグループはもっとも少ないグループに比べて死亡リスクが約20%低くなっています。また、欧米の研究では、20〜80歳の男性では筋力があるほど明らかに死亡率が低く、女性は筋トレが骨密度を増やしたり、認知症の予防に効果があったりすることもわかってきています。

『長生きの統計学』 第3章 より 川田浩志:著 文響社:刊

図2 身体能力と介護依存との関係 第3章P183
図2.身体能力と介護依存との関係
(『長生きの統計学』 第3章 より抜粋)


「老いは、足腰の衰えから来る」とよく言われますね。
 速く歩くためには、足腰を中心に全身の筋肉が保たれている必要があります。

 加齢とともにもっとも減る筋肉の部位は、腹筋と、大腿の前側の筋肉です。
 これらの部位を中心に鍛えれば、筋力を効果的に保つことができます。

 将来寝たきりにならないためにも、今のうちから筋トレを習慣化しておきたいですね。

死亡リスクが低い人はどんな性格か?


「正直者が馬鹿を見る」
「憎まれっ子世に憚(はばか)る」

 そんな言葉があるように、実社会では、誠実な人ほど生きづらいケースが、しばしば起こります。

 川田先生は、こと「寿命」に関して語る際には、「正直者が長生きする」「憎まれっ子はあの世に近い」などと、言葉を変える必要があると述べています。

 人生の過ごし方と寿命の関係について、近年明らかになったことがあります。
 世界各国の人々の人格と死亡リスクとの関連について調査された7つの論文を、フィンランドのヘルシンキ大学の研究者らが統合し、その解析結果が発表されました。研究者らは、調査対象者(合計約7万6000人)の質問票に対する答えをもとに、その人格的傾向を①外向性、②神経質、③同調性、④寛容性、⑤実直性、誠実性のカテゴリーに分け、それぞれ5段階で評価したうえで、それらの人格的傾向が死亡リスクと関連性があるかどうかについて調べました。
 そして明らかになったのは、⑤の実直性・誠実性(conscientiousness)のみが、死亡リスクと有意に関連性が認められるということです。

 より具体的に言えば、セルフコントロール力があって、計画的に物事を進め、何事にも手を抜かずまじめに取り組むなど、人格的に実直性・誠実性が強いと判断された人々は、それが希薄と判断された人々よりも、死亡リスクが30%以上も低くなりました(下図3を参照)。

 つまり、個人の人格的傾向の中でも「実直性・誠実性」が、とくに生活習慣によく反映され、ひいては寿命にも影響を与えるということがいえるのです。

 目先の楽しみばかりを追って快楽的に時を過ごすよりも、人生に目標を持ち、実直に健康管理を続けていくほうが、より長く人生を楽しむことができるようです。
 人をだましたり、貶めたりして高笑いしていられるのは、きっと人生のほんの一瞬にすぎません。最後には、実直で誠実な人生を歩んできた人が残るというのは、極めて納得のいく人生の在り方であるという気がします。

『長生きの統計学』 第4章 より 川田浩志:著 文響社:刊

図3 実直で誠実に生きている人ほど死亡リスクが低い 第4章P210
図3.実直で誠実に生きている人ほど死亡リスクが低い
(『長生きの統計学』 第4章 より抜粋)


 やはり人間、「正直で誠実が一番」ということですね。
 他人に対して正直な人は、自分に対しても正直です。

 自分の体が発するサインに耳を傾け、不摂生や無理をしない。
 体に良い生活習慣を、毎日欠かさずに続ける。

 それがいつまでも健康で若々しく過ごす秘訣です。

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 人は、権威には弱いものです。

「有名な◯◯先生が言っていたから」
「評判の△△さんの番組で紹介されていたから」

 多くの人が、そんな理由だけで、簡単に信じてしまいます。
 明確な科学的根拠(エビデンス)がないにもかかわらず、ですね。

 その点、本書の内容は、必ず拠り所となる統計データを具体的に示してくれています。
 つまり、“裏が取れた”事実ばかりだということです。

 医学の進歩は、日進月歩です。
 昨日の常識は、今日の非常識。
 そんなことは、日常茶飯事です。

 体に良いと思ってやっていたことが、実は逆に体を傷めていた。
 そんな悔しい思いをしないよう、最新の情報へのアップデートをつねに心掛けたいですね。


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