【書評】『脳がスッキリする技術』(西多昌規)
お薦めの本の紹介です。
西多昌規先生の『脳がスッキリする技術』です。
西多昌規(にしだ・まさき)先生は、精神神経学や睡眠療法などがご専門の精神科医です。 臨床医として診療を行うかたわら、企業産業医としても活躍されています。
厳しい時代を生き抜くための「ヒント」
日本は、「失われた20年」の間に、政治、経済は退潮の一途をたどっています。
少子高齢化が驚くべきスピードで進行し、若者の就職難は「冬の時代」が続いたまま。
西多先生は、国民の抱える精神的な問題はさらに深刻
だと警鐘を鳴らします。
日々の生活の厳しいストレスを抱え、やり場のない怒りが充満している今の世の中。
その中を生き抜く状況が、今後、ますます厳しさを増していくと想定されます。
本書は、大学病院に勤める精神科医の立場から、希望の持てない現代社会で生き抜くためのヒントをまとめた一冊です。
どれも読むとちょっと「スッキリ」するような、実用的な考え方ばかりです。
その中からいくつかご紹介します。
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「恐怖」は生存に不可欠
誰でも持っている、恐怖や不安といったネガティブな感情。
それらも、「スッキリしない」原因の一つとなります。
恐怖や不安は、人間だけでなく、動物にも共通して見られる感情です。
この、人間や動物に共通して見られる感情を、「一次的感情」と呼びます。
一時的感情には、恐怖や怒り、驚き、喜びなどが含まれます。
人間にも、動物にも共通している理由は、生存に必要不可欠な感情だからです。
今日の文明社会では、恐怖を感じやすい「怖がり屋」は、勇気がないと否定的に見られがちです。しかし本来は、「怖がり屋」は、厳しい社会を生き抜くための高度な能力を身につけているとも言えるのです。
「部長が怖いから」「苦手な仕事だから」という理由で、気持ちがスッキリしないというのもわかります。しかし、恐怖、嫌悪感は、動物でも欠かせない自己防衛のための感情なのです。恐怖心がないとなると、怖いもの知らずと言えば聞こえはいいですが、ドン・キホーテのような敗北必至の無謀なチャレンジのあげくに、取り返しのつかないダメージを被ることにもなりかねません。
なにかにおびえて、怖がって「スッキリしない」のならば、それは無理に「スッキリさせる」必要はありません。自分自身を守る、心の動きなのですから、シマウマはライオンの気配を察知して、機敏にかつ巧妙にジャングルの世界を生き延びています。ライオンがいなければシマウマももっとスッキリしているのでしょうが、自然界ではそういうわけにもいきません。人間社会も、似たようなものです。
「恐怖」に少しだけ打ち克って、前に進んでみる。少しだけでも、いいのです。これだけでも、多少の「スッキリ」感が出てきます。『脳がスッキリする技術』 第1章 より 西多昌規:著 宝島社:刊
厳しい世の中を「生き延びる」。
そういう観点で考えれば、恐怖や不安に敏感なことは、自分の身を守るための「高度なレーダー」を備えていることです。
ライオンとシマウマでは、ライオンの方が強いです。
しかし、どちらが「生き残る」可能性が高いかは、別の話です。
自分の持っている武器を有効に活用したいですね。
捨てることは、脳から削除すること
近年、「断捨離」という言葉が流行しています。
ものを捨てて片付ける。
それだけで「スッキリ」した感じになります。
とはいっても、「物への愛着、こだわり」もあり、なかなか簡単には捨てられないものです。
西多先生は、最初は躊躇してなかなか捨てられない物でも、思い切って数個ゴミ袋に放り込むと、その先は躊躇しなくなり、物を捨てる判断が早くなっていく
と述べています。
「物への愛着、こだわり」よりも、「ポンポン捨てる快楽」のほうが、勝ってくるからです。
「捨てる快楽」には、過去に踏ん切りをつけられると同時に、スッキリ片付く未来への期待が込められています。あとで「あの服、捨てなければよかったな」と思うことがあっても、深刻な打撃はないはずです。すでに自分の脳からは、いったんはないものとして消えたのですから。
書類や衣類だけではありません。職場を異動するとき、あるいは会社をやめるときなど、ある意味「仕事関係の縁をいったん捨てる」ときにも、一時的に気分は高揚します。「もうこんな部署ともおさらばだ」という爽快感もあれば、「いい職場だったので、名残惜しい」という未練もあるでしょう。この場合も、いったん「リセット」されることで、気持ちは「スッキリ」するのです。
「捨てる」は、物でも人間関係でもそうですが、「リセット」することと考えましょう。自分の所有から離れていくというネガティブな捉え方ではなく、物も他人も、そして自分も「リセット」して、「スッキリ」した気持ちで前に進んでいけると考えれば、「捨てる」ことにもポジティブな意味を見いだすことができます。『脳がスッキリする技術』 第4章 より 西多昌規:著 宝島社:刊
「絶対に捨てられないもの」は別として、捨てるか残すか、判断に迷うもの。
それらは、捨てて後で問題になることは、まずありません。
必要性を感じないものは、なるべく持たずに身軽でいること。
それが、「スッキリ」した気持ちになるには大切なことです。
もちろん、人間関係も一緒ですね。
節目、節目で要らないものを捨てて「リセット」する。
そんな意識を持っておきたいです。
誰でも「憂うつ」になる
「憂うつ」や「落ち込み」は、誰にでもある一般的な気分の動きです。
ただ、「憂うつ」が続き、「落ち込んだまま」になると、「楽しい」という感情がなくなります。
いずれ、気分転換が効かなくなり、「うつ病」にまで発展します。
現代の科学では原因がはっきりしていないが、気分が「なんとなく憂うつ」という現象も、実際にはよく見られることです。「憂うつ」「落ち込み」には、仕事でミスをしたなど理由がはっきりしているものもあれば、「なんとなく」という原因不明なものもあるのです。
「憂うつ」とうまくつき合い、「落ち込み」から立ち直る回復力は、人間ならば誰しも持ち合わせているものです。苦境や困難を自らはね返す「レジリアンス」という概念が流行(はや)りましたが、うつ病の人を含めて、人間には「レジリアンス」という性質があるのです。お気に入りの気分転換も、レジリアンスの表れと言っても間違いではないでしょう。
「憂うつ」は、非難されるべき気分の動きではなく、むしろ人生を真摯に生きている証とも言えるのです。憂うつに向き合えない人は、他人への共感性も乏しいでしょうし、自分に対しての厳しさも緩くなってしまうでしょう。
「憂うつ」とつき合うこと、向き合うこと。矛盾するようですが、これから厳しい時代を生きていく上で、欠かせない心構えのような気がしてなりません。『脳がスッキリする技術』 第5章 より 西多昌規:著 宝島社:刊
はっきりした原因もなく「憂うつ」な気分になることは、人間誰しもあることです。
大事なのは、「憂うつ」な気持ちとしっかり向き合うこと。
お酒やギャンブルなどで「憂うつ」から逃げて気分をごまかす。
その場では、「憂うつ」な気分を忘れることはできるかもしれません。
しかし、それは結局、自分の中に溜め込んでいるだけです。
「現実検討能力」を身につける
目標を高めに設定する「高望み」も、「スッキリ」しない原因となります。
とても実現できそうもない希望や目標は、自信喪失につながるからです。
西多先生は、自信を失うことで、うつや不安を抱えやすくなる
と指摘します。
そこで重要になるのが、現実をわきまえる能力、「現実検討能力」です。
西多先生は、現実をわきまえる能力は、日々の「思考」の作業によって培われる
と述べています。
「等身大」「身のほどを知る」にあたって具体的な行動は、やはり自分が期待するレベルを少しだけ下げることでしょう。自分、あるいは相手に対する期待値を少しだけ下げて、「しようがない」「なんとかなるさ」といったいい加減さを持つと、気持ちが楽になります。
「ダメもと」という言葉があります。成功する期待を一見捨てているこの言葉の中に、等身大のヒントが隠れています。成功することを100%あきらめているのならば、「ダメもと」でもチャレンジする人はいないでしょう。可能性が少ないながらもあるからこそ、人は「ダメもと」で気持ちに弾みをつけて、チャレンジしていくのだと思います。
遠すぎるゴールに苦しんでいるとき、「高望みかな」と思ったときは、目標を少し下げて実現可能な期待を持ってから、「ダメもと」で突破してみてはいかがでしょうか。「ダメもと」は、前向きなスッキリ感をわたしたちに与えてくれるマジックワードです。『脳がスッキリする技術』 第8章 より 西多昌規:著 宝島社:刊
目標は、高過ぎても低過ぎても、逆効果となります。
目標を、達成できるかできないかギリギリのところに設定する。
それも「現実検討能力」に含まれます。
適切な目標を設定したうえで、最後は「ダメもと」で行動してみる。
そんな思い切りのよさも必要ですね。
成功するしないよりも、前向きにチャレンジすること自体に意味がある。
少なくとも気持ちも「スッキリ」しますから、とにかく行動あるのみです。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「社会脳」という言葉があるくらい、脳と社会との関連には強いものがあります。
西多先生は、社会の停滞・閉塞感は、人間の精神、つまり脳に対するストレスに直結する
とおっしゃっています。
このストレスとうまくつき合い、はね返すこと。
それが、閉塞状況を打ち破り、先の見えない不安な時代を生き抜く力となります。
社会情勢に関わらず、小さな「スッキリ」を積み重ねる。
したたかに、心穏やかに人生を過ごしていきたいですね。
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