本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『ワークシフト』(リンダ・グラットン)

 お薦めの本の紹介です。
 リンダ・グラットンさんの『ワークシフト』です。

 リンダ・グラットンさんは、経営組織論の世界的権威です。
 英タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」の一人にも選ばれています。

これからの「働き方」について

 現代は、「激動の時代」です。
 それも、人々の価値観が大きく変わる、時代と時代の変わり目のまっただ中に生きています。

 グラットンさんは、その変化は、これからますます大きくなり、18世紀後半から19世紀前半にかけて英国から始まった産業革命に匹敵するようなものになると指摘します。

 産業革命の前と後で世界は大きく様変わりしたが、私の息子たちの世代が経験する変化もそれに匹敵するくらい劇的なものになる。産業革命の原動力が石炭と蒸気機関という新しいエネルギーだったのに対し、これから起きようとしてる変化を突き動かすのは、五つの要因の複雑な相乗効果だ。五つの要因とは、テクノロジーの進化、グローバル化の進展、人口構成の変化と長寿化、社会の変化、そしてエネルギー・環境問題の深刻化である。これらの要因が組み合わさり、働き方の常識の数々が根底から覆る。
 大きく様変わりするのは、仕事の環境や内容だけではない。仕事に対する私たちの意識も変わる。産業革命は、大量消費市場をつくり出し、消費や富の獲得に対する強い欲求を生み出した。では、テクノロジーの進化とグローバル化の進展は、私たちの仕事に対する意識をどう変えるのか。
 おそらく、これから社会に出る世代の働き方は、これまでと似ても似つかないものに変わるだろう。すでに仕事に就いている世代も、いままで想像もしなかったような形態で働くようになる。再生可能エネルギーやインターネットの発展、働き方に対する意識の変化を土台に、まったく新しい産業が誕生する可能性もある。

 『ワークシフト』 序章 より リンダ・グラットン:著 池村千秋:訳 プレジデント社:刊

 今から10年ちょっと未来の、2025年。
 そのとき、人々の仕事や幸せに対する意識や価値観は、どのように変わっているのか。

 グラットンさんが、そんな難題に挑んだ答えが、本書です。

 30年以上に渡り、世界中から収集し解析した、膨大なデータ。
 それらを繋ぎ合わせて、今後10年で世界中で起こるであろう変化を整合性のとれた形で表現しています。

 その様子は、まさに、パッチワークキルトの職人が色々な模様のキルト生地を丁寧にいくつも縫い合わせて、一つの大きな模様を描き出していく見事さです。

 本書は、上で挙げた「五つの要因」が複雑に絡まって引き起こす32の現象を描いて、10年後の世界を想定した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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時間に追われない未来をつくる 

 グラットンさんの想定によると、テクノロジーの進化が、昼も夜もない地球規模の大きなマーケットを作り上げます。

 先進国と途上国という枠組みが取り払われ、国籍や人種などによらない個人の能力をベースとした格差社会が、今以上に進行します。

「漠然と迎える未来」には、孤独と貧困な人生が待ち受けます。
「主体的に築く未来」には、自由と創造的な人生が待ち受けます。

 主体的に築く未来を迎えるためには、仕事に対する意識を変えることが必要です。

 グラットンさんは、具体的に、以下の『三つの<シフト>』を成し遂げることが効果的だと指摘します。

<第一のシフト>で目指すのは、専門技能の習熟に土台を置くキャリアを意識的に築くこと。一つのものごとに集中して本腰を入れることが出発点となる。章の前半で述べたように、高度な専門技術技能は10000時間を費やしてはじめて身につくという説もある。専門的な技能に磨きをかけたいと思えば、慌ただしい時間の流れに身を任せようという誘惑を断ち切り、10000時間とは言わないまでも、ある程度まとまった時間を観察と訓練のために確保する意思をもたなくてはならない。
<第二のシフト>は、せわしなく時間に追われる生活を脱却して必ずしも孤独を味わうわけではないと理解することから始まる。目指すべきは、自分を中心に据えつつも、他の人たちとの強い関わりを保った働き方を見いだすこと。私たちがあまりに多忙な日々を送らざるをえないのは多くの場合、あらゆることを自分でやろうとしすぎるのが原因だ。強力なネットワークを築けば、時間に追われることの弊害を和らげる効果もある。あなたのことを大切に思い、愛情をいだいてくれる人たちと関わり合って、いわば強力な「自己再生のコミュニティ」をはぐくめれば、慌ただしく仕事に追われずに過ごす時間を確保する後押しが得られるからだ。
 しかし、時間に追われる日々を避けるうえで最も有効なのは<第三のシフト>だろう。消費をひたすら追求する人生を脱却し、情熱的ななにかを生み出す人生に転換することである。ここで問われるのは、どういう職業生活を選ぶのか、そして、思い切った選択をおこない、選択の結果を受け入れ、自由な意志に基づいて行動する覚悟ができているのかという点だ。

 『ワークシフト』 第2章 より リンダ・グラットン:著 池村千秋:訳 プレジデント社:刊

 専門技能の修得に力を入れつつ、周りの人とネットワークを築くこと。

 そのために必要な意識の変化は、「お金のために働く」という考え方を変えること。
 自分のやる気、モティベーションを重視した働き方を目指すことです。

「世代交替」の影響について

 2025年に、社会で主力として活躍して大きな影響力を持っているであろう世代。
 それが、「Y世代」です。

 Y世代は、1980~1995年前後に生まれた人たち、現在10代後半から30代前半の世代です。

 Y世代は、2025年に30~45歳くらいになっていて、キャリアの重要な段階に差しかかっている。この世代は、パソコン(初期のものは馬鹿でかいデスクトップ機だった)、インターネット、ソーシャルメディア、さまざまなデジタル技術とともに子ども時代を送った最初の世代だ。多くの人は、テクノロジーの急速な進歩の成果を生活にこまめに取り入れ、自分の使っている機器やテクノロジーに精通している(それを愛していると言ってもいいかもしれない)。コミュニケーションの手段として、電子メールや携帯メール、フェイスブックやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が活発に利用されるようになり、人付き合いの仕方も変わった。この世代にとっては、オンライン上で友達と会話したり、多人数参加型のオンラインゲームを見知らぬ人とプレーしたりすることが当たり前だ。

 『ワークシフト』 第1章 より リンダ・グラットン:著 池村千秋:訳 プレジデント社:刊

 小さなときからインターネットや携帯電話などのデジタル機器になじんで軽々と使いこなす。
「デジタル・ネイティブ」と呼ばれているのも、この世代です。 

「Y世代」が未来を生み出す要因

 Y世代が生み出す、近い将来に主流となる働き方は、どのようなものでしょうか。

 Y世代は、それ以前のどの世代よりも長い思春期を経験した世代だ。
(中略)
 Y世代のもう一つの特徴は、以前の世代より経済のグローバル化を明確に理解していることだ。自分たちが履くスニーカーをつくっているのがインドで児童労働をさせられている子どもたちだと知っている。自分の親が失業したのは、アメリカの五分の一の賃金で労働者を働かせている中国の工場と競争する羽目になったせいだということも知っている。
 ライフスタイルのコスモポリタン化もY世代の特徴だ。今日はスシを食べたかと思えば、明日はメキシコ料理のタコスを食べ、今年はイタリアのフィレンツェに旅行したかと思えば、来年はカンボジアに足を運ぶ。アマゾン川流域やオーストラリアの奥地にもフェイスブックの「友達」がいる。ひとことで言えば、Y世代は、歴史上はじめて世界中の人々が本当の意味で一つに結びついた世代だ。世界にはいろいろな人たちがいることを知っていて、ほかの人たちの考え方を受け入れられる。要するに、他者への深い共感を持っているのだ。
 Y世代は、オンライン上のバーチャルなコミュニティを舞台に活動する世代でもある。テクノロジーを活用することに長けていて、電子メールやテキストメッセージでほかの人とやり取りすることを好み、情報拡散や学習の手段としてウェビナー(ウェブ上でおこなうオンラインセミナー)を利用するなど、オンラインテクノロジーを難なく使いこなす。Y世代の行動を理解するために私たちが実施した調査によれば、この世代が仕事でとりわけ重きを置く要素は、学習と成長の機会を選ぶ傾向が強い。仕事でなにが不満なのかと尋ねると、飛び抜けて多かった回答は、ベビーブーム世代の上司が過剰に管理したがる一方で、十分なコーチングをしてくれないことが不満だというものだった。
 2020年代に入って管理職に就くY世代の多くが大切にするのは、ワークライフバランスだ。この世代は、家庭で親としての役割を果たすことを重んじ、子どもと一緒に多くの時間を過ごすことを好む。育児で積極的な役割を担いたいと考える男性も増える。また、Y世代はチームの一員としてほかの人たちと協力し合うことが当たり前の環境で育ち、チームプレーヤーとして振る舞うことを非常に重んじる。競争意識の高いベビーブーム世代と異なり、協力志向が強いのである。

 『ワークシフト』 第6章 より リンダ・グラットン:著 池村千秋:訳 プレジデント社:刊

 仕事だけでなく家族やプライベートも大事にする。
 そして、チームの中で自分の個性を最大限に生かす。

 そのようなことを望むのが、Y世代の特徴です。

 彼らが大人になり、社会での影響力が増していく。
 それにつれて、組織とのつながりもより緩く、強制的でないものに変化していくでしょう。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 働いて給料を受け取り、そのお金で使って消費し、幸せを感じる。
 そのようなちょっと前までの「古い約束事」は、日本においても通用しなくなりつつあります。

 会社に忠誠を誓って一生懸命に働けば、定年までの安定した生活が保証される。
 そんなことは、すでに過去の話です。

「光陰矢の如し」

 10年など、あっという間に過ぎてしまうでしょう。

「あの時からしっかり準備しておけばよかった・・・・」

 10年後にそんな後悔しないためにも、自分なりの働き方を考えて、意識を変えたいですね。

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