【書評】『坂の上の坂』(藤原和博)

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 お薦めの本の紹介です。
 藤原和博さんの『坂の上の坂』です。

 藤原和博(ふじわら・かずひろ)さんは、教育改革実践家です。
 大手出版社でご活躍されたあと、2003年より都内の義務教育では初の民間校長を務められた経験をお持ちです。

「坂の上の坂」世代の生きる道は?


 本書のタイトルになっている「坂の上の坂」。

 これは、司馬遼太郎先生の代表作で、明治維新から日露戦争までの近代日本の黎明期を描いた小説「坂の上の雲」になぞって付けられました。
 
 藤原さんは、今の世の中は「坂の上の雲」の時代のように、上だけを見てただ懸命に走り続ければいい時代ではなくなった。それでもあの時代に惹かれてしまうのは、明治・大正・昭和を生きた、上の世代の人たちの人生観を引きずって生きているからだと指摘します。
 
 もちろん、時代背景の違いはあります。
 しかし、それよりも大きいが、「平均寿命の伸び」によって「老後」の意味合いが全く違ったものになっていることです。

 老後という言葉は、今の日本ではあまりに簡単に使われる言葉です。しかし、私たちの世代の老後というのは、前の世代の人々が口にしていた「老後」とは、かなりニュアンスが違っていることに気づいておく必要があります。
 異なる言い方をすれば、前の世代の人たちと同じ感覚で、やがて始まる長い長い「老後」を生きるのは、極めて難しいのではないか、ということです。『坂の上の雲』時代とは違って、雲を見つめたまま途中で人生は終わってくれないからです。
(中略)
 とすると、坂の上にあるのは、『坂の上の雲』の時代のような、ぼんやりとした 「雲」では、もはやないのではないか。私はそんなことを思うようになりました。
 待ち構えているのは、実は「雲」ではなく、次の新たなる「坂」なのではないか、と。「老後」が20年、30年とある。それは、これまで一生懸命に仕事をしてきた時間とほとんど同じだけあるということです。

  「坂の上の坂」  はじめに より   藤原和博:著   ポプラ社:刊

 藤原さんが、「坂の上の坂」世代と定義するのは、40代から50代の、団塊より少し下の世代です。

 さらに、藤原さんは、以下のように続けています。 

 実際のところ、「坂の上の坂」世代では、人生は大きく二分されていくに違いない、と想像しています。これからやってくる「坂」の存在にいち早く気づいて準備を始め、50代から「上り坂」を歩む人と、残念ながら、ひたすら「下り坂」を歩む人です。
 もっと言ってしえば、ますます「上り調子になる人」と、前の世代そのままの人生観に支配され、惰性のまま生き続けて「落ち目」を迎え、寂しく死んでいく人です。

  「坂の上の坂」  はじめに より   藤原和博:著   ポプラ社:刊

 厳しい指摘ですが、事実でしょう。

 本書は、「坂の上」に存在するであろう、新たな「坂」を力強く上り続けるために必要なことをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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“いい子”だったことを、認識する


 藤原さんは、「坂の上の坂」世代の日本人には、子供の頃からの「3つの呪文」に縛られたサイボーグが数多くいると述べています。 

 その「3つの呪文」とは、

  • 早くしなさい
  • ちゃんとしなさい
  • いい子に
 です。
 
 両親からだけではなく、社会全体が、そういうプレッシャーを掛けています。

 大量生産されたのが、深く考えることなどせず、無意識に、とにかく物事を早く処理できる人間です。
 そういう人たちが社会を動かしてきた結果が、今の日本です。

 “いい子”世代、つまり「坂の上の坂」世代は、もしかして今も“いい子”であり続けようと日々努力しているのではないでしょうか。
 そこに何の意味があるのかを、問うてみてほしいのです。自分は心の底から、世の中から求められるカタチを整えることに、無難に過ごすことに、本当に納得しているのか、と。

  「坂の上の坂」  第三章 より   藤原和博:著   ポプラ社:刊

 今の世の中では、“いい子”であることに、たいした意味はありません。
 ガマンして、“いい子”にしてても、誰も助けてはくれません。

 “いい子病”は、日本の国民病です。
 だから、自覚症状すら持てない方が多い。

 ほんと、どうにかならないものかなぁ、と思います。

会社以外のコミュニティを早めに探しておく


「会社以外のコミュニティを早めに探しておく」

 これも、とても大事なことです。

 仕事だけに打ち込んできた、いわゆる「仕事人間」。
 そう言われる人ほど、会社を定年退職した後にやることがなくなり、付き合う人もいなくなります。

 ただ、家の中で悶々とした日々を送る。
 そうなる危険性は大きいですね。

 つまり、会社で、あるいは仕事でしか人間関係を築いてこれなかった人は、会社を離れた瞬間にその大部分を失う可能性がある、ということ。その覚悟をしっかり持っていないと、「坂の上の坂」が、とんでもなく寂しいものになりかねません。

  「坂の上の坂」  第四章 より   藤原和博:著   ポプラ社:刊

 最近は、ミクシィやフェイスブックなどのSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)なども盛んです。
 それらを利用して、まずは会社以外のコミュニティに、勇気を持って飛び込んでみるのもいいですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 藤原さんは、今の日本を作り上げてしまったのは、自分達の世代の責任も大きいと指摘されています。 

 福島原発がまき散らした放射能と、復興のために大量発行される国債は負の遺産。孫世代への借りは実に大きなものになっています。
 借りたら返さなければならない。
 私は、新しい時代に立ち向かえる「教育」でお返しするしかないと考えています。

 脱「正解主義」の教育です。
 私たち「坂の上の坂」世代の後半の生き様に「正解」はありません。モデルもない。先輩の生き様は参考にならないのです。だから、新しいモデルとなるには、孤独も、恐怖感もつきまとうでしょう。
 でも、その恐怖さえも、楽しんでしまおうではありませんか。

  「坂の上の坂」  おわりに より   藤原和博:著   ポプラ社:刊

 これから日本は、「超高齢化社会」を迎えます。

「60才で定年、後は現役の人にお任せします」

 と言ってはいられない時代になりました。

 年に関係なく、社会を支えていかなければならない。
 そんな時代です。

 準備は、早いに越したことはありません。
 皆さんも本書を読み、「老後」に対する認識を変えてみてはいかがでしょうか。

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