【書評】『生き方』(稲盛和夫)

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 お薦めの本の紹介です。
 稲盛和夫さんの『生き方』です。

 稲盛和夫(いなもり・かずお)さんは、日本を代表する経営者です。
 京セラや第二電電(現・KDDI)を設立され、日本を代表する大企業に育て上げられました。
 最近では、経営破綻した日本航空(JAL)を見事に復活させました。

「不安な時代」を生きるために必要なこと


 私たちは今、先行きの見えない「不安な時代」を生きています。
 日本という社会が、閉塞的な状況で覆い尽くしている根本の理由。
 それは、多くの人が生きる意味や価値を見いだせず、人生の指針を見失ってしまっていることです。
 稲盛さんは、そういう時代にもっとも必要なのは、「人間は何のために生きるのか」という根本的な問いかけだと指摘します。

 まず、そのことに真正面から向かい合い、生きる指針としての「哲学」を確立することが必要なのです。哲学とは、理念あるいは思想などといいかえてもよいでしょう。
 それは砂漠に水をまくようなむなしい行為であり、早瀬に杭を打つのに似たむずかしい行為なのかもしれません。しかし、懸命に汗をかくことをどこかさげすむような風潮のある時代だからこそ、単純でまっすぐな問いかけが重い意味をもつのだと私は信じています。
 そのような根幹から生き方を考えていく試みがなされないかぎり、いよいよ混迷は深まり、未来はますます混沌として、社会には混乱が広がっていく——そうした切実な危機感と焦燥感にとらわれているのも、やはり私だけではないはずです。
 私は本書の中で、人間の「生き方」というものを真正面からとらえ、根幹から見据えて思うところを忌憚なく説いてみたいと思っています。生きる意味と人生のあり方を根本から問い直してみたい。そうしてそれを時代の急流に打ち込む、ささやかな一本の杭としたいと考えています。

 『生き方』 プロローグ より  稲盛和夫:著  サンマーク出版:刊 

 太平洋戦争を経験し、「昭和」という激動の時代も乗り越えた。
 そんな稲盛さんから見ても、その行く末に大きな危機感を抱くのが、今の日本の現状です。

 本書は、稲盛さんがその長い経営者人生から築き上げた「哲学」を余すところなく詰め込んだ一冊です。
 今の日本の繁栄の基礎を作り上げた先人への尊敬の念。
 先人から受け継いだ「生きること」を愚直なまでに真正面から捉える姿勢。
 それらがひしひしと伝わる文章となっています。

 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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強烈に思い続けることが大切


 稲盛さんは、自身の経験から、心が呼ばないものが自分に近づいてくるはずがないことを、信念として強く抱いています。
 何か事をなそうと思ったら、まずこうありたい、こうあるべきだと思うことだと述べています。

 ただし願望を成就につなげるためには、並みに思ったのではダメです。「すさまじく思う」ことが大切。漠然と「そうできればいいな」と思う生半可なレベルではなく、強烈な願望として、寝ても覚めても四六時中そのことを思いつづけ、考え抜く。頭のてっぺんからつま先まで全身をその思いでいっぱいにして、切れば血の代わりに「思い」が流れる。それほどまでひたむきに、強く一筋に思うこと。そのことが、物事を成就させる原動力となるのです。
 同じような能力をもち、同じ程度の努力をして、一方は成功するが、一方は失敗に終わる。この違いはどこからくるのか。人はその原因をすぐに運やツキを持ち出したがりますが、要するに願望の大きさ、高さ、深さ、熱さの差からきているのです。

 『生き方』 第1章 より  稲盛和夫:著  サンマーク出版:刊

 少し手厳しいですが、実際に多くの事業で成功を収めてきた稲盛さんの言葉です。
 重みがありますし、説得力が違います。
 日本は豊かになったぶん、いつの間にか、そういう必死さや熱心さをなくなってしまったのでしょう。

「好き」であればこそ「燃える」人間になれる


 稲盛さんは、物事をなすには自ら燃えることができる「自燃性」の人間でなくてはならないと述べています。

 物事をなすのは、自ら燃え上がり、さらに、そのエネルギーを周囲にも分け与えられる人間なのです。けっして、他人からいわれて仕事する、命令を待って初めて動き出すという人ではありません。いわれる前に自分から率先してやりはじめ、周囲の人間の模範となる。そういう能動性や積極性に富んでいる人なのです。
 では、どうしたら自燃性の人間になれるのでしょうか。自ら燃える体質を獲得するにはどうしたらいいか。その最大にして最良の方法は、「仕事を好きになる」ことです。私はそのことを次のように説いています。
「仕事をやり遂げるためにはたいへんなエネルギーが必要です。そしてそのエネルギーは、自分自身を励まし、燃え上がらせることで起こってくるのです。自分が燃える一番よい方法は、仕事を好きになることです。どんな仕事であっても、それに全力で打ち込んでやり遂げれば、大きな達成感と自信が生まれ、また次の目標へ挑戦する意欲が生まれてきます。そのくり返しの中で、さらに仕事が好きになります。そうなれば、どんな努力も苦にならなくなり、すばらしい成果を上げることができるのです。」

 『生き方』 第2章より  稲盛和夫:著  サンマーク出版:刊 

 周りが冷たい「不燃性」の人ばかりならば、自ら“燃えて”熱を持つしかありません。
 そのためには、やはり自分のやるべきことは、それが好きになるくらいに全力で打ち込め、ということです。

 動かないと熱が出ない、熱が出ないと動かない。
 その負のスパイラルから抜け出すためには、まず「動くこと」です。

「足るを知る」という生き方


 稲盛さんは、これからの日本人のあるべき生き方について、以下のように述べています。

 私は、これからの日本と日本人が生き方の根に据えるべき哲学を一言でいうなら、「足るを知る」ということであろうと思います。また、その知足の心がもたらす、感謝と謙虚さをベースにした、他人を思いやる利他の行いであろうと思います。
 この足るを知る生き方のモデルは、自然界にあります。ある植物を草食動物が食べ、その草食動物を肉食動物が食べ、肉食動物の糞や屍は土に返って植物を育てる・・・・弱肉強食が掟の動植物の世界も、大きな視点から見ると、このように「調和的な」命の連鎖の輪の中にあるのです。
(中略)
 人間も、この自然のもつ「節度」を見習うべきではないでしょうか。もともと人間も自然界の住人であり、かつては、その自然の摂理をよく理解し、自分たちも生命の連鎖の中で生きていたはずです。それがやがて、食物連鎖のくびきから解き放たれ、人間だけが循環の法則の外へ出ることが可能になった。そして同時に、他の生物と共存を図るという謙虚さも失われてしまったのです。

 『生き方』 第4章 より  稲盛和夫:著  サンマーク出版:刊

 日本は、戦後の荒廃から、工業製品を大量に生産し、国内外に売り込むことで奇跡的な成長を遂げました。
 ただ、その過程で物質的な富を追求するあまり、「足るを知る」心が置き去りにされてしまったのではないか。
 稲盛さんは、自省も込めて、そう述べています。

精進を重ねることこそが尊い


 稲盛さんは、65歳を迎えたとき、仏門に入る決心をします。
 得度式のときには、十ほどの戒律を守ることを誓います。
 しかし、自分にはそれを完全に守ることはできないであろうと正直に述べています。
 自分も含めて、人間とはそれほど愚かで不完全な存在なのだ、と。
 しかし、それで構わないのではないか、と稲盛さんは続けています。 

 戒めを十全に守れなくても、守ろうとする気持ち。守らなくてはいけないと思う気持ち。守れなかったことを真摯に自省、自戒する気持ち。そうした思いこそが大事なのであって、そのような心をもって毎日を生きていくことが、悟りにいたらないまでも、十分に心を磨くことにつながり、救いにも通じる。そのことを私は、得度や修行によって信じることができるようになりました。
 神や仏は、あるいは宇宙の意思は、何事かをなした人を愛するのではありません。何事かをなそうと努める人を愛するのです。なそうとしてなせない、おのれの力の至らなさを反省し、また明日から、なそうと倦まず弛まず努める。そういう人こそを救ってくださるのです。
 守ろう、なそうと努めるだけでも心が磨かれるのか。「イエス」です。それで私たちは救われるのか。これも「イエス」です。つまり心を高めようとする思いや、その行いの過程こそが尊く、それによって心は磨かれているのです。なぜならそれは、仏の慈悲にかない、宇宙の意思に沿う行為であるからにほかなりません。

 『生き方』 第5章 より  稲盛和夫:著  サンマーク出版:刊

 理想どおり実際にできるか、できないか。
 それよりも、理想を求めるその行いの過程こそが大事だというです。

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 今、日本人に何より足りないもの。
 それは、稲盛さんのように周囲の雑音に惑わされず、自分の理想とする生き方を目指そうという気概です。
 本書を通じて、一人でも多くの人に受け継いでいくべき「日本人の原点」が伝わることを願っています。

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